アヤカシモノ語リ | ナノ
3

「ただいま」


何事も無く家に辿り着いた雪無は祖父と祖母の遺影の前へ行き、両手を合わせた。
彼女を捨てただらしの無い両親の代わりにたくさんの愛情を注いでくれた唯一の家族。

雪無の家系は代々神社を営み、夜には妖怪退治を専門に扱う仕事を請け負っていた。
神通力を持つ祖父に、それを献身的に支え愛した祖母。その二人から生まれたはずの母は妖の存在を恐れ家から逃げ出した。
小さい頃は何故だろうと思っていた彼女も、ある程度大きくなって何の能力も引き継げなかった母が逃げ出したのも仕方ないのだと思えるようにはなったが。

社内を掃除し、ご神仏に祈りを捧げ日中手伝ってくれているパートの人を帰した雪無は普段の服を脱いで、ある特殊な加工をされた巫女服に腕を通す。

それは動きやすさを考え、瘴気を払うのに特化した妖怪退治専用の戦闘服だった。
腰からは銃を入れるホルダーが下げられている。


「赫、蒼」

『行くの?』

「うん。まだ目星はつけられなさそう?」

『臭いも何にもしねぇんだよ』

「そう。珠世さんからも連絡は無いからいつでも動けるようにしようか」


雪無は社を飛び出し、大きく跳躍した。
近場の家の屋根に音も無く降り立つと、紅に染まる町並みを眺める。

しかし暗くなっても鬼一口は現れず、コンビニで買ったおにぎりを食べながら一等見晴らしのいい丘でこれまでの被害があった家を一つ一つ確かめた。


「…行こうか」

『何か分かったの?』

「うん。特定の条件の所に出てるみたいだから、もし今日来るならあそこだと思うの」

『了解した』


最後の一口を口の中へ放り込むとゆっくりと立ち上がった彼女の瞳が紅く染まる。
蔵がある家を狙っているらしいその鬼はある一定の範囲をランダムに襲っているらしく、雪無は近場の家を指差し目を付けた。

赫と蒼は彼女から離れ身体を光らせる。


「これ以上の被害者は出さない」


夜闇を走り結界を張り出した二匹に告げるとその家へと舞い降りる。
銃を構え蔵の扉を破壊して蹴破るとそこには大きく口を開けた鬼が一体。

雪無が使う銃弾は清めの弾であり、妖怪にのみ効果がある。
二匹が結界を貼るのはその空間だけを隔離し、捉えた妖怪を逃さないためのものになっておりそこで破壊しようが大きな音が出ようが周りには影響のないようになっている。


「悪い子は地獄に還りなさい」

『ヴ…ォ…オオオォアァ!!』


長い舌を使いながら雪無の攻撃を跳ね返し、隙あらば捉えようとする鬼一口に重い音を響かせながら応戦する。


「!!」


何度も銃弾を受け顔が欠けていく鬼は一頻り大きく暴れると、蔵の中にある積み重なった荷物に当たりバランスの崩れたそれが雪無に向かって落ちてくる。

それを避けようと身体を捻ると、足元に伸びていた舌が彼女の足を払いその場に崩れ落ちた。
重い荷物が雪無に落ちてこようとも、態勢を崩したまま銃口を鬼へ向け続け額を撃ち抜く。

大きな顔が後ろへ傾くのを見届け、自分に降り掛かる一際大きめな荷物の衝撃から身を守るために顔の前で腕を交差したその時、目の前に降り立った黒いスーツ姿の男がそれらを切り落とした。


「…誰」


月明かりで姿の良く見えない人物へ声を掛ければ、ゆっくりと後ろへ振り返った。
やっと顔が確認出来た雪無は無言で目を見開く。
それは向こうも同じだったのか、同じように大きく見開いた目で口を開いた。


「お前…北条院か」


黒のスーツに身を包み、黒い手袋を嵌め刀を持った人物は昼食を共にした冨岡その人だった。
驚きで言葉が出ない雪無にもう一つの影が蔵の中へ入ってきて、瘴気を出し始める鬼を眺める影も彼女の存在に気付き振り返る。

その人物もまた、雪無が見た事のある人物だった。


「北条院…何故お前がここに」

「…こっちのセリフです。冨岡先生、伊黒先生」


やっと口を開いた雪無は自力で立ち上がりながら後退る。


「兎に角、伊黒先生はそこを退いて下さい。浄化しますので」

「浄化だと?」

「妖への知識がどれほどの物なのかは知りませんが瘴気を浄化しないと人体へ被害を出します」


雪無は懐から札を取り出して、最後の瘴気を爆発させようとしていた鬼へ投げつけると一際大きな光を放ち、その光が収まった後には鬼が居なくなっていた。

その手なれた様子を伊黒と冨岡は唖然と見ている。
すると耳に付けた通信機から二人に声を掛けるもう一人の大きな声が響いた。


『おーい!そっち終わったか?』

「…宇髄。声がでかい」

「こちらは鬼の消滅を確認した。が、少々イレギュラーな事態が発生してな」


服の埃を払い落とす雪無の姿を見ながら壁にもたれ掛かった伊黒が通信先の宇髄へ報告する。
その声を聞いていた雪無は心の中で激しく動揺していた。


(な、何で先生たちが…スーツ凄く格好いいけど、どうしよう)


赫と蒼は結界を解きこちらへ向かっている。
この状況をどう説明しようかと、逃がすつもりがなさそうな二人を見て途方に暮れた。







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