3 「基本的にお前が浄化したほうが早いんだろ?今回は狂化されてねぇみたいだからさっさと終わらせるぞ」 「了解です」 木の枝に飛び移った雪無が狙いを定めながら餓鬼の四肢を撃ち、宇髄が動きの鈍くなった場所を切り離していく。 徐々に距離を詰めてきた餓鬼に枝を蹴って空中に飛んだ雪無は脳天へ弾丸を叩き込もうと銃を構えた。 「っ!」 「雪無!」 雪無の思惑に気が付いたのか、顔を上へ向けた餓鬼の舌が足を絡め取り地面へ叩きつけようと勢いをつける。 揺さぶられながら舌を撃ち抜こうと腕を伸ばした瞬間、餓鬼の足元にいたはずの宇髄が宙へ飛び絡み付いたそれを切り払った。 「やれ!!」 宇髄の掛け声に放った札が餓鬼へ貼り付いた瞬間を狙い銃弾を撃ち込むと視界を眩い光が包み込み、暴発したような音が鳴り響いた。 「終わったか?」 「…はい」 跡形もなく消えた餓鬼に、食われたらしき人の欠片がボタボタと音を立てながら地面に落ちる。 直ぐに雪無の視界を遮る為に近寄った宇髄が青褪めた顔を自分の胸に押し付け、優しく頭を撫でた。 「お前は良くやっただろ」 「…でも一人しか」 「一人しか、じゃねぇ。一人でも助けられたんだ。命を数で数えんな」 「………」 「行くぞ、こんな所に居たってお前が地味に落ち込むだけだろ」 「はい」 悔しそうに唇を噛んだ雪無が宇髄のジャケットを強く掴むと、静かに身体を離した。 振り返ることも無く元来た道を歩きながら珠世へ電話を掛ける雪無の後ろ姿を見て、宇髄はバレないようにため息をつく。 (女子高生が見ていいもんではねぇからな) 後ろを振り向いて無残な光景を目にし、後ろ首を掻く。 しかし、雪無が居なくては浄化すら出来ない現状にもう一度ため息を吐き出す。 (銃を取られた時だってそうだ。こいつは優し過ぎる。そりゃ伊黒と冨岡がうぜぇくらい心配する訳だな) 普通の人間ならば精神を病んでしまいかねない程、ここ最近の妖による被害は広まっている。 妖狐の出現によるものかは定かでは無いが、鬼殺隊全員がそれを感じているのなら雪無は更に身に沁みているのだろうと宇髄は思う。 「あの女性は愈史郎さんが保護したそうです」 「良かったな、恨まれなくて済んだ」 「これから珠世さん達が山へ入り、遺体と女性の証言による本人と一致するかどうかや処理は全てお願いしておきました」 「おう」 先程悔しそうにしていた雪無はどこへ行ったのか、淡々と事務的な言葉を連ね宇髄へと報告する。 「なぁ雪無」 「?」 「俺ネズミ飼ってんだが見るか?」 「ネズミ、ですか」 「そ。派手にカッコイイんだわ、これが」 須磨、まきを、雛鶴の三人が写った待受を開くと画像フォルダを呼び出し一枚の写真を雪無へ見せつける。 「…こ、これは」 「すげぇだろ」 「ムキムキですね」 「ムキムキなんだよ」 画面には派手な装飾と鍛え上げられたネズミがポージングしている姿が映っていて、思わず雪無は食い入るように携帯を覗き込む。 「…っ、ふふ」 「お、笑ったな」 「だって、この子達…ネズミさんの域超えてませんか…」 ぷるぷると肩を震わせる雪無につられて宇髄も笑顔を浮かべる。 何匹か居る内のネズミの名前を教えてやれば今度会ってみたいと言った雪無は、他の同い年の生徒と変わりない年相応の女の子で。 「今度俺ん家に来るか?」 「いいんですか?会ってみたいです」 「おう。その時は伊黒と冨岡には内緒にしろよ。あいつらうるせぇから」 「は、はい」 「んじゃ帰ろうぜ。多分今頃あいつらピリピリして待ってるだろうし」 珠世達は別の駐車場に止めたのか、宇髄の車についても辺りに機関の人間は居なかった。 助手席に腰を下ろした雪無を見て、車を出発させる宇髄はミラー越しに藤襲山を見る。 美しさとは裏腹に、どこか怪しい雰囲気を醸し出す山に出来る限り来たくはないと思いながら再び前を向いた。 「わ!」 「どうした」 「伊黒先生から着信が」 「ほー。ちょっと貸せ、俺が出てやる」 マナーモードにしていたのか、振動だけしている雪無の携帯を奪い通話ボタンを押した。 『雪無、無事か?』 「おうおう、随分と気色悪ィ声出してんじゃねぇか伊黒」 『…なぜ宇髄が電話に出る。さっさと雪無を出せ』 「雪無は今俺の横で寝てるから無理。じゃーな」 『な!?』 そう言って一方的に通話を切った宇髄が目を丸くして絶句している雪無へ携帯を投げ返す。 「な、なんて事を…」 「振り回されるだけじゃなくて、たまにはお前も振り回してやれ」 楽しげに笑った宇髄と、鳴り始めた携帯に雪無は肩を落としどうしようと頭を抱えた。 つ づ く 戻 |