1 土の中に埋まる怨念。 愛する者を奪われ死した者。 戦火から逃れようと必死で逃げた先で餓死した者。 大切な者守る為にそれぞれが戦い死した者。 必死で生きようと藻掻いた人々は時代問わず様々な死を遂げた。 浄化されぬ魂はやがて群れを成し、大きな髑髏となった。 ぐちゃぐちゃと混じり合い自我すらなくなった。 そんな憐れな髑髏に手を差し伸べるは9つの尻尾を持つ狐。 巨大な髑髏は涙を流し、憐れみの涙を見せた狐の手を取った。 【餓者髑髏】 「冨岡さん、雪無さん。お待たせ」 「応援に来たよ」 「ありがとう」 「送ってきてもらったのか」 制服からスーツに着替えた時透兄弟は、刀を腰に差しながら冨岡の車を覗きこんだ。 ドアを開けて二人が外へ身体を出すと無一郎が雪無の格好をまじまじと見つめる。 「北条院先輩、僕達とお揃いだね」 「そうだね」 「可愛い」 ぼんやりとした瞳に頷くと、そっと耳に顔を近付けて小さな声で雪無を褒めた。 驚く雪無ににこーっと笑うと、腰に腕を回す。 「あ、え…ど、どうしたの」 「北条院先輩優しいから好き」 「そう、かな」 「あ!無一郎が北条院先輩に抱き着いてる!」 運転席側で話していた有一郎が雪無に抱き着く無一郎を見つけ指をさすと冨岡が鋭い視線で振り向く。 その瞬間既に腕を離していた無一郎が手を後ろで組みながら首を横に振っている。 「やめてよ有一郎。僕が冨岡さんに怒られちゃうじゃん」 「…こっちへ来い」 「ほんと隠す気なさ過ぎてビックリするよね」 無一郎から雪無の腕を引っ張り自分の側に立たせると、有一郎の言葉に顔を背けた。 困った様に見上げる雪無の腕を離し、頭を撫でるとスタスタ歩き始めてしまう。 置いて行かれそうな勢いに三人が急いで冨岡の後を追うと、墓地に入った瞬間悪臭がして全員が思わず鼻を塞ぐ。 パン、と手を叩くと呼びかけに応じ姿を現した式神が雪無の前に降り立つ。 「索敵して」 「「御意」」 返事をした二匹は飛ぶようにその場から散り、広い土地を探す。 四人は悪臭がするだけで姿を現さない妖に全員が気を張り詰めながらゆっくりと墓地の奥や野原の方へ進んでいく。 「くっさー!」 「色んな物が腐ったみたいな臭い…」 「気を抜くなよ」 「……そこに居るのは誰」 雪無は銃を無言で構え墓の後ろへ向かって声を掛けた。 禍々しい気配が一帯を支配し、冨岡も時透達も刀に手を掛け警戒する。 ヒョコ、と禍々しさとは正反対に大きな耳が2つ飛び出しこの世のものとは思えない程に美しい顔が墓の後ろから現れた。 尻尾には毛並みのいい9つの尻尾が優雅に揺れている。 「うっわ、凶悪美人」 「フザケてる場合なの?」 「あは!ありがとう!素直な子はお姉ちゃん大好きよ」 「………っ」 しかし雪無だけはその顔に見覚えがあった。 銃を持つ手が少しだけ震え、その違和感に心の中で自問自答を繰り返す。 (どうして委員長に似てるの…?) 普段眼鏡をかけた委員長は地味ではあるが、その外した姿は可愛いとクラスの中で有名な話だ。 誰に対しても人当たり良く、こんな自分でさえも挨拶をし続けて声を掛けてくれる。 そんな雪無の異変を察したのか、隣に立っていた冨岡が庇うように前へ押し出た。 「妖を強化しているのはお前か」 「やだ好みのイケメン!」 「………」 「その虚無顔も素敵ね!かっこいいお兄さんに免じて教えてあげるわ」 「っあ!」 「北条院先輩!」 嬉しそうに顔を染めた女は一瞬で冨岡の横へ移動し、雪無を吹き飛ばす。 恋人の様に冨岡の腕に両手を絡めた女はそっと耳に顔を寄せ色っぽく囁く。 「全部、あたしのお陰だよ」 「っ、はな…れろ!」 「えーっ冷たぁい!」 悪寒に背筋を震わせた冨岡は今ある力を盛大に使って女を振り払うと、吹き飛ばされた雪無に駆け寄った時透兄弟を横目で確認しながら刀を抜く。 男の力で振り払われたにも関わらず身体をくねらせ笑う女はその場から宙返りをして寺の屋根に飛び映ると口を三日月型に歪ませ笑う。 「あたしに靡かない男なんていらなーい。やっちゃって」 その声は冷たく、凶悪な声だった。 そしてそれに反応するかの如く、ガラガラと重い音を立て餓者髑髏が姿を現す。 脳に響くほどの叫び声を上げる餓者髑髏は瘴気をあふれ出しながら四人に向けて錆びれた刀を振り下ろした。 「結界を!」 立ち上がった雪無の声で式神が直ぐ様結界を展開するが、女の姿はすでに消えていた。 全てを薙ぎ払うような攻撃を宙へ大きく飛び回避し、雪無が瘴気を減らそうともう一つの銃を取り出し弾丸を撃ち込む。 「霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り」 「伍ノ型 霞雲の海」 雪無が作った清浄な気に滑り込んだ無一郎と有一郎は各々霞の呼吸を使い、餓者髑髏の足元を崩しに掛かる。 何を言う訳でもなく連携が取れる二人に内心感嘆の声を上げた雪無が同じ様に空中で浮いた冨岡へ視線を投げ掛けた。 戻 |