アヤカシモノ語リ | ナノ
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『ねぇねぇ知ってる?藤襲山って凄く綺麗なんだって!』

『何、お前行きたいの?』

『あたしも行きたい!』


一年中藤が咲き誇る山、藤襲山。

そこは日中人が集まり、季節に関わらず花見を嗜めると評判のスポット。

しかし、その美しい光景は日中にしか拝めない。

夕方から朝日が登るまで、立入禁止区域となるからだ。

冗談半分で行き、帰ってきた者を知っていた男性の1人が、八重歯を見せながらこう告げる。


『ま、心霊スポットだとか何とか言ってるけど大丈夫だろ!遊びに行こうぜ!』


それが最期の遊びになるとは知らず。



【餓鬼】


「おい、雪無。こいつらどうにかしてくんねぇ?」

「そ、そう言われましても…」


妖退治用のスーツを着た宇髄が下校しようとしていた雪無に声を掛けると、近くに居たらしい冨岡と伊黒が飛んで来てまるで悪い物から守る様に立っていた。


「宇髄の車には乗るな」

「こいつの車に乗ったら孕むぞ」

「おい伊黒、お前はアホか?普段の知的そうな感じどこ置いてきたんだよ」


今日は元々指令によって宇髄との見回りの日だった。
しかし車に乗ろうとした所、二人が出てきたことによって足止めを食らう羽目になってしまう。


「宇髄の車に乗ったら危ない」

「冨岡お前そればっかりな。俺はお前らと違って手出さねぇよ」

「いいか雪無、何かあったら防犯ブザーを鳴らせ。常に携帯は俺と繋いでいろ」

「え、何?俺不審者扱い?お前ら自分達のこと棚に上げ過ぎだろ」


二人の勢いに無言で話している方向へ行ったり来たりと視線を彷徨わせる雪無は戸惑うように宇髄を見上げる。


「あーもうめんどくせぇな」

「ひゃ!?」


冨岡と伊黒を力づくで退けると、雪無を抱き抱え一瞬にして車に乗せ鍵を掛ける。

窓の外では未だに伊黒が何かを言っているが、生憎窓が閉まっているため聞き取りづらく雪無が首を傾げた。


「おい!宇髄!」

「分かってるよ。家に帰ったら雪無にでも電話貰え。じゃあな」


耳がいい宇髄は伊黒の声を拾っていたのか、僅かに窓を下げるとアクセルを踏んでそのまま校内を出る。


「あ…冨岡先生、伊黒先生!さようならっ!」

「おーおー、律儀だねぇ」


思い出したように二人へ向かって頭を下げた雪無に宇髄は片手でハンドルを握りながら頭を撫でる。
伊黒の告白されていた場面を一緒に目撃して以来、それなりに宇髄と話すようになっていた雪無は小さく微笑んだ。


「挨拶は礼儀ですので」

「お前のそういう所好きだわ」

「ありがとうございます」

「しかしまぁ、お前的にはどうなんだ?」

「なんの事ですか?」


雪無の家に向かう道を進みながら宇髄と話をする。
運転する宇髄の横顔を見て首を傾げ主語のない会話の内容を問う。


「伊黒と冨岡だよ。どっちがいいとかねぇのか?派手に決めてやったほうがいいんだよ、あいつらには」

「……そう、ですよね」

「ま、とは言えお前恋愛のれの字も分かってなさそうだもんな」


神社の駐車場に止めた宇髄は頬杖をつきながら雪無を見れば俯いたまま首を縦に振る姿を見て苦笑する。


「さっさと着替えてこい。俺はうるせぇ奴等も居るしここで待ってるからよ」

「分かりました」


返事をして急いで車を降り階段を駆け上がっていく姿を見つめながら胸ポケットに入っている煙草を取り出し火をつける。


「まぁ別に、伊黒か冨岡じゃなくちゃならねぇ理由なんてもんも無いんだけどな」


律儀にどちらかを考えている雪無に独り言を呟く。
これから大学へ進学してからでも、在学中の生徒でも彼女なら引く手数多だろうと言う事を宇髄は知っている。

最近雪無を気に入ってるらしい時透兄弟でもいいと煙を吐き出した。


「あの二人のどっちかと付き合ったら将来決まったようなもんだわ」


冨岡と伊黒のどちらと付き合っても、雪無が余程嫌がらない限り手放す事はないだろうと想像して思わず苦笑いを浮かべた宇髄は携帯を取り出し届いているメールを開いた。

そこには須磨と差出人の名前が表示されており、本文には気を付けてくださいねの文字。


「宇髄先生!お待たせしました!」

「早いじゃねぇか」


大急ぎで着替えてきたのか、階段の途中で大きく飛んだ雪無はタバコを吸っていた宇髄の前に着地した。
辺りに人は居ないが見られていたら何者だと疑われかねない雪無の行動を気にすることも無く、灰皿へタバコを押し付け再び車に乗り込む。


「んで、どこら辺に行くんだ?」

「藤襲山に餓鬼が集まっていると大天狗様から聞いたので、そこに」

「了解」


藤襲山は一年中藤が咲き誇る不思議な山。
しかし、見た目とは裏腹に妖が集まりやすいという事もあり日中以外は出入り禁止になっている。
雪無の先祖がそこの地主に忠告した為、そういう方針が取られているが稀に肝試しと称して藤襲山に入る若者が居ると言う。


「定期的に浄化はしているのですが、面白半分で来る方も多いみたいで」

「どの時代にもあるんだよな、決まりを破るのが楽しい時って」

「止めようも無い以上、遊びで済めばそれが一番なのですが」

「派手にビビらせんのもありだろ、そういう奴等には」

「そうなのですか」


鼻で笑った宇髄に雪無は理解ができないのか困ったような視線を投げかける。
真面目な雪無には、一度痛い目をみさせるという事が理解できないのだろうと宇髄は思った。
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