アヤカシモノ語リ | ナノ
1

「冨岡先生、寝るならお布団で寝てください」

「…あぁ」


風呂から上がった冨岡を雪無が引っ張り客室へと案内している。
疲れたのか寄り掛かるように抱き締める冨岡は家にあった男性用の浴衣を着て髪に擦り寄った。


「一緒に寝るか」

「ね、寝ません!」

「雪無…」

「掠れた声で名前を呼ばないでください…」


顎の下に手を差し込み雪無の耳元へ唇を寄せると、眠いからなのか掠れた低い声が名前を呼び顔を真っ赤にしながら必死に冨岡を引っ張る。

華奢な身体を壁に追いやり首筋に顔を埋めてちゅ、とリップ音を立てながら吸い付く。


「っ、冨岡…せんせ」

「可愛い」


首筋に薄く紅い痕をつけると満足そうに頷いた冨岡はまた雪無に甘えながら客室へついて行く。
既に敷いてあった布団へやっとの思いで連れて行くと一緒に転がるように倒れ込んだ。


「冨岡先生、離して下さい」

「一緒に寝たい」

「だ、駄目です!」

「雪無は俺が嫌いか」

「それとこれとは別です」


ジタバタと藻掻く雪無の髪を梳きながら抱き締める冨岡に真顔で正論を叩きつけると、数秒の沈黙の後そっと身体に回していた腕を離し布団の上で正座した。


「怒ったか」

「怒ってません」

「…すまん」


真顔で冨岡を見つめる雪無にしょんぼりと肩を落とすと子犬のような瞳で見つめてくる。
恐らく冨岡は無自覚ではあるが、その視線に内心キュンとしてしまった雪無は自分の衣服を正しながら掛け布団を膝に掛けて立ち上がった。


「ちゃんと寝て下さいね」

「分かった」

「冨岡先生、今日はありがとうございます」

「いい。俺はいつでもお前の側に居たい」

「………」


手の甲にキスをした冨岡に微笑まれ、無表情ながらに全力で照れた雪無は顔を赤くして目を逸らした。
普段表情を変えない冨岡が笑う威力と、ストレートな言葉の破壊力は計り知れずプルプルと身体を震わせる。


「で、では…おやすみなさい、冨岡先生」

「…」

「冨岡先生?…ぶっ!」

「おやすみ」


手を握ったまま見つめていた冨岡は自分の手を引いてこの場を去ろうとした雪無を引き寄せると唇を奪う。
床に手をついたままの雪無にムフフと笑うともぞもぞ布団の中に入ってあっという間に寝息を立てはじめる。


「………」


呆気にとられていた雪無はそのまま畳へ頭を打ち付けると静かに部屋を後にした。
襖を締めると縁側に佇む大天狗の後ろ姿を目にしてそっと一歩下がった場所へ腰を下ろす。


「大天狗様、お身体に触りますよ」

「北条院の子、いや。雪無殿、此度の件本当に世話になった」

「いいえ。私は私がするべき事をしたまでです。大天狗様の仲間も殆どが助けられませんでした」

「雪無殿は悪くない。悪いのは全て、妖狐であろう」


様々な場所に包帯が巻かれた身体を震わせて空を見上げる大天狗に目を伏せながら妖狐の事を思い浮かべる。
長い歴史の中でも名を残してきた妖狐は姿形を変え、様々な時代で人や妖、仙人までも巻き込みあるべき形を歪ませてきた。 


「儂は、あの森へ帰る」

「し、しかし」

「雪無殿が浄化してくれたが、きちんと弔ってやらねばならぬ。幸い被害の無かった天狗達は他所へ避難させていたからな、きっとその者たちも戻ってくる」

「……そうですか」

「そこでだ。きっと今がいい機会だ、昔の古い契約を捨て新たに雪無殿と友好を結びたい」

「友好、ですか?」

「うむ」


怒りに打ち震える大天狗に掛ける言葉が見当たらない雪無が俯いて小さな手を力強く握り締めていた。
その姿を振り向いた先で見た大天狗は静かに怒りを収め、雪無へと近寄りそっと頭を撫でる。


「我等は今後、北条院家の者たち、そして鬼殺隊の者たちと協力し合い、この現世を共に守って行きたいと思っている」

「大天狗様…」

「我等だけではこの程度で済まなかった事くらい分かっておる。何より鬼殺隊の伊黒殿や冨岡殿が居なかったら状況も良くはならなかったかもしれん」


そう言った大天狗に雪無は深く頷いた。
鬼殺隊の柱達の実力は心強く、そして何より雪無の心を支えてくれる。

今まで一人でやって来たことが不思議なくらい、鬼殺隊の面々の力を借りていると自覚していた。


「私も、心からそう思います」

「俺達だけでは打開も難しかったがな」

「伊黒先生…」

「本来妖と接するなど滅殺する時だけかと思ったが、神通力の使える大天狗となればお館様も許してくださるだろう」


お風呂から上がったばかりなのか、雪無の家にあった男物の浴衣を着た伊黒が姿を現し隣へ腰を下ろす。
隣に座った伊黒へ視線を向けると前髪はかきあげられ、どこにあったのか後ろで髪を結っている珍しい姿を見て大天狗も雪無も目を見張った。


「……何だ。二人して化物でも見たような顔だな」

「い、いえ!珍しい髪型だったので、つい…」

「ふっ…はっはっは!やはり人の子というのは面白い」


不服そうな伊黒に慌てた雪無が両手を振りながら誤解を解こうとする姿を見ていた大天狗は大きな声で笑い声を上げた。
余りに大きすぎる声に驚いた雪無と伊黒が今度は大天狗を見ると、一頻り笑うと肩を上下させながら深呼吸をする。


「愛おしい者たちよ。これからは我等もお前達の友として同じ戦線に立たせてはもらえないだろうか」


そう言った大天狗の表情はとても柔らかく優しいものだった。
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