3 「…………………」 朝、目を開けた雪無はボーッとしたまま自分を囲んで寝る顔のいい教師たちを眺めた。 (どういう状況なんだろう) 驚き過ぎて逆に冷静になってしまった雪無が静かに頭を抱えそうになりながら、掛け布団からはみ出している二人へ一枚ずつ布団をかける。 起こさないようにベッドを抜け出し、一人分開いた二人の寝顔を見つめると何故かいけないものを見ている気分になって頭を振った。 (…写真、撮ってもいいかな) そーっと携帯を取り二人の寝顔を写真に収めると口を抑えながら床の上で悶える。 (これは凄いものを撮っちゃったかもしれない…) しっかり保存した雪無は、寝ている二人を置いてキッチンへと向かう。 朝ご飯は何にしようとエプロンを付けながら後ろを振り返ると、割れた水晶玉がいつの間にかくっついている。 「…赫が直してくれたの?」 隣に寄り添うように紅い水晶玉が鎮座しており、眉を下げた雪無がちょんとつつく。 「ゆっくり休んでね。赫と蒼が元気になったらいいもの見せてあげる」 秘密だよ、と一人呟いて水晶玉へ背中を向ける。 手を洗い炊飯器をセットして、洗面所へ向かうと歯磨きと洗顔をしてもう一度キッチンへ戻った。 冷蔵庫を開けて、食材を取り出すと手慣れたように野菜を切って朝ごはんの準備を始める。 サラダと焼鮭を皿に用意していると、米が炊けた音も聞こえ火に掛けてある味噌汁の入った鍋を覗き見てコンロを止めた。 「そろそろ起こさないと」 そう思いながらテーブルへ二人分のおかずを運びエプロンを外しながら自分の部屋へ向かう。 「おい冨岡!なんで目の前に居るんだ気色が悪い!」 伊黒の叫び声が聞こえ、予想通りの寝起きに雪無は小さく吹き出しながら部屋の扉を開けた。 ベッドの上では寝起きでぼんやりと怒っている伊黒を見つめる冨岡の異様な光景が広がっている。 「おはようございます」 「雪無、お前…どうして起こしてくれなかった!」 「おはよう」 その場に立っていた雪無に即座に近寄り文句を垂れる伊黒にのけ反っていると、未だにベッドの上に座り挨拶をする冨岡がふわりと笑う。 寝起き早々騒がしいと感じながらも、二人の関係性を知っている雪無は困った様に笑い返した。 「朝食が出来たのでとりあえずご飯にしましょう?」 「…俺は」 「少量にしていますので安心してください。味噌汁はありますが飲み物の希望はありますか?」 「味噌汁があるなら水でいい」 「お茶がいい」 「分かりました」 不満げな伊黒に押し切るよう飲み物の希望を聞けばすんなりと返事が返される。 ある程度想像した通りだった雪無はこくりと頷いて再びキッチンへ戻った。 すぐについてこない伊黒は恐らく洗面所にでも向かったのだろうと思いながら、茶碗にご飯を盛り水とお茶を用意する。 「…手伝う事はあるか」 「いえ、後は運ぶだけなので」 「ならそれを寄越せ。三人分では重いだろう」 トレーの上に乗った三人分の味噌汁を伊黒が持ち、茶碗を持ったままの雪無が呆気にとられながらその背中を眺めた。 味噌汁の他に漬物など重い皿に乗った物もあったが、それを片手で軽々と持ち上げる伊黒の筋が浮き出た腕に視線を移し頬を赤くする。 (かっこいい) 「雪無」 「…と、冨岡先生。気配を消すのをやめて下さい」 伊黒を見ていた雪無の後ろから手が伸び、そっと腰を引かれ振り向けばまだ眠そうな目をした冨岡が体重を掛けながら甘えるように擦り寄る。 「…………っっ!」 いろいろな意味でこの二人は目に毒だと体を震わせながら逃げ出したくなる衝動を堪えた。 今慌ててしまえば手にした茶碗を落としてしまうことになる。 (寝起きの冨岡先生可愛すぎて心臓が持たない…) 「冨岡、邪魔だどけ」 「何だ」 「折角雪無が作ってくれた飯が冷めるだろう」 「…それは駄目だ」 渋々と雪無を解放した冨岡は用意された茶碗を3つ持ちテーブルへ運んでくれる。 結局コップと湯呑みだけを持った雪無が居間へ行くとそれぞれ好きな席へ腰を下ろし、食事に手を付けず待っていた。 「先に食べてなかったんですか?」 「食事は揃って食べる物だろう」 「早く座れ。お前待ちだ、雪無」 「あ、はい」 伊黒に急かされいつもの席へと腰を下ろすと二人は両手を合わせて雪無を見つめる。 いただきます、と揃ってはいなかったが両手を合わせて箸に手を伸ばす二人に心がじんわりと温まるのを感じた。 「……」 「また腕を上げたか」 無言で食事を取る冨岡と、小さく口へ運び満足気に頷く伊黒を見て雪無の口角が自然と上がる。 「誰かと食べるって素敵ですね」 そう一言洩らした雪無もいただきますと言って朝食を食べ始める。 とても穏やかな朝だった。 つづく。 戻 |