2 「伊黒先生!お待たせしました!」 「雪無、瘴気のせいか伊黒の出血が止まらん。頼む!」 「っ…失礼します」 ベッドの上に横たわる顔色の悪い伊黒に息を飲んだ雪無は近くに寄ると滲み出る瘴気に触れ、札を取り出し傷口へ貼る。 血と瘴気で滲む札に気を込めながら唇を噛んだ。 「赫、蒼」 「ここに居るぜ」 「神社にある御神水を持ってきて」 「分かりました」 式神に支持を出した雪無は触れていた手を離し、息の荒い伊黒の頬に手を添え眉を寄せながら耳元に顔を寄せる。 「雪無…どう、した」 「瘴気を吸い出します」 「す、い…?」 「絶対助けますから」 まだ話を飲み込めていない伊黒に顔を染めた雪無は意気込むように頷いて、後ろに控える冨岡と煉獄に振り返った。 「少し部屋から出てもらってもいいですか?」 「だが」 「分かった!行くぞ、冨岡!」 「おい、頭を掴むな」 何かを察したのか、煉獄は素早く頷き冨岡の頭を掴みぐいぐいと部屋の外へ押し出すように扉の向こうへ消えていく。 二人を見送った雪無は曝け出した伊黒の腹に唇を寄せ爪の食い込んだ場所を舐める。 「っ!?」 「少し、痛いかもしれませんが我慢してくださいね」 「なっ、何をしてるんだ!」 「行きます」 ちゅう、と音を立て吸い出す雪無に反応した伊黒が自分の口を腕で抑える。 痛みと雪無の舌や唇の感触に抑えている手とは反対の手で血管が浮かび上がるほどベッドの柵を強く掴んだ。 (これは色んな意味でヤバイぞ…!) 「っ、ふ…ん…んっ」 力を込め過ぎて掴んだ柵がミシリと音を立てるもそんな事は気にしていられない伊黒に気付かず、必死に瘴気を吸い出しては息を荒らげる雪無に顔を背ける。 「っ、まだ…か…!」 「もう、少しっ…」 「ぐっ…」 いっその事意識を飛ばせたらと思えてきた伊黒の意識にぼんやりとした黒いものが思考を占領し始める。 背けていた顔を雪無に向け、咳き込む姿は酷く扇情的だ。 (このまま抱いてしまえば雪無は俺のものになるかもしれない) そんな事を考え始めた自分に首を振る。 しかし抱き始めてしまった考えは留まることをしらず、思考を辞めようとする伊黒の脳内へまるで麻薬の様に響く言葉はどんどんと意識を奪って行く。 (触れたい。特別になりたい。手に入れたい) 『それなら手に入れちゃえばいいじゃない。理性なんか捨てて、抱いてしまえばいいのよ』 (駄目だ。雪無は生徒だ) 『何をそんな今更。キスまでしてるくせに』 (それは) 『彼女だって嫌じゃないって言ってるんでしょ?ならいいじゃない。快楽に堕として愛を囁いてやればいいのよ』 (俺は、雪無が) タオルに血を出す雪無を視界に入れながら、勝手にその肩を掴もうとする手を眺める。 掴まれた事で驚いた雪無が目を丸くする姿にぞくぞくと背筋が撫でられた感覚に包まれ、その身体をベッドに抑えつけた。 「い、伊黒先生?」 「雪無」 「痛かったですか?ごめんなさい。でも…ちゃんと横にならなくちゃ…まだ瘴気がっ、ひぁっ!」 「雪無…雪無…、」 縫い付けた手を絡ませながら白い首に舌を這わせ、身体を揺らした雪無に光を失った瞳が細められる。 それなりに吸い出したはずの瘴気はまた更に濃くなり伊黒を包んでいく。 「っ、駄目…伊黒先生!乗っ取られないで!」 「お前が煽ったんだろう。安心しろ、優しくしてやる」 「違っ…!」 「雪無、お前が欲しい」 支配された伊黒に力で勝つ事の出来ない雪無は片手でシャツのボタンを外していくその姿に涙を浮かべながら必死に足をバタつかせる。 「冨岡になど渡さない。他の男にも。俺以外の男に触れられるなど…許さない」 「ゃっ、お願い…戻って、伊黒…先生」 「ならばお前を誰にも渡さぬようにしてしまえばいい」 「あっ、」 プツリ、とホックを外され胸元に侵入する冷たい手に身体が反応してしまう雪無に伊黒の身体が停止する。 「っ、冨岡!煉獄!」 「どうした!」 「…雪無?」 「俺を拘束しろ!直ぐにだ!」 「う、うむ!了解した!」 爪が食い込むほど自分の手を握り締めた伊黒が扉の向こうに居るであろう二人へ呼び掛ければ、何事かと部屋の扉を開け目の前に広がった光景に冨岡が目を見開く。 組み敷かれ服を乱された雪無が涙目で伊黒を眺めていたが、髪に隠れたその表情を見る事は出来なかった。 伊黒に指示された通り煉獄がその身体を拘束し、冨岡は自分のジャケットを雪無へ被せ部屋の外へ連れ出した。 戻 |