1 お祖父ちゃん。 私、守りたい人が居るの。 ずっとお祖父ちゃんとお祖母ちゃんしか居なかった私だけど、 友達も出来て、私の事を好きだって言ってくれる人も居て、必要としてくれる人が出来たの。 だからね、 この封印を解くよ。 命をかけてでも守りたい人達を守る為に。 だからどうか見守っていてほしい。 私の意思を、在り方を。 【北条院家の封印】 家の鐘がなり、夕飯の準備をしていた私はエプロンで手を拭きながら玄関へと走る。 「冨岡先生、お待ちしてま…し、た」 「こんばんは、雪無。夜分に突然すまないね」 「学園長…こ、こんばんは」 「連絡をせずにすまない。お館様が雪無に話をしておきたい事があると言われた」 「いえ、汚い所ですがどうぞお上がりください」 冨岡先生と学園長へスリッパを出し、居間へと案内する。 「蒼、お茶をお願いできるかな?」 「もう用意出来てますよ」 「ありがとう。流石だね」 きちんと人数分を用意していた蒼が学園長と冨岡先生にお茶を出し、私には専用の湯呑みでお茶を出してくれる。 やり途中の夕食は煮込めば出来上がると伝えて、背筋を伸ばしたまま学園長を見た。 「まずは小芭内を浄化してくれた事に礼を言わせて欲しい。ありがとう、雪無のお陰で助かった」 「いえ、いつも伊黒先生には助けてもらってますから」 「色々あったみたいだけどね」 「結果的に何もありませんでしたから」 どうやらすべてを聞いているらしい学園長に伊黒先生の事を思い出してしまい、慌てて首を横に振れば優しい笑顔で返してくれた。 学園長は本当に不思議な方だと思う。 顔や声、全てが私を安心させてくれる。 きっと先生方もそうなのだろうとは思うけれど。 「それで、本題に入るけど…雪無、君の力が封印されている事について聞いてもいいだろうか」 「…勿論です」 「おいおい主、いいのか。北条院にとってソレは秘術だろ」 「秘術は使う者が居てこそでしょ?大丈夫、学園長や先生方なら信用があるもん」 「そうかよ」 火の仕事は向かないのか、いつの間にか私の後ろに控えていた赫に振り返り首を振れば困った様に笑って頷いてくれる。 黙ったままの学園長と冨岡先生に失礼ながら目の前でボタンを外していく。 目を見開いて驚いた顔をした冨岡先生が私の行動を止めようと立ち上がるのを学園長が手で制する。 少しだけはだけさせた左のシャツを開き、胸の辺りに刻まれた陰陽印を二人へ見せた。 「祖父が私に遺してくれた、制御する為の印です」 「それのお陰で雪無は力を使い過ぎずに済んでいると言う事だね」 「はい。私は祖父の様に強い霊力を持ってはいますが、それを使いこなす事が出来ません。暴走してしまえば私はこの力全てを放出し死ぬでしょう」 「…そうか」 「普通の妖を封じるだけなら、このままでも大丈夫ですが九尾と戦うとなれば話は変わります。解呪する為の方法も知っていますので」 本当ならこんな事話すつもりは無かった。 けれど、伊黒先生が襲われた以上この事を私だけが知っているのでは駄目だと思ったんだ。 鬼殺隊の先生や学園長を心から信用しているから。 「解呪など必要ない。力が足りないのならばこちらで補えばいい」 「冨岡先生…」 「義勇の言いたいことは分かるけど、本当にそれが通じる相手なのかな」 「雪無はまだ未成年です。これから楽しい事も知っていく義務がある。そんな若い命を削るなど」 「それは押し付けじゃないのかい。雪無の命を大切にするのは当たり前だ。けれどその意思を否定する事は雪無の覚悟を、私達に話してくれたその心を冒涜するものだと思う」 厳しく言い放った学園長に冨岡先生が尚も食い下がろうとする姿を見て、思わず黙って二人のやり取りを見ていた私はどうしてかとても心穏やかな気持ちになった。 「冨岡先生、学園長。お気遣いありがとうございます」 「雪無」 「私は誰に何と言われようとも解呪をします。けれどそれは死ぬ為にする訳じゃない。生きる為に、力を出せるようにするだけです」 胸の印に手を当てお祖父ちゃんやお祖母ちゃんを思い出す。 本当に、本当に大切に育ててもらった。 私の命に自分で価値を見いだせるようになったのも、二人のお陰だった。 まるで宝物の様に愛してくれた。 だからこそ、この命を簡単に投げ出すつもりなんてない。 「北条院家として、お役目を果たしたいんです。お祖父ちゃんが果たせなかった九尾の封印を今度こそ私がやってみせる」 九尾の封印を今の状態で出来るのは不可能。 仮に九尾を弱らせたとしても私の力が弱いのでは簡単に封印から抜け出せてしまう。 絶対に、封印してみせるんだ。 私が必ず。 戻 |