4 「雪無、援護するぞ!」 「はい!」 「爺が無理をするな、全く」 響き渡る大太刀と薙刀のぶつかり合いに唖然としていた三人だったが、すぐに頭を切り替え援護する為に各々の武器を構える。 雪無は大天狗が瘴気にやられぬよう銃弾を浴びせ、札をもって祓いながら駆けた。 「冨岡!」 「分かっている」 近接武器の二人は大天狗の邪魔にならないよう切断された足元を同時に切り崩しながら立ち回った。 一気に三人からの攻撃が増えた烏天狗は忌々しそうに眉を顰め大太刀を振りかざす。 「伊黒殿、冨岡殿!避けろ!」 大太刀の切っ先が地に刺さり、地割れが起こった瞬間辺りを包む透明な結界が弾き飛ばされそうになった二人の体を受け止めた。 「赫!」 「わりぃな、主。遅くなった!」 「大丈夫なの?」 「おう。蒼も少し休めば大丈夫そうだ」 「…そっかぁ、良かった」 赫によって、いつもより層は薄いが清浄な気が辺りを包み呼吸がしやすくなる。 そして何より自分の式神が無事だった事を喜んだ雪無が涙をためながら微笑み、持っていた銃を強く握った。 「大丈夫だ、主。俺らはずっとそばにいる。行ってこい!」 「うん!」 「伊黒、冨岡!主頼むぞ!」 「あぁ」 「遅れて来たくせに偉そうだな」 「うるせぇ」 調子を取り戻した雪無達に大天狗は黙ってその姿を見ると緩やかに口を持ち上げ、怒り狂う烏天狗へ目を向けた。 「なぁ烏の。見えるか、人の子達はこうして他人を思いやり合いながら生きておる。他の者は分からないが、この子達は信用出来るだろう」 「殺す、コロス…殺ス!!」 「…儂もお主とはあぁして生きて行きたかった」 既に意識を失った烏天狗に悲しそうな表情を浮かべると、薙刀を強く握り締めた。 三人が再び前線へと戻ってきたのを横目で見ながら切っ先を烏天狗へ向ける。 「旧友として、お主を止める。恨むなら儂を恨めよ」 「大天狗様、行きます!」 「待たせたな」 「老体に鞭打つようで悪いがさっさと終わらせるぞ」 「あぁ、参ろうか」 咆哮を上げる烏天狗へ全員が攻撃を仕掛ける。 雪無と結界の力によって段々力の弱まった烏天狗を打ち破るのにそう時間は掛からなかった。 大太刀を支えに膝を付いた烏天狗へ雪無が札を貼り模様を撃ち抜き、辺りを光が包み強く禍々しい瘴気が破裂するように消えていく。 「……ゆっくり休め、友よ」 身体がゆっくり光と共に消えていく烏天狗を見つめながら大天狗は誰にも聞こえないように呟いた。 辺りに散らばっていた遺体の山も一緒に消えていく。 「大天狗様…」 「すまぬな、北条院の子…いや、雪無殿。暫し一人にさせてくれまいか」 「…はい」 大きな身体が寂しそうに下がったのを見ながら、大天狗の希望通りに距離を置き結界を解かせる。 赫が出現するまでの傷跡は残っているが、修復不可能な程ではなかった。 とぼとぼと冨岡と伊黒の元へ歩いてきた雪無を二人が迎えると、困った様に眉を下げる。 「先生、ありがとうございました」 「雪無も頑張った」 「全く、傷だらけで帰ってきた時には驚いたぞ」 「すみません」 泥や木の葉が付いた状態の三人はお互いの姿を見て一瞬時が止まり、小さく吹き出す。 「冨岡先生、髪の毛にたくさん枝が刺さってますよ」 「取ってくれ」 「伊黒先生も、葉っぱが天辺に乗ってます」 「…こんな物自分で取れる」 「ふふ」 枝の突き刺さった冨岡の髪を綺麗にしながら雪無が伊黒に笑いかけると、少しだけ顔を赤くしながらそっぽを向く。 ふと雪無の髪に不自然な程に不揃いな場所を見つけた伊黒がその部分を手に取り眉を寄せる。 「…斬られたのか」 「え、本当ですか?」 「今日はもう美容室もやっていないだろう。帰ったら俺が整えてやる」 「助かります」 そんなやり取りを聞きながら冨岡は自分の頭を撫でる雪無の手にうとうとと目を瞬きさせた。 「冨岡先生もお疲れみたいですね」 「緊張感のない男だ」 「家、部屋が余っているので今日お二人が良ければ泊まっていって下さい。濃い瘴気にやられたようですし、浄化しないと」 雪無の言葉に髪を触っていた伊黒の手が止まり眉がピクリと動く。 冨岡の髪についているゴミを取りながらの雪無は伊黒の変化に気付くこともなくそのまま言葉を繋げた。 「伊黒先生と、お話もしたいです」 「…お前は、もう少し危機感というものを持て」 「信用してますし、大天狗様も治療の為に家に呼ぶつもりなので安心してください」 「………はぁ」 そう言った雪無に大きなため息をつくと、仕方ないとばかりに伊黒が頷いた。 つ づ く。 戻 |