1 昔から人形には魂が宿ると言われていた。 古来、人形は子供の遊び道具として与えられ、使用され身近な物として人々の生活の傍らに存在する。 「素敵なお人形さん」 少女もまた他の人と同じであった。 身体の弱い少女は両親に買って貰った人形を大切に大切に扱い、 まるで姉妹のように可愛がった。 身体が弱くとも、両親と人形が居れば楽しかった。 しかしある日を境に少女は人形を可愛がるのを辞める。 強盗に入られたその両親は犯人に殺され、 押し入れに隠された少女は惨殺される一部始終を見てしまったのだ。 以来少女の精神は壊れ、 いつも側に置いていた人形を実験台とした。 いつか犯人を見つけた時の練習として。 【呪いの人形】 「………雪無」 「はい」 「大丈夫か」 その日冨岡と雪無はとある家の前に来ていた。 何十年と誰も住まず、取り壊されもしない大きな屋敷。 そこに住むと必ず何かしらの不吉な事が起こった。 ある一家は無理心中をし、次に住んだ住人は身体をバラバラにされ殺され犯人は見つからず。 しかし取り壊そうと業者が入れば必ず誰かが死ぬか植物状態となる程の致命傷を負い、今の今まで放置され続けた。 そんな屋敷を前に無表情で固まったままの雪無に視線をやった冨岡はそっと肩に触れ問い掛ける。 その僅かな接触さえも驚いたのか、ビクリと肩を震わせた雪無を心配した。 「無理にとは言わない。嫌なら帰れ」 「大丈夫です。行きます。置いて行かないでください」 雪無がガシリと腕を握り締めると冨岡の周りにほわっとした雰囲気が辺りに散らばる。 しかしお互い表情筋が仕事をしない同士、赤の他人が見たらそんな雰囲気が流れてる事すら分からないだろう。 「行くぞ」 「はい」 雪無の手を繋ぎ、貰っていた鍵を使って屋敷の扉を開く。 古めかしい音を立てながら横開きの扉が開くと、物々しい雰囲気が漂い嫌な寒気に鳥肌が立つ。 無意識に繋いだ手に力を込める雪無をそっと寄せて軋む廊下を進めば何部屋かある内の一つを探索していく。 「赫、蒼。2階を探索してきてもらっていい?」 「えぇ」 「頼んだぜ冨岡」 「勿論だ」 赫と蒼を呼んだ雪無が二人に2階の探索をお願いするとすぐに姿を消し己の仕事に取り掛かる。 二人も一つずつ部屋を開け、気配を探りながら奥へ進む。 「冨岡先生、凄く嫌な感じがします」 「この部屋は事件現場でもあるらしい」 「……っ」 少し広めの部屋の奥には体がバラバラにされた日本人形や外国の人形が積み重なっている。 その不吉な光景に雪無は唾を飲んで出そうになった弱音を飲み込んだ。 「俺が見てくるから雪無は」 「手…!離さないで下さい!お願いします」 「……分かった」 珍しく雪無の方から距離を詰めてくる事に僅かな喜びを感じながらゆっくり畳の部屋を進む。 大体100体程の人形の内から一つ片目を剥き出しにしたソレへと手を伸ばすと、ミシと家鳴りがして小さく悲鳴を上げた雪無が更に身体を寄せる。 「ただの家鳴りだ」 「す、すみません!」 「いい」 もう一度人形を手に取り異常はないか四方から見るが、バラバラになっている以外特に何も無く置いてあった場所へ戻す。 ふと視線を感じた冨岡が人形の山へと視線をやるが別段先ほどと変わったことも無く雪無にバレないよう首を傾げた。 ――あそび…ま…ょ 「こ、声が」 「雪無、構えろ。来るぞ」 ガタガタと家鳴りではない音がなり始め刀を抜いた冨岡が雪無の前に立つ。 震えながら銃を持った雪無を確認しながらミシっと音を立てた2階に目をやると、穴が空いて赫と蒼がそこから落ちてきた。 「おい!主、やべぇ!」 「ここの中異空間だわ!」 「…ここの中?」 「そういう事か」 結界を張らない二人に首を傾げながらただただ嫌な音がなる家の中を雪無の腕を引いて走る。 玄関があった筈の場所へ行けば同じような部屋の空間が続き、出口は見当たらない。 「厄介だな」 「本体が見当たらないと結界を貼っても意味が無いわ。冨岡先生、主をお願い」 「だ、大丈夫だよ赫!私もちゃんとす…る…」 必死に赫へ反論したはずの雪無の顔が徐々に青ざめ、視線は壁へと注がれている。 その視線を追った三人が壁へ顔を向けると紅い文字が浮かび上がっていた。 「…遊ぼう」 ただひたすらに遊ぼうと乱雑に書かれた血文字と、まるで子供の落書きのような絵が壁に所狭しと書かれている。 すると、隣りに居た雪無が札を取り出し壁へ投げればそこだけが一瞬で血文字は消え、浄化されない場所の文字がじわりと滲んだ。 ぷっくりと浮き出た赤い液体は原型を留めることが出来ず下へ下へと流れ落ちる。 「主、無駄に力を使うんじゃねぇ!」 「ごめん…」 「良くないな。さっさと出るぞ」 雪無の精神上良くないと判断した冨岡は別の部屋への襖を開けた。 戻 |