1 夢を見た。 祖父と祖母と一緒に暮らした頃の自分の夢を。 「雪無」 「おじいちゃん見て!小さな人が居るよ」 「お前にはソレが見えるんだな」 「あ…うん。お母さんに気持ち悪いって言われたから、他では言ってないよ!」 小さい頃から変なものが見えた。 害がありそうなものでも、ただそこら辺を彷徨っているナニかでも。 学校でも、母や父にもこれを言うと気味悪がられた。 叩かれて、蹴られてこれは言っちゃいけないものなんだとやっと気がついた。 学校でも友達は出来なかった。 怖くて話し掛けられなかった。 そんな時、私はついに両親に見捨てられ祖父と祖母の元で暮らすようになった。 そうして今の私がいる。 【産屋敷耀哉】 目が覚めたら冨岡先生がずっと手を握ってくれていた。 涙を流しながら起きた私に心配そうな眼差しで見てくれている。 「嫌な夢でも見たのか」 「…いえ、祖父の夢を」 「お館様が雪無に会いたいと言っていたが無理そうならまた今度に…」 「大丈夫です。懐かしかっただけですので」 流れた涙を拭い、遠目から見た事しかなかったお館様、基学園長にお会いすることに決めた。 今後も鬼殺隊との連携は私も取っていけると有り難い。 今の妖を一人でどうにか出来るほど私に力はないから。 「分かった。なら今呼んでくるからここで待っていろ」 「いえ、私が行きます」 「…歩いて大丈夫なのか」 「はい。体力も回復しましたし」 そんな会話をしていたら医務室の扉がガラリと音を立てて開いた。 冨岡先生と私でそちらへ振り向くと、綺麗な髪を靡かせて学園長がひょこりと顔を出している。 茶目っ気たっぷり過ぎる学園長の行動に思わず私と冨岡先生が固まるとふふ、と上品な笑い声をあげた。 「雪無がそろそろ目を覚ます頃かと思って来てしまったよ」 「…煉獄や、伊黒は…?」 「杏寿郎と小芭内は其々任務を与えておいたから出かけていると思う」 「……はっ!がっ、学園長!わざわざ申し訳ありません」 立ち上がって一礼をした冨岡先生につられるように私もベッドで正座しながら頭を下げる。 何というか殆ど話したことなど無いというのに、この方の言葉には従いたいと思えてくる。 「楽にしていい。きちんと話すのは初めてだね」 「は、はい!北条院雪無と申します」 「うん、知っている。北条院さんの所のお孫さんだろう」 さっきまで冨岡先生が座っていた椅子に案内をされ座った学園長は私に懐かしいと微笑む。 北条院さんと言う事は祖父と面識があるのだろうか、そんな事を考えている私の思考なんてお見通しなのか一つ頷いてくれた。 「私が鬼殺隊を立ち上げたのは雪無、君のお祖父様とお会いしたからなんだ」 「祖父と…」 「誰にも知られず、知らない誰かの命を自分の全てを持って守っていたお祖父様に私は助けられた」 ありがとう、と私に向けて言ってくれる学園長はとても穏やかな声だった。 祖父が学園長と面識があっただなんて一言も聞いたことはない。 「本当はお家にお邪魔したかったのだけれど、家には来るなと言われていてね」 「えっ」 「私の大事な孫に手を出す輩がいるかも知れんと仰っていたよ」 「…………」 学園長の言葉に気まずそうに冨岡先生が目をそらしている。 そんな冨岡先生にちらりと視線をやった学園長は何も言わずに正座した私の手をそっと握ってくれた。 「まさかお祖父様が亡くなり、雪無が一人で家業を継いでいるとは思わなかった。協力が遅れて申し訳無い」 「そっ、そんな…!私今でも十分先生方に助けて頂いてます!勿論、学校でも」 「雪無はいい子だね。ありがとう」 頭を下げた学園長の手を握り返して首を横に振ると、それはそれは美しい笑顔で微笑みかけてくれた。 私が男性に免疫が無いことを除いても、鬼殺隊の方々の御尊顔は偏差値が高すぎて直視が難しいと思わず心の中で思う。 「家の子供たちはまだ知識不足だ。何より北条院家のような祓う力は無い。だから今更ではあるけれど、これからも君に力を貸して欲しい」 「勿論です。がっかりさせてしまうようでとても申し訳ないのですが、私に祖父のような力はありません。こちらこそ、皆さんのお力をお貸しいただきたく」 「じゃあ決まりだね。これからは正式に私達で雪無を補佐する事を誓おう」 「私も精一杯頑張らせていただきます」 お互いに手を握ると、優しくて大きな手が私を包んでくれた。 「雪無、良ければ鬼殺隊で支給されている服を着るといい。義勇達が着ているものは特殊加工してあるから妖からの物理攻撃を緩和する事もできる」 「そうだったのですか…」 「後で支給するから試しに着てみるといい」 冨岡先生達が着ているかっこいいスーツを私も着れるんだと考えると少しだけ嬉しくなった。 戻 |