アヤカシモノ語リ | ナノ
2

部屋に上げ、未だに気落ちした様子の果生にお茶を出した雪無は隣に無言で座った。


「…雪無ちゃんは気が付いてたの?」

「気付かなかったよ」

「でも…」

「妖狐に会った時、正直似てるなって思ったのは確か」


その言葉に顔を上げた果生の顔を覗き込み、眼鏡を外す。
それを自分に掛けると視界に変化は訪れなかった。


「…でも、果生ちゃんはこんな私にずっと声を掛けてくれた。友達になってくれた」

「そんなの、もしかしたら策略かもしれないじゃない」

「それならそれ。でも果生ちゃんは果生ちゃんでしょ?」


眼鏡を返し、遮るもののなくなった果生の瞳を見つめる。
その綺麗な瞳には雪無の顔が映っていた。


「話して。信じるから」

「……雪無ちゃん」

「だって私達、友達でしょう?」


溢れだした涙を雪無の指が掬い、いつも通りの三つ編みをそっと撫でた。


「…私、半分妖なの」

「うん」

「あいつの血が、入ってるの」


涙が止まらぬうちに徐々に語りだした果生の言葉に口を挟む事なく雪無は頷いた。


「でも私はあいつじゃない。私は人として生きたい。捨てられた私を自分の子供のように育ててくれた両親を裏切りたくないの」

「…うん」

「今までは何事も無く生きてこれたのに、最近あいつが現れるようになって…私の元にも来るようになった」


果生はそこまで言うと膝の上に置いた自分の手で制服を強く掴む。


「私とあいつの二人で…あなたを、雪無ちゃんを…っ」

「そっか」

「でも私は断った!なのに、最近あいつの血が暴走しそうになって…こ、怖いの。人じゃなくなることも、雪無ちゃんを傷付けてしまうかもしれないことも」


肩を震わせそう言った果生に雪無は表情一つ変えず一言そうなんだと返した。
そんな彼女の様子に目を見開いた果生は自分の髪を撫で続けている手を取る。


「な、何でそんな風にしていられるの?」

「果生ちゃんは大丈夫」

「どこからそんな根拠が…暴走したら私の意思なんて関係ないんだよ…」

「怖いなら私の血をあげる」


自分の手を強く握った果生にそう言った雪無は優しく指を外し、部屋の棚を漁った。
ガラスケースに入った注射器と小さな小瓶を取り出しテーブルの上に置く。


「…血?」

「うん。もし、妖狐に支配されそうになった時これを飲んで。嫌かもしれないけど」

「これを飲んだらどうなるの?」

「一時的な鎮静化が出来る。果生ちゃん次第だけど」


腕に注射器を差し込んだ雪無は自分の血液を少量抜き取り、小瓶に垂らした。

その血は見た目には他の人となんら変わりはなく赤黒い。


「私の血は妖が好むし、力を増幅させてしまう。でも、人が飲めば悪いものを最大限に浄化してくれる」

「…なら、半妖の私は」

「果生ちゃん次第なのはそこ。人でありたいと願えばきっと私の血は妖狐の血を浄化してくれる」

「もし、私が願っても失敗する可能性は」

「無いとは言えない。でも、その時は私が何としても助けてあげる」


血液の瓶を受け取った果生は胸に押し付けるよう目を閉じて雪無の言葉を刻む。


「私を信じて」

「うん…ありがとう、雪無ちゃん…」

「私こそ、頼ってくれてありがとう」


また溢れだす涙を拭った雪無は果生に向かって薄く微笑んだ。


「でもね、一つ誤解しないで欲しいことがあるの」

「?」

「雪無ちゃんに挨拶し続けたのは本当に友達になりたかったからなの。今こうして相談する事になったのはあいつから雪無ちゃんの存在を聞いたからであって…」

「大丈夫だよ、分かってる」

「本当?」


不安そうに見つめてくる果生に雪無は頷き、目の前にある冷えたお茶に手を伸ばした。


「いつも挨拶してくれた果生ちゃんに私は凄く感謝してる。こんな風に無愛想な私だから、その…話し掛けづらいと思うし」

「…それは」

「皆遠ざかってく中、果生ちゃんは変わらず私に笑い掛けてくれた。上手く返せなかったけど、言葉に表せないくらい…嬉しかった」


だから、と続けて湯呑みを机の上に置いて果生へ振り返る。


「どんな果生ちゃんでも私は変わらず友達で居るよ」

「……ありがとう」


今度は声を上げて泣き出した果生をぎこちなく抱き締め背中を撫でた。
その後泣きやんだ果生とその後他愛も無い話をしていると、見回りの時間になった雪無は携帯を取り出し立ち上がってスーツに着替える。


「果生ちゃん、送るから帰ろう」

「雪無ちゃん、これからお仕事でしょ?」

「うん。大丈夫」


気にしないで、と言って果生の手を取り家を出ると家の前には見た事がある車が止まっていた。
 

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