3 「雪無先輩、有一郎!」 「何かあったか?!」 「無一郎君、それは?」 所々に浅い傷を負った二人に近寄り、メトロノームの針を見せる。 それがどんな用途で持ってきた物か知らない二人は針を見て首を傾げた。 「カナエって人が、これをベートーヴェンの肖像画に刺せば呪いは止まるって」 「…そんなの信じていいのかよ」 「カナエさん…聞いた事ある気がする」 無一郎の言葉に不審を表した有一郎に、銃弾を撃ちながら手紙の主の名前を呟いた雪無。 曲は最後の譜面へ向かっている。 「無一郎君、私達が全力でバックアップするから頼めるかな?」 「は?!雪無先輩こんなの信じるのかよ!」 「だって唯一この状況を打破出来る可能性がある物を示してくれたんだよ。無一郎君とカナエさんて方を信じよう、有一郎君」 「時間がないよ、兄さん」 「……っ分かったよ!しくじるなよな、無一郎」 「うん、任せて」 メトロノームの針を見たのか、触手の数を更に増してきた肖像画達に向かって三人が走る。 机や椅子を足場に飛び上がった無一郎に向かって出される触手を雪無達が全力で阻止すれば、ベートーヴェンの瞳が大きく見開かれた。 曲は最後の一節に入っている。 「行け!無一郎!」 「無一郎君!」 「これで、終わりだよ」 メトロノームの針を肖像画へ深く突き刺せば、どこからか絶叫のような声が聞こえピアノは滅茶苦茶に鍵盤を鳴らしたように激しい音を立てて静まり返った。 辺りは静かな雰囲気に戻り、音楽室は酷い状態ではあるがいつも通りの静けさを取り戻している。 「お、終わったのか…」 「ピアノも変な触手も止まったね」 「……良かった」 ボロボロになった三人が唖然と教室の中を見渡していると、突如携帯の着信音が響きわたった。 音の元を辿れば雪無のスーツの胸ポケットからそれは鳴っている。 ごめんね、と一言謝った雪無が携帯を開くと非通知と表示されていた。 一瞬取るのを辞めようかと思った雪無だったが、このタイミングで掛けてくるのはもしかしたら鬼殺隊の誰かからかもしれないと携帯を耳に当てる。 「もしもし」 『こんばんは』 「…こ、こんばんは」 『呪解はうまく行ったようね!良かったわ!』 電話に出ると、ふんわりとした声が聞こえてくるが全く知らない女性である事に困惑した。 雪無の携帯に顔を寄せ会話を聞いていた時透兄弟も顔を見合わせている。 しかし、何となくではあるがその声の持ち主に心当たりがあった雪無は恐る恐る口を開く。 「あの、貴女がカナエさん…ですか?」 「「えっ!?」」 『正解ー!メトロノームを見つけてくれて良かったわ。危うく貴方達死ぬ所だったから』 「助けて下さってありがとうございました。所で、貴女は…」 『ふふ、秘密。でもそうだなぁ…そこの卒業生ではあるかも』 どこか掴み所のないカナエの声に対人関係の苦手な雪無が困った様に有一郎を見ると、クスクスと電話の向こうから笑い声が聞こえた。 『そんなに困らなくていいのよ。でもどうしても言いたい事があって電話しただけだから』 「言いたい事ですか?」 『えぇ。信じてくれて、ありがとう』 通話のみの携帯では相手がどんな顔をしているか分からない。 しかし、カナエの声はとても嬉しそうに微笑んでくれているような気がして緊張していた雪無の糸が緩んだ気がした。 「あの、カナエさんは」 『たいへーん!もう時間だわ』 「えっ」 『それじゃあまたね、可愛い後輩さん達』 学校の七不思議の話を聞こうとした雪無を遮ったカナエに一方的に通話が切られてしまった。 通話終了の音が無音の空間に響く。 「…何者なんだろうなカナエって」 「さぁ?でも僕達の事、まるでどこからか見てるような言い方だったよね」 「……卒業生って言ってたし、先生達に聞いてみたら分かるかな」 着信履歴を見直しながら雪無が呟くと、再び携帯が着信を告げる。 画面には伊黒先生と表示されており、有一郎が呆れた視線を携帯に投げ掛けた。 「本当に過保護だよな、あの人は」 「雪無先輩、どうせあの人の事だから校門まで迎え来てるよ。電話は後にして早く帰ろう」 「え、あ…う、うん」 「先輩も大変ですよね」 「そんな事ないよ?」 「俺本当に雪無先輩の事色んな意味で尊敬します…」 携帯を無一郎に奪われ、手を取られた雪無が引っ張られるままに話し掛ける有一郎へ振り向く。 苦笑いを浮かべて空いたもう片方の手を握り、三人仲良く手を繋いで校庭へ向かった。 結局電話に出なかった雪無を心配した伊黒に三人が説教を受けたのはまた別の話。 end. 学校の怪談シリーズ番外編! 書いてて凄く楽しい。笑 戻 |