アヤカシモノ語リ | ナノ
3

「雪無、冨岡。あいつは今までのやつより一層質が悪い。出来る限り自分の事は自分でやれ」

「あぁ」

「伊黒先生…」

「お前は瘴気を浄化する唯一の存在だ。力を温存しながら戦えと言うのも難しいとは思うが頼んだぞ」


そっと汗の浮かんだ雪無の額を撫でれば、嬉しそうな顔をして微笑まれる。
ふと朝言ってしまった事を心の中で悔いた。

もう一度雪無を見れば冨岡に寄り添われ会話をしている。


「キツくなった時は俺を呼べ」

「はい、ありがとうございます」

「無理はするな」


髪に触れた冨岡に頷いた雪無を見ながらズキズキと痛む心を抑え、前を見る。


「さっさと倒して大天狗を助けるぞ」

「私は一先ず大天狗様に近寄って状態を確認します」

「頼んだ」

「こそこそと人間風情が我に勝てると思うなよ!!」


一斉に走り出した三人はそれぞれ散らばり多方面から攻撃を仕掛ける。
銃を扱う雪無は距離を保ちながら冨岡と伊黒のサポートを上手くこなし大天狗へと近づいて行く。


「ちっ、硬いな」


鈍く金属同士がぶつかるような音がして、足を狙った伊黒の刀が弾かれる。
身体が硬化されているのか、じんじんと痺れる手を振りながら舌打ちをした。


「陸ノ型 ねじれ渦」


伊黒とは反対側の足を崩す為に身体を捻って技を出した冨岡が薄く刃を通らせるが、すぐに振り払われ距離を取る。

大天狗の元へ行っていた雪無が二人に気付き、急いで銃口を向けて弾丸を発射した。
弾は瘴気を祓い、足の中へと埋まる。


「貫通しないならっ…冨岡先生!そこを狙ってください!」

「分かった」

「伊黒先生、これをっ!」


弾丸の埋まった場所へ刀を振るった冨岡の刃は片脚を斬り落とし、巨大な体が一瞬傾いた。
それを見ながら伊黒へ小さな小瓶を投げ渡し、それを受け取ると中には液体が入っている。


「家の湧き水です!刀に掛けてください」

「そういうことか」

「大天狗様はまだ息があります。私は浄化後すぐに続きますので!」

「あぁ」


伊黒が雪無と会話している間、冨岡は切断した足を再生させまいと奮戦していた。

纏う瘴気を振り払い、更に水の呼吸の足使いを惜しむ事なく使用していく。
素早さのある冨岡は上手く烏天狗を翻弄しながら堅い羽毛に空中で突きの態勢を取る。


「漆ノ型 雫波紋突き」

「ぐぬぅっ!!き、さまぁ!先程からちょろちょろと鬱陶しい!」

「っ、」


烏天狗が大太刀を振るった刃が頬を掠め、一瞬距離を取りもう一度向かおうと態勢を整え更に濃さを増した瘴気の中に突っ込んでいく。
冨岡の斬られた頬が紫に染まるのも気にせず、刀を振りかざす。


「水の呼吸、壱ノ型 水面斬り」


烏天狗の目を狙い横へ薙ぎ払うと、そこから血を噴き出し痛みに悶える様子を見ながら足元へ着地する。
徐々に漏れ出る瘴気がその傷を癒やし始めると、後ろからハンマーを引く音が聞こえ身を屈めた。


「雪無、目だ」

「はい!」


ドン、と重く響く音が聞こえると烏天狗の右目が撃ち抜かれる。
浄化された場所は再生を止め、大きく跳躍した伊黒が翼を狙う姿が目に入り自分も続いて飛び上がった。

二つの刀を合わせ、強く堅い左の翼を切断すると烏天狗の断末魔が響く。
余りの声量に冨岡も伊黒も吹き飛ばされ、其々木の枝や地面に着地した。


「あ"ァァァぁ!!!」

「くっ…鼓膜が」

「っ、おい冨岡!早くあの煩いのをどうにかしろ!喧しくて敵わん」

「貴様ら…許さん、許さんぞ…!」


目が潰れ、片翼を失った烏天狗は疲労によって肩で息をする冨岡に手を伸ばす。
断末魔によって耳のおかしくなった冨岡が避けようとするが、三半規管がやられバランスを崩し前のめりに倒れそうになった。


「冨岡先生!!」

「冨岡!」


自分の名前を呼ぶ雪無と伊黒の姿がゆっくりと流れる様に見え、迫ってくる手へ視線を向けた。
最後の抵抗とばかりに刀を構えるが、硬化された体に効かないことは冨岡自身よく分かっている。


「いや!!冨岡先生!」

「大丈夫だ、冨岡殿」

「っ!」


迫り来る手に目を閉じようと思った時、強く暖かな風が吹き冨岡の身体を包み込む。
すぐ目の前に迫っていた手は風に弾かれ、緩やかに冨岡を雪無の前に運んだ。


「すまない」

「っ、今浄化します!」

「謝るのは儂らだ…なぁ、烏の。もう辞めにしないか」

「黙れ!もうすぐ死ぬ老いぼれのくせに、今の我に勝てると思っておるのか!」

「不浄不浄と言いながら貴様が発するものはなんだ!自分を見てみよ、その溢れだす穢れを!その様なものに頼るほど儂はまだ落ちぶれてはおらぬ!」


そう言うと大天狗は薙刀を振り回し、烏天狗へと向かって行った。
 

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