1 なんてことの無い日常は、 なんてことの無い一つの出来事で変わってしまう。 不変を望むか、 変化を望むか、 それは人それぞれ。 もし、 普段人として接していたものが 人でなかったら。 そんな事考える人間などほんの一握りだろう。 もし、仲良くしている人が 宇宙人だったら。 もし、好意を抱いている人が 人ではない何かだったら。 【滴り落ちた一滴】 「……ミスコン?」 「うん。雪無ちゃん、優勝候補だって言われてるんだよ」 昼食を中庭で取りながら雪無は果生と話していた。 とは言え殆どが果生が話し掛けてばかりではあるが。 「ふふ、友達として鼻が高いなぁ」 「そんなこと無いよ。私なら果生ちゃんに投票する」 「わ、私?」 「うん。果生ちゃんは可愛いよ」 もぐ、と厚焼き卵を口に頬張りながら頷き果生の顔を見つめれば頬を赤く染めて俯いた。 箸を置いて果生の眼鏡を退けると大きな瞳とそれを縁取る長いまつ毛がよく見えるようになる。 「…私、自分の顔嫌いなの」 「どうして?」 「ねぇ、雪無ちゃん。放課後お家にお邪魔してもいいかな」 「!」 困った様に笑った果生に首を傾げるも、放課後の誘いに雪無は目を見開く。 友達と呼べる相手が居なかった雪無にとって初めての事に無言で首を縦に振ると、その様子を見た果生は顔を綻ばせた。 「じゃあ、一緒に帰ろう」 「うん」 「学校が終わるの楽しみだね!」 そう言った果生に頬を染めてまた一つ頷いた。 次は選択科目の授業があるので果生とは教室で別れたが、雪無は放課後の約束にずっとそわそわしながら窓の外を見る。 (…あ、伊黒先生と冨岡先生だ。煉獄先生も居る) 向こうも雪無に気が付いたのか、三人がこちらを向いたのを確認すると辺りを確かめそっと手を振る。 普段ならこういう事はしないが、果生との約束があった雪無は浮かれたまま薄く微笑んだ。 煉獄は大きく手を振り返し、冨岡は小さく手を上げる。 伊黒は何故か顔を隠して下を向いていたがそれでも良かった雪無は次の選択科目を受けるべく前を向く。 ふと胸元で振動を感じ、まだ教師の来ていない内にとアプリを開くと差出人は伊黒だった。 「…………」 "余り可愛い事をするな" と短く書いてあり、もう一度三人の方を振り向くとそこには伊黒だけが雪無を見ていた。 一気に顔が熱くなった雪無は自分の手で顔を仰ぎながら、そっと返信を返す。 "今日、友達から放課後のお誘いをしてもらいました" と送りケータイを胸元に戻した。 その数秒後には教師が扉を開け、授業開始のベルが鳴る。 また胸元でケータイが震えたが、授業が始まった為教師が扉を出た後見ようと今は真剣に目の前の板書を移し始めた。 集中してしまえば50分などあっという間で、次の分の予習をする為に付箋を貼り胸元からケータイを取り出し画面を開く。 新着メッセージ2件と書かれた画面を操作すれば伊黒と冨岡からの連絡だった。 "良かったな" と、伊黒。 "良いことでもあったのか" と冨岡から来ていた。 二人へ返事を打ち、もう一度ケータイをしまう頃別科目で移動していた生徒達が教室へ戻ってくる。 「雪無ちゃん、ただいま」 「お帰り」 「あれ、何だか嬉しそうだね?」 「…そうかな」 「うん!」 雪無自身より嬉しそうな果生に頷かれそっと胸元にあるケータイに触れた。 その後残りの6限も受けた二人は雪無の家に向かう為に閑静な住宅街を歩きながら帰る。 「…雪無ちゃんのお家、凄いね」 「神社だからそう見えるだけだよ」 「そっか…あ、あのね、雪無ちゃん」 「主、手をお離し下さい」 階段下から神社を見上げた果生の手を引こうとした雪無の手は厳しい顔で現れた蒼によって遮られる。 「…蒼?」 「この者、ただの人ではありません」 「あの糞女と似たような匂いしてんぞ」 「……っ」 いつの間にか雪無の側に居た赫も眉を寄せ果生を睨んでいる。 その視線に俯いた果生を無表情で見つめた雪無は登っていた階段を降りて頬に触れた。 「顔を上げて」 「っ、でも」 「赫、蒼。非礼を詫なさい。果生ちゃんは私の友だちだよ」 「しかし!」 「これ以上あなた達を叱りたくないの」 「……主」 赫と蒼からの視線を遮った雪無は二人を叱りつけるように言い聞かせる。 初めて自分達に向けられた視線にたじろいだ蒼は赫と顔を見合わせ果生の前に膝を立てた。 「…無礼をお許しください」 「悪かった」 「そ、そんな…」 「果生ちゃん、私に話したい事があるんだよね」 頭を下げた二人の頭を撫でた雪無はゆっくり振り向いて再び手を差し出す。 「…うん」 その手を取った果生は涙を浮かべながら雪無と共に階段を登った。 戻 |