「炭治郎!!」


鬼の気配を辿り着いた先では炭治郎が息を切らしながら上弦の鬼と対峙していた。
刀を抜き鬼の背後を狙い、横へ薙ぎ払う。


「ちっ…次から次へと邪魔しやがって…」

「炭治郎、よく耐えたね。呼吸を整えなさい」

「月陽さんっ…」


息を切らした炭治郎の近くに寄り背中を撫でる。
女の鬼の瞳には上弦の陸と書かれていて、宇髄様の予想は当たっていたんだと心の中で思う。

上弦相手に私は終の型を使えない状態。
猗窩座までの強さは無いにしてもここで人を守りながら戦うには不利な状況だ。


「!」


不意にもう一つの気配がやってきて帯の様なものが鬼の体内に吸収されていく。
更に禍々しい気配を帯びた鬼はブツブツと何かを呟きながら嬉しそうに両手を頬に当てている。


「あんた、そこの鬼殺隊でもない女。お前は何だ?もしかして月の呼吸の持ち主?」

「…お前と話すことなんか何も無いよ」

「こっちに来た柱もお前も倒せばあの方に喜んで戴けるわ…」


鬼は私を指差し帯を取り込みながら標的を変えたようだ。
炭治郎から私に変わったのなら構わない。
疲れている炭治郎より今来たばかりの私の方が体力はある。

一歩踏み出し鬼へ攻撃を仕掛けようと構えた時、炭治郎でも鬼でも、宇髄様達でもない素人の足音が耳に響いた。


「おい、何をしているんだお前たち!!人の店の前で揉め事起こすんじゃねぇぞ!」

「…うるさいわね」

「っ、まずい!早く下がって!」

「建物から出るな!」


睨めつけるように私達へ向かって声を掛けた男性を視界に入れた鬼に炭治郎が庇うように立つ。
しかし鬼の気配は男性だけに向けられた攻撃をしては来ないらしい。

辺り一帯を切り刻む気だ。


「月の呼吸 拾弐ノ型…師走!」


少しでも攻撃を人のいない場所へ軌道を変えなくてはならない。
しかし無数の帯から放たれた攻撃は予想以上に多く、私が立っていた場所から後ろ以外の周りへ甚大な被害が出てしまった。

炭治郎の方も庇いきれなかったのか男性の腕が落とされている。

庇った所の店から顔を出していた遊女は目の前で起きた事態が飲み込めず尻をついて呆けてしまっていた。


「早く店の中に戻って!次は庇いきれない!」

「…ひ、ひぃっ!」

「くそっ…」


終の型が打てればもう少し被害を抑えることは出来たかも知れない。
猗窩座との戦いがここにまで影響してしまっている。

庇えなかった店からは悲鳴が聞こえ、悲惨な状態になっていた。


「炭治郎、ここは私が引き受ける!一度引いて宇髄様を連れてきて!」

「この程度も捌けないなんて弱い女。立派なのは顔だけね。興が冷めた。アンタは柱の後に喰ってやる」

「待て」


つまらなそうな顔をした鬼が私達へ背中を向けると、炭治郎らしかぬ声色に追うつもりでいた私は足を止めた。


「許さ…ないぞ。こんなことをしておいて」

「何?まだ何か言っているの?もういいわよ不細工。醜い人間に生きてる価値無いんだから。仲良く皆で死に腐れろ」

「っ、」


炭治郎と鬼とのやり取りの中に、女性が男性の名前を必死に呼び掛けながら助けを求めている。
こんな惨事の中、男性を救う為に逃げ出さずそばに寄り添い続けている女性を見上げ唇を噛んだ。

刀を構え鬼へ向かい頸を狙う為に屋根へ飛び上がった瞬間、私より先に炭治郎が鬼の足首を掴み刀を横薙ぎに振るう。

いつもと雰囲気の違う炭治郎に驚きながら斬撃を避けた鬼へ追撃するけれど回避に専念され片腕しか切れなかった。


「失われた命は回帰しない。二度と戻らない」

「…炭治郎、血がっ」

「生身の者は鬼のようにはいかない。なぜ奪う?なぜ命を踏みつけにする?」


目から流れる血を拭おうと頬に触れると高熱が出た時の様に炭治郎の体温が上がっている。
大丈夫かと言おうとした私の手を優しく解きながら鬼へと語りかけ続けた。

炭治郎の纏う雰囲気がどこか違う。
しかし、そんな事はお構いなしと拳を屋根に叩きつけた鬼は狂気を滲ませた顔で笑った。


「血鬼術、八重帯斬り」

「っ、何してるの炭治郎!」


逃げ場を無くすよう交叉した帯に構わず突っ込む炭治郎に声を掛ける。
急いでその背中を追った私が見たものは、陽を纏うような斬撃を繰り出す炭治郎だった。

帯は灼け斬れ、再生が追い付いていない。

今までに見た中で一番と言っていい程炭治郎の動きは格段に早く鋭くなっている。
けれど、


(呼吸をしてない…?)


少なからず技を使う時に呼吸音は小さく聞こえるはず。
息を吸って吐く。通常とは違う呼吸を用いて私達は身体を強化して戦っているのに、今の炭治郎からはその音が聞こえない。


「息をしなさい!」

「っ、ゴホ…!」


鬼の頸をもう少しで斬り落とす所まで行った炭治郎の羽織を引っ張り後ろへ退かし間に着地した。
炭治郎は咳き込み恐らく酸欠を起こしている。


「惨めよね。アンタ達の頸を斬ってやるわよ」

「させない」


襲い来る帯の刃を斬り払い一歩踏み込もうとした瞬間、鬼の背後から禰豆子が迫っていた。





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