アヤカシモノ語リ | ナノ
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冨岡達が準備を終えると、時間は既に七時を指しており鞄を持った雪無を玄関で待つ。


「冨岡先生、本当に大丈夫なんでしょうか」

「早く行けば大丈夫だ」


今日は車で送っていくと言った冨岡に押し切られた雪無は辺りを見回しながら後部座席へ乗り込む。

いつものように助手席に乗らないのは学校関係者や保護者に見られないようにする為なのだろうが、冨岡は不服そうに雪無を見つめた。


「あの、保護者の方に見られたら大変ですから…」

「……俺を思っての行動なら文句は言わない」

「ありがとうございます」


エンジンを掛けた冨岡がアクセルを踏み、学校への道のりを窓越しに見つめた。
駐車場につくと、礼を言って冨岡と別れ教室へ鞄を置きに行きもう一度靴を履いて飼育小屋へ向かう。


「あれ」


伊黒先生の背中が見えたので声を掛けようかと思った瞬間、向こう側に見えた職員らしき女性が抱き着いた。


「っ…!」


思わず声が出そうになった雪無の後ろから2つの腕が伸びてきて、木の影へと身体を引き込まれる。
突然の出来事にじたばたと足を動かすと、耳元に顔が寄せられた。


「おいおい、俺だよ。静かにしろ」

(宇髄先生…!)

「いい子に言うこと聞けるな?」


口と身体を抑えられたままなので無言で頷くと満足そうに笑った宇髄の太く逞しい腕から解放される。
息を整えながらも至近距離に居る顔立ちのいい宇髄に顔を赤くしながら、女性職員の肩を優しく撫でる伊黒の姿を見て少しだけ心が痛んだ。


「朝から派手に告白とはやるな、伊黒のくせに」

「や、やっぱり告白なんですね」

「俺もたまたま見ちまって隠れたがまさかお前が来るとはな」


ポン、と頭を撫でられ困ったような笑顔を浮かべた宇髄に思わず俯く。


(盗み見してるみたいで申し訳ないな…)

「盗み見してるなんて思ってんならそんな罪悪感感じる必要はねぇよ」

「!」

「はっ、何か段々お前の考えてること分かるようになってきたわ」


愉快そうに小声で笑った宇髄はちらりと伊黒たちの方を確認すると、既にそこには人影がなくなっていた。
雪無もつられてそちらを確認して、近かった宇髄から程よい距離感を取る。


「しかし何で飼育小屋に用があったんだ?」

「お世話してる子達元気かなと思いまして」

「あー、そういやお前生物委員だったか」

「はい…っ!!」


雪無が飼育小屋へ向かおうと木の影から顔を出すと至近距離に伊黒が居て声にならない声が出た。
思わず後ろに下がった雪無の身体が宇髄に受け止められ、逃げ場のなくなった彼女は驚きに染まった表情のまま伊黒を見つめる。


「覗き見とは良い度胸だな。それとも何か、今度は宇髄と逢引か?」

「え、あっ…」

「んな訳ねぇだろ。あんな所で教師がラブコメ広げてんのが悪ぃだろうが」

「ふん…」


思わず黙ってしまった雪無に呆れた声で宇髄がフォローすると伊黒は鼻を鳴らして顔を背ける。
なぜだか機嫌の悪い伊黒におずおずと手を伸ばそうとするも、先程抱き着かれたせいか女性ものの香りがしてそっと腕を下ろした。


「こいつはただ生物委員として動物の様子見に行こうとしただけだ」

「当番ならもう来た」

「ちっ、面倒くせぇ奴だな。さっきから女の香水振り撒きやがってクセェんだよ」

「これは不可抗力だ。同じ職場の人間を突き飛ばす事は出来まい」


段々と雰囲気の悪くなる一方、間に挟まれた雪無はおろおろと二人を交互に見つめる。
何か言いたげに口を開いたり閉ざしたりとしているがその唇から言葉は繋がれる事はない。


「大体てめぇ雪無の事好きだ何だっつってスキ作りすぎじゃねぇのか」

「そんなものお前に関係あるまいよ。俺はきちんとあの教師の想いは断った」

「関係あるもクソもねぇよ。好きな女に悲しそうな顔させてんじゃねぇ。本当に好きならどんな関係だろうが派手に幸せな笑顔にしてみせろ」

「……っ、知ったような口を」

「あの、私…ごめんなさい。伊黒先生も、宇髄先生も喧嘩しないでください」


ヒートアップし続ける二人の袖を意を決して握り締めた雪無はいつになく険悪な二人に涙を瞳に溜めながら振り絞るように声を発した。
弱々しく小さな声だったが、二人の耳には届いたようではっとした表情を浮かべ雪無を見下ろす。


「当番でもないのにここに来た私が悪かったです。ごめんなさい」

「…おい、雪無。お前が謝るような事じゃ」

「……そうだ。冨岡と仲良く教室に行けば良かったんだ」

「あぁ?テメェまだ言って…」


苦々しげに眉を寄せた伊黒は雪無へそう吐き捨てると踵を返し残された二人から遠ざかっていった。
 

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テーマ「人外ファンタジー」
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