2 「肆ノ型 打ち潮」 足元から崩れ落ちた餓者髑髏へ追撃する冨岡の近くを浄化し、授かった力を使い再生し始めた足元にも狙いを定める。 1発、2発と撃ち込むと、更に瘴気を増幅させる餓者髑髏に雪無も冨岡も思う様に攻撃が出来ずにいた。 「時透君!」 「はーい」 「何?」 「足元から離れていて!」 あえて名字で呼ぶことで二人へ呼び掛けると雪無は一度地上で態勢を整え、反対側に居る冨岡の場所を確認する。 図体が大きく、足元を崩すだけでは駄目だと判断した雪無が懐から大量の札を用意し再び餓者髑髏へ向かって走り出す。 「全体の瘴気を抑える為に札を複数枚貼るので、少しだけ引き付けて下さい!」 「了解した」 「時透君達は冨岡先生の援護を!」 「分かった。行くぞ、無一郎」 「うん」 雪無の指示に従い、彼女とは反対方向に居る冨岡は餓者髑髏へ真っ直ぐ向かって行き、時透兄弟がサイドへ回る。 一度だけ冨岡が狙う場所に弾を撃ち込み、道を開くと足元へ向かって札を何枚か投げ付けた。 「下半身は貼り終えた…後はっ…!」 「有一郎!」 「っ、大丈夫だ!無一郎は冨岡先生のフォローしておけ!」 重たい音がして、有一郎が吹き飛ばされたのを視界の端で捉えた雪無は即座に腰部分へ札を貼りながら庇うように前へ出る。 「有一郎君!大丈夫?」 「ちょ、何で北条院先輩がこっち来てるんだよ!」 「札は大丈夫。後は上半身に貼りに行くだけだから」 餓者髑髏が持っていた刀にやられたのか、ぱっくりと開いた左腕に有一郎のネクタイで止血をする。 それを横目で見ていた冨岡と無一郎は二人の方へ行かないよう誘導しながら結界の中を走り回った。 「浄化はすぐにしないと有一郎君が危ない目にあう。ごめんね」 「…っ、好きにしたら」 「うん」 切れた所から血と瘴気が出ている有一郎の腕に手を添えて浄化すると、どちらも止まりそれに目を見開く。 「何これ」 「瘴気のせいで、身体に毒が回って出血しやすくなってたのを浄化しただけだよ」 「すげー」 「でも傷ついてる事には変わりないから、ちゃんと手当はしようね」 そっと有一郎の頭を撫でた雪無はもう一度銃を構え、未だに敵を引きつけている二人の方へ大きく飛び上がる。 式神が呼応する様に調度いい位置へ結界の足場を作ると、すぐに上半身部分へ札を貼り付けた。 上を見上げ頭部に貼り付けようと飛び上がろうとした時、雪無の動きに気が付いた餓者髑髏が腕を振り上げその小さな身体を潰そうとする。 「…っ!」 「雪無に触れる事は許さない」 「冨岡先生っ」 雪無に襲い掛かる大きな手を庇うように立った冨岡は隣に舞い降り刀を握り締めた。 「水の呼吸 拾壱ノ型 凪」 襲い掛かって来た餓者髑髏の手を一歩も動かずにバラバラにする冨岡に思わず目を奪われた雪無は、心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥った。 しかし自分の使命を思い出し、かっこいいと言いかけた言葉を一度引っ込めもう一度高く跳躍する。 雪無が飛び上がったのを確認した冨岡は再び前線に戻った有一郎と、自分の代わりに攻撃を与えている無一郎の元へ向かう。 「最後の、一枚っ…!」 後頭部に札を貼り付けた雪無はそのまま落下しながら白い銃に気を込める。 「皆さん一度引いて下さい!一気に浄化します!」 「「了解!」」 「分かった」 雪無が貼った札同士の間には起爆装置のように糸が繋がっており、胴体の部分へ貼り付けた札へ向かって銃を1発紋様の真ん中に撃ち込む。 すると糸を伝い全ての札が発動し、餓者髑髏を包んだ瘴気を一気に浄化すると冨岡が追撃するように結界を駆け上った。 ―――ありがとう、お兄ちゃん。お姉ちゃん。 「!」 赤黒くなっていた餓者髑髏は雪無により、真っ白な骨へと変わっていくと同時に近くに居た冨岡へ小さな子どもの声が聞こえて、肆ノ型から伍ノ型へ構えを変える。 「水の呼吸、伍ノ型 干天の慈雨」 いつの時代の子どもなのか、所々端が解れた着物を着ている子どもが冨岡へ向かって笑い掛ける。 崩れ落ちるようにバラバラになった骨は灰のように空中へ消えていった。 「…終わりましたね」 「そうだな」 「有一郎、怪我は大丈夫なの?」 「これくらい平気だよ。北条院先輩が治してくれたし」 跡形もなく消え去った餓者髑髏に四人はほっと肩を降ろし、各々の無事を確認する。 結界を解くと妖が暴れまわった跡も無く、刀や銃をしまい雪無は尻餅をその場につくようにして大きく息を吐いた。 戻 |