「え?蒼葉さんが?」
出掛けようと準備していた私にかー君からの知らせが。
慌てて外に出てお店へ走ると、蒼葉さんのお店の前に人が集まっている。
「ちょっ、すいません!通ります!」
「あっ月陽ちゃん!大変だよ、蒼葉さんが喧嘩に巻き込まれちゃったみたいで…」
店の前では男二人が言い合いをしていて、近くに蒼葉さんが腕を抑えて座り込んでいる。
喧嘩に巻き込まれたと言う事はこの二人が元凶なんだろう。
目の据わった私はその二人に近付き間に立つ。
「何だテメェ!」
「女は引っ込んでろ!俺達は今…」
「引っ込むのはあんたらだよ」
怒鳴りつける二人の腕を引っ張り頭同士をぶつけさせると、一人は倒れたけれどもう一人の方は頑丈らしい。
頭を抑えながら私を睨みつけている。
「この女っ…!」
「蒼葉さんに謝れ!そして早く退け!それが出来ないって言うのなら」
「言うなら何だ?あぁ?」
「強制退場してもらうだけだよ」
早く私は蒼葉さんをお医者さんに見せてあげたいんだ。
殴り掛かってきた拳を弾いて軌道を変えた私はしゃがみ込んで男の足を払いそのまま尻をついてガラ空きになった鳩尾へ体重を乗せた一撃を踵で叩き込む。
まるで蛙のような声が聞こえたけれど私に関係はない。
「消えろ」
「月陽、もういいからやめてあげな!」
「…蒼葉さん」
「大丈夫だから…こっち来ておくれ」
もう一撃くれてやろうかと思って手を振り上げていた私の耳に蒼葉さんの声が制止を掛ける。
振り向けば困った様に笑って手招きする姿に少し安堵してもう一度男達に振り向き耳元へ顔を寄せた。
「二度とお店に近寄るな。次は無い」
誰にも聞こえないよう囁き身体を震わせた男を睨み付ければよろめきながら逃げる二人を見送って蒼葉さんへ駆け寄る。
抑えていた腕を確認すると折れては居ないけれど痛そうにする姿からしてもしかしたらヒビが入っているかもしれない。
「蒼葉さん、歩けますか?」
「あぁ」
「なら中に入って下さい。お医者様を呼んできますから」
「月陽ちゃん、お医者様呼んでおいたよ!」
「本当?ありがとう!」
私が男達の相手をしていた間にお医者様を呼んでくれた常連さんにお礼を言って、椅子に座らせた蒼葉さんの様子を見てもらう。
診察してもらっている間、荒れた店内を片付けていると騒ぎを聞きつけたのか街の子供たちが手伝ってくれる。
「ありがとうね、手伝ってくれて」
「いいんだよ!」
「俺達いつもオマケしてもらってるからこういう時は助け合いだろ?」
「ふふ、偉いね」
「それにしても月陽ちゃんてとっても強いのね!」
子供たちに囲まれ蒼葉さんの人柄のお陰なんだなとほんわかしていると、一番大きな女の子が目を輝かせて手を合わせていた。
「大人の男の人倒しちゃうんだもの、びっくりしちゃった!」
「あ…あはは」
「月陽姉ちゃんかっこよかったよなー」
「兄ちゃんも大きくなったら月陽ちゃんくらい強くなるんじゃない?」
「いや…俺には無理な気がする」
子どもは無邪気だ。
鬼殺隊である事は隠しているし、怒りに任せて全力で叩きのめしてしまったけれど失敗したなと苦笑を浮かべる。
そう言えば見物人の人もドン引きした顔してた気がした。
蒼葉さんのお店に悪い噂が立ってしまったらどうしようかと片付けをしながら子どもたちの会話を聞いていると、ひょっこりと顔を出した見知り顔に目を開く。
「あれ、村田さん」
「酷い荒れ様だな…どうしたんだ?」
「お店で喧嘩した人が居て…」
「何!?蒼葉さんは大丈夫なのか?月陽さんは怪我…してないよな」
「えぇ、私は全然」
聞けば村田さんは鬼殺の帰りで近くを通ったから食事をして行こうとここへ来たらしい。
疲れている筈なのに子どもたちと一緒になって片付けを手伝ってくれた村田さんに事情を説明したら顔を引きつらせていた。
いや、まぁそうですよね。
「相変わらず君は凄いよな…その力強さ、ほんと前から羨ましいよ」
「これからはもう少し気を付けます」
「いいんじゃないか?別に。蒼葉さん傷付けたんだしそれ相応の報いだと思うし、寧ろその程度で済んで良かったなって思うよ」
「そう、ですよね」
「村田ー!遊べ!」
「村田さんな!?」
手伝ってくれた子どもたちや村田さんのお陰であっという間に綺麗になった店内で座りながらまだ診察の終わらない奥の座敷を見る。
すると手伝ってくれていた男の子が村田さんの背中に飛び付く。
こんな小さい子に呼び捨てにされる村田さん…。
楽しそうにはしゃぐ子ども達にイジられる姿を見ながら診察が終わるのを待っていると、やっと襖が開く音がしてそちらへ振り向く。
そこには腕を固定された蒼葉さんが顔を出していた。
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