2 藤襲山についた二人は各々の武器を手に山の中へ入っていく。 夜でも藤が淡い光を放ち、これだけ見れば良い雰囲気のある景色なのだろうが、二人はそれを気にする事も無く奥へと進んで行った。 駐車場に着いた二人は、無人の車を見かけた。 宇髄によれば、まだここへ来たばかりだと言っていたがどちらへ進んでいったかまでは分からない。 雪無の意向で今回は式神達は留守番になっている。 「ったく、良くやるよな」 「私、妖の類は平気でも幽霊は苦手なので理解しかねます…」 「どっちも俺は一緒だと思うけどな。どっちにしろ雪無には祓う力があるんだしよ」 「人の怨念ほど怖いものはありませんから」 妖も元は人であった者も居る。 人の想いからくる様々な理由で怨念が形となり、妖になったり霊となったりするのだ。 「あー、確かにな」 「イヤァァァァ!!!」 突如耳を劈くような悲鳴が聞こえ、顔を見合わせた二人は声がした方に向かって走り出す。 二対の刀を抜いた宇髄が先頭を駆け、銃を構えた雪無は女性を保護するために別方向へ向かいその身体を引っ張り倒した。 他に居たであろう連れは見当たらず、代わりに腕が落ちている。 「たっ、たすっ…助けて!」 「大丈夫、大丈夫ですから。落ち着いて」 「友だちが…突然っ腕が、千切れて…っ」 「ここは危険です。急いで車へ戻って下さい。保護して貰えるよう警察には電話しておきます」 「おい雪無!急げ!」 「いっ…行かないで…!」 携帯を取り出して帰り道を指差した雪無の手を取り震える女性が縋りつく。 後ろでは派手な音を響かせながら宇髄が呼んでいる。 「お姉さん、私はさっきみたいな妖を呼び寄せます。一緒に居てもいい事はありません」 「だって、武器持ってるじゃない!あたしは丸腰なのよ!」 「貸しても貴女が扱えるものじゃ…っ」 「寄越せって言ってんだろ!」 錯乱した女性が雪無の持っていた銃を無理矢理奪い取り突き飛ばした。 そのまま尻餅をついた雪無を振り切るようにして駆け出す女性の前に大きな身体が一瞬にして目の前に降り立ち脚を止める。 「おい、助けてくれたアイツに向かって失礼だろ」 「っっ!」 「今すぐ返すなら見逃してやる。返さねぇっつーんならお友達と同じ目になるぞ」 未だに増え続ける餓鬼を指差した宇髄に体格の差と恐怖を感じ持っていた銃を手放す。 すぐに態勢を立て直した雪無がもう一つの銃で餓鬼を倒しながら女性の元に駆け寄り地面に落ちたそれを拾った。 「よし。じゃあさっさと行け、足手まといだ」 「私達が来た道はあっちです。早く逃げて下さい」 「…と、途中で襲われたらあんたらの事恨んでやるからな!」 泣きながら雪無の指差した方向へ走っていく女性を見送り、その背中を見ていた宇髄が背後に迫った餓鬼を斬りため息をついた。 「気の強ぇ女は嫌いじゃねぇが、アレは無しだな」 「仕方ないですよ」 「怪我はねぇか?」 「えぇ、突き飛ばされただけなので」 「なら良い。お前に怪我させたら後がうるせぇからな」 頷いた雪無に笑った宇髄は再び刀を構えると血痕が続いている道を歩く。 その大きな背中についていきながら、銃を構えどこからか湧き出て来る餓鬼を始末していった。 そして少し開けた場所に辿り着くと、前を歩いていた宇髄の足が止まり庇うように腕を出す。 「見んな」 「し、しかし」 「食い散らかされた跡があるだけだ。ここに親玉も小せえのもいねぇ。迂回するぞ」 「…はい」 雪無の頭をすっぽりと片腕で包んだ宇髄に連れられ別のルートから原因を探る。 暫く歩いていると、祠が壊され寂れた社がある場所へと着いた。 そこには黒く淀んだ歪みがあり、全身の毛が逆立つ感覚に襲われる。 「これが原因ですね」 「みてぇだな。あっちも簡単には浄化させてくれねぇらしいが、雑魚は任せろ。お前はお前の仕事に集中しな」 「はい」 「派手にぶちかましてやるぜ」 ニヤリと口角を上げた宇髄が餓鬼の群れへと飛び込み、その間に雪無は札を歪みへと投げ浄化の準備に取り掛かる。 「伍ノ型 鳴弦奏々!」 集中しようと手を合わせた雪無の後ろで轟音を奏でながら餓鬼を蹴散らす。 徐々に浄化し始める札が段々と黒ずみ燃え始めた頃、銃口を向け一発二発と弾を撃ち込んだ。 「ハハッ、弱ぇな!」 「歪み、閉じました!」 「おう。後はこいつらの始末だけだな」 「…はい」 ズシン、と音がして一際大きな身体を持つ餓鬼が姿を現した。 異様に膨れた腹は口の様なモノがついていて、そこからは人の脚のようなものが飛び出している。 「行くぞ、雪無。俺についてきな」 「努力します」 細長い手を伸ばし二人を攻撃してきた餓鬼に、別の方向へ散らばった。 戻 |