3 車の前で止まった雪無に首を傾げながら車内を見ると、鬼殺隊のスーツに身を包んだ伊黒が顔を出した。 「えっ、伊黒先生?」 「送る」 「…も、もしかして雪無ちゃん」 「伊黒先生は協力してくれてるだけだよ」 頬を染めて伊黒と雪無を交互に見た果生に早口で言わんとしたことを否定すると、運転席から小さくため息が聞こえた。 「早く乗れ」 「お願いします」 「よ、よろしくお願いします…」 後部座席に乗った二人をバックミラーで確認するとアクセルを踏んだ車がゆっくりと走り出す。 「あの…伊黒先生が協力者とは…雪無ちゃんのお仕事も知ってるんですよね?」 「俺以外にも居るがな。紹介したという事は何かあるのだろうな」 「果生ちゃん、いいかな」 目配せした雪無に果生が恐る恐る頷くと、膝の上に置いていた手を握った。 「果生ちゃんは半妖です」 「……それで」 「妖狐の血が流れていますが、彼女は普通の人として暮らしたいと言っています。しかし妖狐との接触がありその血が暴走する可能性があるとの事でした」 「…はぁ。随分と重要な事を簡潔にまとめてくれたな」 「そちらの件は私の血を渡して浄化する事が可能です。どうか一緒に守ってはいただけませんか」 「……ごめんなさい、伊黒先生」 すっぱりと言い放つ雪無に、始終肩を狭める果生を横目で見てもう一度伊黒はため息をついた。 「この情報は俺以外にも共用させてもらうがいいな?」 「お仲間の方達ですよね?勿論、大丈夫です」 「ならいい。後はこちらで話し合う」 「ごめんなさい…」 淡々と話す伊黒に慣れないのか謝ってばかりの果生に雪無は握った手を優しく撫でた。 「伊黒先生は怒ってないよ。怖くない」 「…う、うん」 「とっても優しい人だから、きっと果生ちゃんの事も守ってくれるよ」 無言のままハンドルを握った伊黒を雪無は穏やかな顔で見つめたのにつられるよう果生もそちらを見るとふと首を傾げて後頭部を見つめる。 やがて目をぱっちりと大きく輝かせた果生は握ったままの雪無の手を両手で握り返した。 「もしかして、あの時一緒に居たのって…」 「おい、家についたぞ」 「えっ、あっ本当だ…!」 「果生ちゃん、何か言いかけてなかった?」 何か言い掛けた果生の言葉を遮って一軒家の前で車を止めた伊黒が後ろへ振り返る。 そこが自分の家だと分かった果生は持っていた自分の鞄を抱え、言い途中だった言葉の先を聞いてくる雪無に困った様に眉を下げた。 「ううん、何でもないよ」 「?」 「それじゃあ雪無ちゃん、今日はありがとう。伊黒先生も送って下さってありがとうございました」 「あ、うん。またね」 何故か足早に車を降りた果生に首を傾げた雪無と黙ったまま見送る伊黒に頭を下げ家の中に入っていった。 「…どうしたんでしょうか」 「知らん。早く隣へ来い」 「あ、はい」 果生を見送ってもなお未だに停車したままだった伊黒の言葉に従い助手席へ移動する。 不機嫌そうな伊黒を見つめながら色々と考えるが結局理由は思い浮かばず無言のままシートベルトを締めた。 「雪無」 「はい」 「手」 「はい?」 左手をこちらに向けた伊黒に言いたいことが分からなかった雪無は更に首を傾げると、太腿の上に置いていた手を絡めとられて目を見開いた。 「…い、伊黒先生」 「煩い、黙れ。あいつにもしていたんだ、俺だってこうしてもいいだろう」 「それは…」 友達だから、と言い掛けた口をそっと閉した。 マスクの紐が掛けられた耳が真っ赤だったのを目にした雪無はつられて顔を赤くして俯く。 「今大人気ないと思っただろう」 「い…いえ」 「ふん」 結局車を降りるまで手が繋がれたままだった雪無は見回りが始まるまで終始無言であった。 (いい加減慣れればいいものを…俺までつられるじゃないか) (たまに親指で撫でるの辞めてほしい…!) そんな互いの心の内は秘めたまま、見回りを終えた二人は果生の事を話しに本部へ向った。 つづく 。 戻 |