再生し始めた愈史郎君に、炭治郎がぎょっとしているのを見ながら珠世さんに珍しく怒っている声を背中で聞く。


「貴女と月陽と過ごす時を邪魔する者が俺は嫌いだ。大嫌いだ…!赦せない!」

「愈史郎君…」


ここまで怒った愈史郎君はいつぶりに見ただろうか。
そんな姿を見ていた手毬鬼は嘲るように笑い声を上げると上半身を曝け出すように着物を脱ぎ、更に腕を2組増やした。


「十二鬼月…?」

「遊び続けよう。朝になるまで…命、尽きるまで!」


自分を十二鬼月だと言った目の前の鬼に少しだけ疑問を覚えた。
彼女の瞳には十二鬼月である証が見えない。

目を凝らしてよく見ようと前に出ると、六つに増えた鞠をこちらへ投げ付けてきた。
結局確認もできないまま、勢い良くこちらへ向かってくる鞠をいなしながら矢印を確認する。

もう一体の鬼をどうにかしなくては、この変則的な鞠を捉えることは難しい。
炭治郎は気付いているのだろうかと振り返ろうとした瞬間、手毬鬼と目が合った。


「おやぁ?お前、鬼狩りの癖に隊服を着ていないじゃないか」

「…今は違うの」

「ふぅん。まぁいい、死ね!」


自分の手元に戻ってした鞠を受け止め、もう一度こちらへ投げてくる。
今度は私も狙っているようで、動かない身体に鞭を打ちながら出来る限り鞠を斬り落としていく。


「くっ…」


何とか珠世さんや愈史郎君に鞠を行かせないよう斬り落としていくが、何個か捉えそこない再び二人の頭部が損傷してしまう。

もどかしい。


「炭治郎!矢印は見えてる?」

「や、矢印?」

「愈史郎君、お願い!」

「仕方が無い、俺の視覚を貸してやる!そうしたら鞠女の頸くらい斬れるだろう」


私の願いを聞き届けてくれた愈史郎君は血鬼術が込められた紙を炭治郎の額に貼り付けてくれた。
これで炭治郎も矢印の方向が見えるはずだ。

ふと横を見ると、女性を避難させた禰豆子が顔を出す。
ここで転じなければ、いつまでもこちらが防戦一方になってしまう。


「炭治郎、禰豆子に木の上の鬼を!」

「分かりました!頼む、禰豆子!」


禰豆子は私と炭治郎に強く頷くと、すぐさま走り出した。
私と炭治郎は今標的にされている。
私達に集中している間に禰豆子がそっちの鬼を少しでも妨害してくれたらこちらも攻撃の機会が訪れるはず。


「間違いない。あの方にその首を持っていこうぞ。そこの女、お前もなぁ!」

「炭治郎は向こうへ行って!」

「分かりました!」


矢印で操られた鞠が私達をしつこく追いかけ続ける。
これに当たったら人間の私達など一溜まりもない。

矢印を避け、流れに乗る鞠を斬り何とか場を持たせる。
これ以上珠世さんたちに怪我を負わせたくない。

炭治郎は壁を走りながら私と別方向へ走っていく。
そろそろ禰豆子は矢印の鬼の元へ着いただろうか、そう思った時にまた鞠がこっちへ向かってきて斬り落とす。


「炭治郎!もう少し耐えて!」

「はいっ!」


そう言いながら、水の呼吸を使う炭治郎にどうしても義勇さんを重ねてしまう。
こんな事今考えている暇では無いというのに、心が壊れそうなほど義勇さんに会いたいと願ってしまった。

そのせいで一瞬反応が遅れて、鞠が私目掛けてやってくる。


「…っ、」


刀を構え炭治郎と同じ様に突きの姿勢を取った。
出せるか分からないけど、やらなければ私の頭が吹っ飛ぶ。
私は、生きなくてはいけない。
絶対に。


「月の呼吸 玖ノ型…長月!」


矢印は未だ付いたままだけど、鞠を溶かしてしまえば物理的な攻撃は防げる。
差し迫った鞠に刀を刺し、どろりと溶けた残骸が下に落ちた。


「っぐ…!」


中途半端な体勢で技を出したお陰で反動が来たけれど、とりあえず鞠を防げた事に息を吐く。
炭治郎は大丈夫だろうかと顔を上げた瞬間、地面に降り流流舞いを繰り出している姿に目を奪われた。

さっきはそれで危うく死にかけたというのにまた心臓が力一杯握られたような感覚に陥る。


「…義勇、さん」


手毬鬼と炭治郎達が話しているのをどこか遠くで聞きながら心臓を抑える。
今会った所で前みたいに私の名を呼んでくれる訳ではないのに、顔だけでもいいから見たいと心が叫ぶ。

私は唇を強く噛み締め、女々しい考えばかり浮かんでしまう自分を叱咤して今の状況に集中しなくてはと頭を振った。

その瞬間、禰豆子が炭治郎に向かって吹っ飛んで来るのを視界に入れ直ぐ様近くへ駆け寄る。


「さぁ…二人まとめて、死ねぇ!!」

「させない!」


禰豆子を庇いながら鞠を避ける炭治郎を背に庇い、二人を狙った攻撃を全て斬り落とした。





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