「それで、お前はこれからここに居るんだろうな」


今まで黙ってやり取りを見ていた愈史郎君が私に鋭い目線を送りながら和やかな雰囲気を両断した。
珠世さんも今回ばかりは何も言わずに私を見つめている。


「…鬼殺隊には、戻りません」

「当たり前だ」

「本当に、それでいいの?」


愈史郎君と珠世さんで正反対な返答に思わず苦笑してしまう。
なんと言うか、このやり取りがとても懐かしい。

炭治郎もどちらかと言うと珠世さんに同意なのか私を見つめている。


「今、鬼殺隊に戻ってもまた陽縁が何かするかもしれないという可能性がある以上私が戻ると言う選択肢はないです」

「そうだけど…月陽、貴女はここに留まるつもりもないのでしょう」

「は!?お前まさか一人で旅に出るとか言うつもりじゃないだろうな!」

「愈史郎、落ち着きなさい」

「はい!珠世様!」


私と珠世さんの言葉に食らいついた愈史郎君が詰め寄ってくる。
予測はしていたけれど、やはり実際にあの圧力を向けられると簡単にそうですとはとても言い難かったから珠世さんが待ったをかけてくれて助かった。

私の隣に座りパタパタと足を動かして遊んでいる禰豆子の髪を撫でながら話を続ける。


「私は各地を転々としながら鬼を個人的に討とうと考えてます。陽縁について調べ無くてはいけないし、何より私は鬼殺隊に所属していた身。この刀を弱き者を守る為に振るいなさいと両親から教わりましたから」


きっとこれだけは、珠世さんに言われようと愈史郎君に言われようとも変わらない私の気持ち。
鬼殺隊に所属しているとされなくなった今でも、私が眠っていた間にもきっと鬼に襲われた人達が居る。

身体は恐らく鈍ってしまったかもしれないけれど、やれる事はやりたい。


「お前は、いつもそうやって心配ばかりを掛ける」

「愈史郎君」

「俺が鬼でなければ、心労で死んでいてもおかしくはないぞ」


意外にも私を抱き締めてくれたのは愈史郎君だった。
抱きしめる強さが痛いくらいだけど、それ程に私を想ってくれている事もよく分かる。


「っ!伏せて!」


愈史郎君の背中に手を回そうとした瞬間、鬼の気配がして声を上げると球体のような物が壁を壊した。
竈門兄妹も、愈史郎君も珠世さんも無事な様子で一先ず息をつく。


「月陽、使え!」

「!」


珠世さんを守りながら、箪笥から日輪刀を投げ渡してくれた愈史郎君を見ると少しだけつり上がった目つきで睨まれた。
彼が言いたいことは何となく伝わった。
多分無理するなよって言いたいんだ。

無理しなきゃいけなさそうな雰囲気だけど、私も私で固まった身体が思うように動かないのは事実。


「炭治郎!戦える!?」

「はい!」


愈史郎君に借りた袴に日輪刀を二本差しながら炭治郎へと声を掛ければ頼もしい返事が聞こえて、私も自分の握力を確かめて頷く。

本調子のほんの字も出ていない状態だけど、日輪刀を抜いた瞬間身体は覚えていたようで感覚を少しずつ確かめる。

深く深呼吸をすれば全集中の呼吸も使えそうだ。

だけど。


「炭治郎、申し訳無いけど一つ言っておくよ!」

「はい!え!申し訳無いけど?!」

「私は正直…使い物にならない!」

「えぇぇぇぇ!!?」


禰豆子を庇いながら絶叫した炭治郎には本当に申し訳ないけれど、今の身体じゃ技を出せても2回だ。
必要な時に必要な事をする為には私一人で鬼を相手にする事は出来ない。

手毬をつく鬼と、さっき会話していた筈のもう一人の鬼が居る。

禰豆子に女性の救助を頼んだ炭治郎は刀を構え屋敷を破壊する鞠に応戦している。
愈史郎君の頭が吹き飛ばされ、私も鞠を斬りながらそちらへ振り向く。


「愈史郎君!」

「愈史郎は大丈夫です、月陽と炭治郎さんは目の前の鬼に集中して下さい」

「くそっ…」


もっと私が早く目覚めていれば。
義勇さんと共にいた時の私ならばあの鬼二体なんて倒せたのに。
思うように動いてくれない身体に苛立ち唇を強く噛む。

鬼とは言え、愈史郎君に怪我をさせた鬼を許さない。


「耳に花札のような飾りの鬼狩りはお前じゃのう」

「!」


手毬を持った鬼は炭治郎を見ると口角を上げて喜んだ。
これで終わりだと告げながら鞠を振り被った鬼は強烈な勢いでこちらへ投げてくる。


(あの鞠の動きはもう一体の鬼の仕業か)


炭治郎を補佐しながら鞠を珠世さんに近付けないよう斬り落とす。
必死に食らいついている炭治郎が突きの姿勢を取り、真っ直線に向かってきた鞠を突き刺した。


「水の呼吸…」


やはり義勇さんの動きとは違うけれど、水の呼吸を見るとどうしても思い出してしまう。
しかしそんな事を考えている暇は今の私にはない。

頭を振って思考を切り替えながら愈史郎君が再生するのを待った。





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