一人、誰も居ない蒼葉さんの家で布団に包まった私はべそべそと子供のように涙を流した。
彼女でもない私が、思いを告げてくれた義勇さんに待ったを掛けた私が何をあんな事したんだと自分でも思う。
でも抑えられなかった。
陽縁のことが終わるまでは、そう言った自分が心底憎い。
「っ、う…」
雨音さんと一緒に家に帰るのだろう。
意外と甘えん坊な義勇さんはきっと雨音さんと同じ布団で夜を過ごすんだろう。
私の時のように、もしかしたらそれ以上に大切にあの腕で抱き締めて眠るのだろう。
「っ、ひっ…ふぇ…やだ、やだよ…」
嫌な事ばかり浮かんでは涙を流した私はそのまま眠ってしまった。
朝起きて腫れた瞼を冷やしに台所へ向かう。
まだ蒼葉さんは起きていない。
「……不細工な顔」
鏡で見ても酷い顔に心底絶望しながら顔を洗って手拭いを水で冷やし瞼の上に乗せる。
小芭内さんに偉そうな態度で説教したくせに、結局私はわんわん喚いて逃げ出してしまった。
「あーあ…今度小芭内さんに会ったら謝ろう」
けれどその前に服を買って刀を新しくして貰わなくては。
鉄穴森さんは私の事を覚えてくれているだろうか。
一応手紙はお館様へ出しておいたし、刀鍛冶の里に行く事の許可も降りた。
「夜お店が終わったら里に向かおう」
店の手伝いをして、自分の買い物が終わり次第里へ向かおう。
昨日は頸を飛ばしても折れなかったけれど直してもらうのに早いに超したことはない。
その前に須寿音さんの所へお礼しに行かなくちゃ。
今後の予定をぼんやりする頭で考え、瞼に乗せた手ぬぐいを取る。
「月陽、早いね」
「蒼葉さんおはようございます」
「…身体を流してさっぱりしておいで」
「はい、すみません」
振り向いた私に眉を下げて笑った蒼葉さんは頭を撫でてくれた。
何も聞かないで居てくれるのが今はとても有り難い。
お言葉に甘えてお風呂場へ行き、冷水を浴びる。
(義勇さんの事はとりあえず置いておこう。今の私には恋愛よりやる事があるんだから)
そう言い聞かせた。
義勇さんの事は今でも変わらず大好きだ。
諦めるなんて出来そうにもない。
だけど、こうなってしまったのなら今私に出来ることをやらなくちゃ。
「頑張る!よし!」
頬を叩き幾らかマシになった瞼を開いて気合を入れる。
刀鍛冶の里から帰ってきて、直接じゃなくても義勇さんに謝ろう。
あの人の手を振り払ってしまったし、何より睨んでしまったのだから。
「蒼葉さーん!私着替えたら買い出しに行くので何かあれば紙に書いておいて下さい!」
兎に角今は考えるのをやめる。
考えたって落ち込む事しか出来ないし。
脱衣所で昨日小芭内さんに戴いた着物に袖を通しながら台所に居るであろう蒼葉さんに声を掛けた。
分かったと返事も来たし、この腫れた瞼をどうにかこうにか化粧で誤魔化し買い物に出掛ける。
「最初は服を買って、後は食材買ったらちょうどお店の開店時間には間に合うかな」
袴を買うのは気が引けるけれど、着物では鬼と対峙するのは無理だし動き難い。
変な目で見られるかもしれないなと思いながら呉服屋へ顔を出した。
「すみません、男性用の袴が欲しいのですが」
「男性用ですか?」
「はい。その、弟に買ってあげようと思いまして…背丈も同じくらいなのですが見繕っていただけますか?」
「優しい姉さんだね。そういう事ならこちらはどうです?」
「…わ、愈史郎君のと似てる」
優しそうな店主が愈史郎君のものとそっくりな服を用意してくれて、迷わずそれを買う事にした。
愈史郎君の物は借りた事あるけれど、お揃いは初めてだからなんだか嬉しい。
藍色で余り目立たないし、こっそり兄妹でお揃いにしちゃう。
愈史郎君に言ったらきっと照れながら怒るんだろうな。
「炭治郎に後で自慢しちゃおう」
服のおかげでほんの少し気分が上がった私は蒼葉さんに頼まれた物を買う為に市場へ向かう。
家族って、離れていても心の支えになってくれるんだからやっぱり凄い。
「ありがとう、愈史郎君」
ここには居ない愈史郎君の存在に礼を言う。
そしてそっと髪に手をやり、いつもより軽い頭に眉を下げる。
義勇さんに貰った簪は置いてきた。
「大丈夫、私は…大丈夫」
だから今日も私らしく生きるんだ。
そんな私を後ろから見つめている人が居るなんて気付かず、頼まれた買い物を続け蒼葉さんのお店に帰った。
Next.
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