「譜面が完成した!勝ちに行くぞォオ!!」
「はい!」
起き上がった宇髄様と協力して血鬼術を全て弾く。
左腕を斬り落とした宇髄様に続き、指示で飛び上がった炭治郎が確実に妓夫太郎の頸を狙えるよう足を切断する。
続けて身体を捻り頸にめり込む炭治郎刀に自分の刀を重ね力を込めた。
「いけ…ぇっ!」
炭治郎達の声が重なり、堕姫の妓夫太郎を呼ぶ声が辺り一帯に響く。
そしてほぼ同時に二人の頸が宙に舞った。
折角少しだけ解毒されていた身体は再び毒に侵され膝を付く。
妓夫太郎の身体は倒れ、毒が回らないよう呼吸で何とか遅らせようとしていると、近くに居た宇髄様に肩を掴まれる。
霞む視界で捉えたのは妓夫太郎が血鬼術を使う所だった。
「……だめ」
もう死なせたくない。誰も。
「誰も、死なせない…!」
刃がボロボロだけど、きっと大丈夫。
やれる。
やらなきゃ。
「おまっ、何して…!」
「わたしは、負けない」
何でだろう、身体が熱い。
心臓の動きが早い。
このままだと毒が巡るのが早くなってしまう。
だけど、
「月の呼吸、終ノ型改 十六夜ノ舞」
刀身を月の光に当て、舞うように刀を振るう。
妓夫太郎の血鬼術と、私の技がぶつかった勢いに吹き飛ばされ壁に背中を打ち付けた。
それと同時に血を吐き、意識が薄れていく。
「……皆の、ところ…いか、なきゃ」
最早どこから血が流れているか分からない程、至る所から垂れてくるそれを適当に拭い立ち上がる。
助けると誓った。
炭治郎達のような未来を担う子達を守るのが私達上の役目だ。
立ち上がる為に腕へ力を込めるけれど思う様に行かなくて、そのまま横に倒れる。
杏寿郎さんと、友達と約束した。
須寿音さんにも会いに行くと約束した。
死ぬ訳には、いかないのに。
「む!」
「………ね、ずこ」
そんな私の目の前に現れたのはいつもの小さな禰豆子だった。
心配そうに両腕で私の頭を撫でると、火が燃えるような音がして身体が温かい何かに包まれる。
「……毒が、無くなった?」
「んんー!」
「禰豆子…ありがとう」
「うーう!」
禰豆子の血鬼術が体内の毒を消し去ってくれた事に感謝を示して頭を撫でれば顔を横に振って私の身体に抱き着いてきた。
「禰豆子?」
「……んんん」
「…いいんだよ。よく耐えたね。偉いよ、禰豆子。凄く偉い」
しょんぼりと私の服を掴んだ禰豆子は小さな頭を下げた。
きっと、暴走してしまった時の事を言いたいんだろう。
気にしなくていいと柔らかい頬を指で撫でながら褒めてあげれば、いつものような可愛らしい笑顔を浮かべてくれた。
「禰豆子、私はもういいから炭治郎達の所へ行ってきてくれる?」
「ん!」
「…ありがとう」
鬼の頸は斬った。
さっきのような大々的な血鬼術もきっと使えないだろう。
毒の事も禰豆子に任せておけば大丈夫。
ゆっくり息を吐いて、瓦礫に背中を預ける。
前回に続いてまたもや上弦の鬼。
今回は退治出来たけれど、本当に死ぬかと思った。
「刀鍛冶の里に、行かなきゃなぁ…」
右手に持った日輪刀は折れていないけれどボロボロだ。
こんなんじゃいつ折れてもおかしくは無い。
傷や毒は治ったけれど、溜まった疲労感は拭えずまだ暗い夜空を見上げたのに誰かの影に覆われ見えなかった。
「………あれ、小芭内さん?」
「相変わらず満身創痍だな、お前は。何だ、そういう性癖でも持ってるのか」
「はは、おかしいな。解毒してもらったのに幻覚でも見てるみたい」
「全く…仕方のない奴だ」
困った様に眉を下げた小芭内さんに頭を撫でられ、横抱きにされる。
あれ、これ幻覚じゃない?
「え、えぇっ…どうしてここに小芭内さんが」
「救援に駆け付けたがどうやら終わったようだな」
「……遅いですよ」
「悪かったな」
珍しく素直に謝った小芭内さんが優しい目で私を見下ろす。
心地いい揺れが段々と眠気を誘い、ゆっくりと瞬きをすれば歩みが止まった。
「…月陽」
「……は、い」
「今はゆっくり休め。良くやった」
甘やかすような、優しい響きを持つ小芭内さんの声に安心してゆっくりと意識を手放す。
私が力尽きるまで鍛錬していた時、愈史郎君がこうしていつも抱き抱えて帰ってくれた事を思い出した。
普段は皮肉交じりな癖に、私が眠る直前で意識があるかないかの時ばっかり優しく声を掛けてくれる。
やっぱり、小芭内さんは落ち着くなぁなんて思いながら眠りに落ちた。
起きたら小芭内さんにお礼を言わなくちゃ。
Next.
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