ふと目が覚めた。
目を開いて辺りを見回せば気を失った場所から少し離れた外に居た。

何が起きたのかは分からない。
まだ毒が残っているのか痺れも残ってる。

でも、


「まだ、死んでない…っ」


どうして死ななかったのかは分からない。
痺れてはいるけれど動けない訳では無い。

もしかして誰かが解毒してくれたのだろうか。


「…月陽」

「す、ずね…さん…?」

「良かっ、た…良かった…!」


ぎゅう、と相変わらず豊満な胸に包まれ抱き締められる。
涙をぼろぼろと流しながら私の名前を呼ぶのは間違いなく須寿音さんだ。


「ど、して…ここに…」

「友達だろ?宇髄って人が教えてくれたんだ」

「…宇髄、様に…」

「こんなにボロボロになって…っ」


血を吐いたせいか、尚更血に濡れた服を見て更に強く抱き締められる。
須寿音さんの事も助けてくれていたんだ。

良かった。


「須寿音さん…私、そろそろ行かなきゃ」

「……やだ」

「……ご、」

「って言っても行くんだろ」


須寿音さんの華奢な肩を押せば困った様に微笑まれ、相変わらずこの人は美しいなと思う。
強くて、美しい人。


「約束して。また、会いに来て」

「…はい」

「冨岡さんも、家の店の子も月陽の記憶が無い理由も教えて」

「分かりました」

「約束、破ったら許さないよ」


唇を噛んだ須寿音さんに笑い掛け頬を撫でる。
こんなに私を想ってくれる友だちをこれ以上泣かせちゃいけない。

どうやら外は嫌に静かだし、早く行かなくちゃ。


「須寿音さん、早くここから逃げて下さい。そこの奥からこの道の反対側に出られる扉があります。それ以降は貴女の方が裏道をご存知でしょう?」

「…分かった」

「ちゃんと、日を改めて会いに行きます」

「約束だからね!」


小指を握って、度々後ろを振り返りながら走り去っていく須寿音さんを見送り近くに置いてあった刀を握る。
何やら妓夫太郎が誰かに話し掛けている声がするし、誰かが戦っている音もしない。

嫌な予感がして思わず手が震えるけれど、宇髄様以外の気配が動いている事は分かった。

音や気配を出来る限り消して、そっと店の中から外の様子を伺う。

妓夫太郎はどうやら炭治郎に話し掛けているらしい。
妹は屋根からそれを見下ろしている。
その視界には瓦礫に埋まった善逸も入っているだろう。

となればもう一人。


「…伊之助」


一番遠くで倒れていた伊之助に近寄り息を確認する。
余りいい感じの呼吸ではないけれど、しっかり止血の為の事はしているらしい。

中に来ていた服を脱ぎ引き裂いて伊之助が斬られた場所をキツく結ぶ。


「伊之助、動ける?」

「……当たり前、だろ…」

「今はまだ動かなくていい。合図をしたら動く準備をしていて」


無言で頷いた伊之助の頭を撫で、少しずつ気付かれないよう妓夫太郎と距離を詰めていく。

善逸も必死に瓦礫から抜け出そうとしている。


「月の呼吸、弐ノ型 如月」


息を吸って自分の気配を遮断する。
この技を使ってる最中は息が出来ないけれど、善逸が抜け出す手伝いくらいならやれるはず。

音も無く女鬼の視界に入らないよう善逸へ近寄り一番邪魔な瓦礫を梃子の原理を使い何とか動かす。


「…善逸、後少し頑張れる?」


物陰に隠れながら善逸の手に触れればぎこちなくだけれど握り返してくれた。
本当に頼りになる子達だと思う。

善逸が居る場所から移動して、妓夫太郎に勘づかれないよう距離を取りながら炭治郎と禰豆子を救出する機会を伺った。

急いては事を仕損じる。
指先を一本、二本と折る妓夫太郎に拳を握り締めながら耐えた。

きっと炭治郎は私の匂いに気が付いてくれているはずだ。
確信はないけれど。

がり、と香袋を引っ掻いた炭治郎にいつでも飛び出せるよう抜刀の構えを取った。


ふと見えた宇髄様の離れた腕に心が締め付けられる。
でも、宇髄様は奥さん達を悲しませるような事はしないと信じてる。


「俺は…」

「!」

「俺は……準備してたんだ」


ゴッ、と鈍い音がして妓夫太郎が崩れ落ちる、
今だ。

妓夫太郎の頸に刀を当てた炭治郎に私も一歩を踏み出す。
善逸も抜け出す準備は出来た。


「全集中、月の呼吸 伍ノ型…皐月!」


物陰から飛び出し、自分の血を使った血鬼術で炭治郎を襲う妓夫太郎の攻撃を斬る。


「月陽さん!」

「気を抜かないで炭治郎!このまま押し切る!大丈夫、皆がいる!」


そう、皆居るんだ。
妓夫太郎の手助けをしようとした堕姫の帯を善逸が全て止めてくれる。
それに宇髄様だって居る。

動いたせいで少しマシになった毒は巡り口から血が流れた。
でもそんなもので諦められる訳がない。
私達は、絶対に勝たなくちゃいけないから。

皆が居れば勝てる。





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