「禰豆子…!」


頭を蹴って粉砕した禰豆子の様子がどこかおかしい。
体中の筋を浮き立たせ威嚇するように唸り声を上げ鬼を睨み付けている。


「ゴホッ、ゲホッ…っ、ゴホ」

「炭治郎…少しずつでいい。しっかりと息を吸って吐いて。貴方は私が守るから、回復に集中しなさい」


血を吐きながら膝を付く炭治郎の背を撫で横たわらせる。
炭治郎の前に立ち、攻撃を仕掛ける禰豆子に続いて踏み込んだ。


「二人掛かりで来たって無駄よ!」

「くっ…待って禰豆子!」


帯の攻撃をいなし、鬼の頸を狙うけれど禰豆子の動きが読めない。

連携を取りたいのに禰豆子は私の言葉に反応をしてくれなかった。
このままでは間違って斬ってしまいかねない。


「お願い、禰豆子!私の話を聞いて!」


執拗に蹴りで鬼を狙う禰豆子を帯から守るのが手一杯で、私が攻撃を仕掛けることが全くできない。
蹴りばかり繰り出す足に狙いを定めた鬼は遂に禰豆子の足を切断した。


「っ、」


片足が無くなった禰豆子の顔と胴を狙う帯を弾き返し無理矢理身体を押入れる。
今は鬼だけれど、だからと言って禰豆子が傷付いていいわけではない。


「邪魔なんだよ不細工!」

「知ってる、よっ!」

「…!ほら、足手まといが来たよ!」


腹に日輪刀を突き刺しそのまま炭治郎との距離を置こうと押しやると、いつの間に背後に居たのか足を振り下ろした禰豆子と共に弾き飛ばされた。
帯と私の間に入ってくれた禰豆子のお陰で四肢のどれも失わなかったけれど、少しでも彼女を衝撃から守る為にその身体を包み込む。


「っが、は!」


私達は瓦礫に埋もれ、背中を打ち付けた私も呼吸が一瞬出来なくなり咳き込んだ。
禰豆子は大丈夫だろうか。
荒くなった息と痛みを必死で抑えながら腕の中に居る禰豆子の頭に触れる。


「禰豆、子…ごめんね、っ」

「………」

「すぐ、起き上がるからっ…先に出て…」


瓦礫を持ち上げ禰豆子が出る隙間を何とか開けると、ずりずりと這い出る音が聞こえのし掛かる重さに耐える。
一瞬しか見えなかったけれど禰豆子は足と腕と胴を切断されていた。

何とか禰豆子が再生するまでの時間を稼がなきゃいけない。


「っ、がん…ばる!」


義勇さんに約束した。
蒼葉さんにも帰ると約束した。

骨は折れてない、心も折れてない。
私は生きて帰る。


足に力を込め、自分も瓦礫から這い出た私の前には口枷を外した一回り大きい禰豆子が鬼の顔を何度も踏みつぶす光景があった。


「…禰豆子、待って。止まって!」


いつもの禰豆子じゃない。
身体は大きくなり、切断されていたはずの四肢も繋がっている。

それに、あの子は鬼相手でも無闇矢鱈に攻撃するような子じゃない。

禰豆子の名前を呼びながら片手を出した瞬間、鬼を勢い良く蹴飛ばした。

駄目だ、あそこには人が居る。


「そっちへ行っちゃ駄目!」


勘でしかないけれど、今の禰豆子は人の側に寄っちゃいけないと思った。
急いでその背を追い廓の中へ入ると腕から血を流した遊女に襲い掛かっている。


「だ、駄目…だめだよ禰豆子!」


涎を垂らし襲い掛かる禰豆子にしがみつく。
人を喰ってしまったら、私は…

私は禰豆子を斬らなくてはならない。


「お願い禰豆子!止まって!貴女を斬りたくない!」

「ガァァァァ!!」

「貴女が人を襲ったら、炭治郎まで危なくなるんだよ!そんなの嫌でしょ!?」


禰豆子の様子に遊女達は身体を震わせ私達を眺めている。
力が強過ぎる。
壁に私を何度も打ち付け離そうとする禰豆子に意地でもしがみついた。

このまま手を離してしまえば炭治郎も勿論、二人を信じた鱗滝様や義勇さんまでもが取り返しのつかない目にあってしまう。

足に力を込め、私の腕を禰豆子の口に噛ませる。

少しでいい、血を飲んで落ち着いてほしい。


「お願い、お願い…禰豆子」

「禰豆子!!耐えろ!」

「たん、じろう…!」

「すみません月陽さん!」


私の腕を禰豆子から引き剥がした炭治郎は口元に日輪刀を代わりに差し込み抑え込む。
けれど鬼の力には男の炭治郎でさえ敵わない。

きっとたくさんの血を流したから余計飢餓状態になってしまっているんだろう。


「ヴアァアア"」

「禰豆っ…!」

「炭治郎!」


炭治郎がどんなに呼び掛けても反応をしない禰豆子はそのまま2階に突き抜けた。
炭治郎と禰豆子を追って飛び上がり、その場に居た人を避難させ手伝おうと手を伸ばす。

けれど気配が近付いてきたのに気が付いた私は刀を構えて襲い掛かる帯を斬り伏せ、今度こそ被害が出ないよう帯を地面に纏めて突き刺した。


もう一つ、いや。
何人かもその後に続いて来ている。

ならば私はこれ以上の被害を増やさない。
あの時のような失敗はしない。

ふわ、と風が吹いて私の横を通り過ぎる。


「宇髄様…」

「遅くなったな、月陽。竈門達を庇ってよく持ち堪えた。だが気を抜くなよ」


ぽん、と優しく頭を撫でた宇髄様はあの頃のような笑みを私に向けてくれた。



Next.





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