3 「力を使いすぎたか」 肩で息をする雪無の背中にそっと手を差し伸べた冨岡は心配そうな視線を投げ掛ける。 時透兄弟も側へと寄り添い少し顔色の悪い雪無を覗き込む。 そこへ、パチパチと乾いた音が鳴り響いた。 「すごーい」 「…まだ居たのか」 姿を消したと思っていたその存在に雪無を守るようにして刀を再び抜いた三人が鋭い視線を投げ掛ける。 「相変わらず北条院家の力って凄いのね。勿論その刀もとっても厄介みたいだけど」 「お前も味わってみる?」 「遠慮しておくわ。今回はただの挨拶がてらに顔を出しただけだし」 「逃げるのか」 「挑発に乗ったら…駄目です」 戦闘態勢になった冨岡の肩を掴んだ雪無は目の前に降り立った存在を前に小さく呟く。 そんな雪無に満足そうな女は不気味な笑みを浮かべ、彼女を見下ろした。 「賢明な判断ね、北条院家の孫」 「…っ」 「知らないと思うけど、祓いの力は使い過ぎると術者の生命力に影響を及ぼすの。貴方達はそれを知ってるのかしら?」 「…雪無、どういう事だ」 女の言葉に目を見開いた冨岡は顔を逸らした雪無を覗き込みながら問い掛ける。 「知らないでその女と共闘してたの?まぁ今の所はそんなに酷使してないみたいだけど」 「これ以上北条院先輩に近寄るな」 「仲間と思ってたのは鬼殺隊のあんた達だけなのかもね。考えれば分からない?これだけ強力な祓いの力を扱えるなんて何かあるんじゃないかって事くらい」 無一郎が日輪刀を近寄ってきた女へと切っ先を向けると、鬱陶しそうに手で弾きながら軽蔑した視線を冨岡達へと向ける。 「それは」 「あんたもあたしと良い勝負ね、北条院家の孫。男達を誑し込むなんて、女狐の才能あるかも」 「そんな事はしてないっ!」 「あぁ嫌だ。女の絶叫ほど見苦しいモノはないわ。じゃあどうして力を使い過ぎちゃいけない事を言わなかったの?」 「そんなの気にしてる暇なんてないもの!お祖父ちゃんの様に私は強くなんて、ないから…」 「あたしを数年封じ込める為だけに自分の命を削ったクソジジイが強い?笑っちゃう」 「っ…お祖父ちゃんの事を馬鹿にするな…!」 馬鹿にするように鼻で笑った女を見たことも無いような鋭い目つきで睨んだ雪無は、身体を支えてくれている冨岡の腕を振りほどき身を乗り出しながら銃を構える。 「やめろ雪無」 「そうよ。そこの冨岡せんせーの言う通り」 「アンタ、本当に性格ひん曲がった不細工女だな」 「…何ですって?クソガキ」 黙ってやり取りを見ていた有一郎が心底軽蔑した目で女に向けて鋭い言葉を投げつける。 不細工と言う言葉に反応した女は眉を寄せ有一郎を睨み付けた。 「北条院先輩が可愛いからって嫉妬してるんだろ、って言ってんだよ。ババア」 「手を出さないで居てあげてればこのクソガキ…お前は殺してやる!」 「赫!蒼!」 美しい顔はどこへやら、有一郎に向かって怒りに顔を歪めた女が手を振り上げると、雪無が大きな声で式神の名を呼んだ。 その瞬間女の周りに清浄な気がバリアを貼り、有一郎との境を作ると触れる一歩手前で禍々しく尖った長い爪を留める。 「…北条院家の孫が、生意気な」 「それに触れたら死なずとも顔が一瞬で吹き飛ぶよ。それが嫌なら今すぐ消えなさい」 「ちっ…忌々しいあいつの技なぞ使いおって」 女は盛大に舌打ちをすると、長くなっていた爪を元の長さに戻し雪無達から距離を取る。 「力が戻ったらお前を一番に殺しに来てあげる。北条院の孫」 「…私は貴女に負けるつもりはない」 「やれるものならやってみるといいわ」 女は指を鳴らすとその場から気配全てが消え、結界を張っていた式神が一瞬で消える。 何の事だか分からない冨岡達はただ気を失い掛けている雪無を無言で見つめていた。 「…北条院先輩、今のは」 「時透。お前達迎えを呼べるか」 「冨岡先生と北条院先輩はどうするの?」 「雪無の家へ向かう。あそこは清浄な気で溢れている」 「ならすぐに向かってあげて。俺達なら適当に宇髄先生でも呼ぶから」 「気を付けて帰れ」 頷いた時透兄弟に頷くと、雪無を抱え自分の車へ走って行く。 その背中を見ながら無一郎はポツリと呟いた。 「北条院先輩、大丈夫なのかな」 「大丈夫さ。あんなに冨岡先生が必死な顔してんだから、俺達は一先ず帰ろう」 「…そうだね」 夜闇に紛れて見えなくなった二人に有一郎が無一郎の背中を叩くと、内ポケットから携帯を出して宇髄へと電話を掛けた。 つ づ く 戻 |