アヤカシモノ語リ | ナノ
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かごめ かごめ

かごのなかのとりは いついつでやる

よあけのばんに つるとかめがすべった

うしろのしょうめんだーれ



仕事の帰り、そんな童歌が聞こえた。

車へ乗り込もうとしていた身体の動きを止め、怪しく淀む空気を察知して後部座席にある刀へ手を伸ばす。


「誰だ」

「えへへ、バレちゃった?」

「…貴様は妖狐か」

「そうよ。お兄さん、私と遊びましょ」


薄く微笑んだそれはゾッとする程嫌な笑みを浮かべ俺の頬に触れ、瞬時にその手を振り払った。




【妖狐の策略】


刀を構え妖狐と対峙するが、正直自分一人では分が悪いと伊黒は辺りを見回す。

それ程に強力な妖だと言うことが分かってはいるがここには既に鬼殺隊の面々も雪無も居ない。
校内ということもあり、下手にこの場で戦闘をしてはいけないとどうにか戦えそうな場所を探した。


「一人ずつ潰そうと言う魂胆か。狐らしい姑息な手段だな」

「頭がいいって言ってくれるかしら。それにあの子を殺すのに邪魔な人間は少しでも潰すって決めたの」

「あの子とは雪無の事か」

「えぇ、そうよ」

「そんな事…させる訳ないだろう」


余裕綽々と笑みを浮かべる妖狐の背後に一瞬で移動し、刀を横に振るが尻尾で簡単に止められてしまう。

纏わり付くよう瘴気が刀を這って伊黒へ近寄ってくるのを振り払い距離を取りつつ校外へと走った。


「なになに、鬼ごっこ?」

「っ…近寄るな、臭いが伝染るだろう!」

「えぇー、前食べた女の子が付けてた香水だから人間は好きだと思ったのにぃ」

「下衆が…!」


距離を取ったと思われた妖狐はいとも容易く伊黒に追い付き肩に手を伸ばす。

触れそうになった瞬間その場から高く宙を舞い刀を構えた。


「壱ノ型 委蛇斬り」

「きゃっ、あぶなーい!」

「っ…!」


落下しながら間合いを詰め妖狐の頬を傷付けたが、懐から取り出した鉄扇に弾かれ吹き飛ばされてしまう。
受け身も取れないまま壁へと打ち付けられた伊黒が血を吐きながら膝をつけば、目の前に座ってその様子を眺める妖狐が尖った歯を見せながら笑みを浮かべた。


「残念、弱いのね」

「………」

「無駄よ。ただの人間じゃあたしには勝てない。あの女が居なければ、あんたの刀だってあたしには届かない」


憐れむような視線を送る妖狐は俯いたままの伊黒の顎を撫でてじわじわと瘴気を滲ませる。
それは腕を伝って徐々に伊黒を侵食していくが、動く気配も無い様子に艷やかな唇が弧を描いた。


「あたしの仲間になりなさい。人なんて辞めて、この妲己に尽くすといいわ。あの女への恋心なんて捨てちゃえ」

「…妲己」

「貴方素敵だから一番のお気に入りにしてあげるわ。その一途さも悪くない。さぁ、服従を」

「貴様の様な薄汚い女狐に服従するくらいならば死んだ方がマシだ」

「なっ…薄汚い女狐ですって!?この…人間が調子に乗るんじゃないわよ!」

「鏑丸!」

「チッ…忌々しい!」


手を振り払った伊黒の首にいつも巻き付いていた鏑丸は妲己の首元に噛み付き、怯んだ隙で刀を突き刺す。
しかし鏑丸を薙ぎ払う妲己の爪が伊黒の腹部へ深く突き立てられ大量の瘴気が注ぎ込まれてしまう。


「…っ、くだばれ!」

「あんたが先よ!」

「伊黒!」


逃すまいと手に力を込めた伊黒の視界に紅の炎が目に入る。


「煉獄!」

「伊黒を離せ」

「くっ…」

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」


一気に間合いを詰めた煉獄の一撃を掠めながら妲己は直撃を防ぐと顔を歪め二人を睨みつける。


「次こそは殺してやる」

「伊黒一人の所を狙うとは流石妖狐だ!安心しろ、次に倒れるのは君だ」

「覚えたぞ…その顔…妾の顔に傷を付けた恨み、消えぬ事はない!」

「知るか。その前に貴様を消し去ってくれる」


怨恨の言葉を残し姿を消した妲己を見届けた伊黒は咳込みながら地面に伏してしまう。
爪が食い込んだ所からは瘴気と血が溢れ出し、急いで抱き上げた煉獄は近場に停めてあった車へ乗せどこかへと電話を掛ける。


「伊黒、暫しの辛抱だ!」

「…っ」

「雪無、今見回りか!緊急を要する。すぐに本部に来られるか?至急伊黒の浄化を頼みたい、共に居るのは冨岡だったな?」


エンジンを掛け、普段は安全運転を心掛けている煉獄はアクセルを踏み込み急発進をして本部へ向かう。
車の通話機能に繋がったのか、止血を試みる伊黒の耳に雪無の声が聞こえた。


『伊黒先生!今冨岡先生と本部に向かいます!』

「……雪無」

『意識をしっかり保ってください!瘴気の量は分かりませんが気を失えば乗っ取られてしまう可能性があります』

「わかっ、た…」

『伊黒』


必死な雪無の声に頷きながらマスクの下で薄く笑う伊黒にバックミラー越しでそれを見ていた煉獄は小さく頷いた。

しかし続いて聞こえてきた冨岡の声に伊黒の眉がピクリと動く。


『…………死ぬなよ』

「煩い、お前に心配されずとも俺は平気だ」

『そうか』


そう言って通話を切った冨岡に運転していた煉獄が盛大に吹き出した。


「よもや冨岡に心配されるとはな!」

「煉獄はその声量をどうにかしろ…傷に響く…」

「すまない!」


三人のお陰で意識を保ったまま本部へ帰った伊黒は雪無が来るまで止血の治療を施された。
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テーマ「人外ファンタジー」
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