アヤカシモノ語リ | ナノ
2

襖が開いた先にはキッチンのような空間が広がっていた。
青白いライトに照らされた空間は先程の部屋とは真逆だがかえって気持ち悪い雰囲気を醸し出している。


「ここは…キッチンでしょうか」

「あぁ」

「側を離れるなよ主」

「うん」


まるでホラー映画のようなその場所を歩くと、足元に何か当たった冨岡が視線をそこへ向けると人サイズの人形が腕を伸ばして足を掴んでいた。

舌打ちをしながらその人形の手を振り解き、刀で頭を潰すとゲラゲラと下品に笑ったソレは灰のように散って消えていく。


「主程じゃないけど、この空間私も無理だわ」

「雌みてぇな事言ってんなよ赫」

「雌よ!このアホ猫!」


流石の気味の悪さに蒼の腕を引っ張った赫が怒鳴る。


「雪無、しっかりしろ」

「はい」

「妖とそう変わらない」


雪無に柔らかい口調でそう言うと、別の部屋に移動しながら肩に手を置く。
廊下に差し掛かった辺りで白いぼんやりとした影がこちらを見ている事に気がついた雪無は銃口をそっちへ向けるが、他には誰一人として見えていなかったらしく先へ進んでしまう。


「だ、誰」


影へ向かって話し掛けるがそれは何も答えず何処かへ走り去る様に消えてしまった。


「冨岡先生、影…が」


後ろに居た気配に振り返るも、そこには冨岡は居らず大きな外国式の人形が雪無に笑い掛ける。


「っ!!」


すかさず顔に縦断を放ち、その人形から距離を取りながら辺りを探すがそこには冨岡や式神達も居ない。
顔に風穴の空いた人形は行動力を失わず雪無へと手を伸ばしながら向かってくる。


「う、」

「…?」

「う"ぎゃぁぁぁぁ!!!」


口元が動くと同時に叫び声を上げた人形に思わず耳を塞ぎながら飛び退きもう一度銃口を向け何発か放つと、暴れるように動く足元を滑りながら回避し長く続く廊下を全速力で駆けた。


「赫…蒼…っ!」


通り過ぎる襖を走りながら開け、三人を探すが何処にも姿が見えず半泣きになる。
後ろを振り返れば更に穴の空いた人形が雪無を追ってきていた。


「行き止まり…!」


何処までも続いていたはずの廊下は突如として行き止まりになり、両手をついて壁を見つめる。
叩いてみるが、厚い壁と言う事を知らせるように重い音だけが返ってきた。


「…冨岡、先生」

「雪無」


瞳に浮かんだ雫が零れ落ちそうになった瞬間、横から腕が伸び雪無の身体が引き寄せられた。
受け止めた身体は体温を持ち、誰か確認すれば冨岡が人差し指を立てて唇に押し当てる。

静かにしろという合図だと気付き無言で頷くと目を細められ、顔を赤く染めた。


二人の近くを人形の歩く音が通り過ぎた頃、抱き寄せている腕の力が弱まる。


「冨岡先生、ありがとうございます」

「いや。一人にしてすまない」

「あの、私…影を見て」

「影?」


そう聞かれた雪無は先程見た白い影の事を説明した。
それに頷いた冨岡は悩む様に顎に手を置き無言になる。


「あの、赫と蒼は…」

「二人には探索を頼んだ。すまない、主のお前に許可なく」

「いえ、あの子達は従う必要の無い願いは聞き入れないので」

「…そうか」

「ちゃんと冨岡先生たちの事をあの子達個人が仲間と認めてる証拠です」


雰囲気が和らいだ冨岡に薄く微笑めば頭を撫でられた。


「なら俺達もそろそろ動くぞ」

「はい」

「向こうも俺達に気付いたようだからな」


すぐ真後ろでものが軋む音が聞こえた瞬間、納刀していた刀を振った冨岡は雪無を庇うように立った。
背後から覗いてみれば、先程追い掛けてきた人形がバラバラになって倒れている。

やっと動きを止めたかと思った瞬間、関節の外れた手がもぞもぞと動き再び襲い掛かってきた。


「きりがないな」

「きっと本体が何処かにあるはずです。探しましょう」

「主!冨岡先生!」


冨岡の腕を引っ張り走り出した先に蒼が舞い降りそばに駆け寄ってくる。
走りながら蒼を見れば古めかしい札が口に加えられていた。


「これは?」

「古いけど清浄な気配がするから、もしかしたらと思って持ってきたわ!」

「…冨岡先生、カバーお願い出来ますか」

「分かった」


体がバラバラになりながらも雪無達を追いかけてくる人形を見て立ち止まり、札を顔に向かって飛ばした瞬間近くまで来ていた手を冨岡が切り刻む。

札が白い光を放ち、あまりの眩しさに目を腕で覆った雪無達が辺りの状況を確認できる頃にはその人形は跡形もなく消え去っていた。


「…凄い」

「安心してる暇は無い。行くぞ」

「赫はどこに居るの?」

「本体のすぐそばに」

「案内してくれ」


赫は首を縦に振って二人の前を走ると、奥にある一段と古めかしい襖の前に案内した。
その前には猫の姿で逆毛を立てる赫が一転を見つめている。


「赫!」

「人形がやられたせいで気が立ってる。来るぞ!」


赤黒く滲んだ襖がゆっくりと開かれ靄が溢れだす光景に各々の武器を構え姿を現すのを待つ。


――ドウシテ 邪魔ヲ スルノ


地の底から響くような声が辺りに響いた。
 

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