4 その後スーツに着替えた冨岡と雪無は二人で昼食を食べ、夕方まで暇を持て余す。 「そう言えば冨岡先生」 「何だ」 「今日はどなたか応援を呼べますか?」 コーヒーショップに入った二人はテイクアウトで飲み物を頼み、冨岡の車に戻ると今夜の事について話し合う。 「餓者髑髏はとても大きな骸骨の妖です。出来るだけ早く弱らせるには人数で弱らせるのがいいかと」 「なら時透達に連絡しておく」 「時透君達ですか」 「あの二人なら連携も取れている」 さっそく携帯を懐から取り出した冨岡はメールを開き操作をし始める。 それを横目で見ながら意外とタップの速度が早い事に内心驚いていた。 (どんな内容打ってるのかな…) 興味心で少しだけ画面を覗くと詳細は書かれず今日事件のあった野原に来いとの内容だった。 結局情報不足である冨岡に目を逸らしながらまぁいいかと自分の中で消化する。 「先に現場で待つか」 車の時計をチラと見て雪無にそう言うと、エンジンを掛け事件のあった墓地へ車を発進させる。 シートベルトを締め頷いた雪無は流れていく景色を眺めていると、右手が遠慮がちに握られた事で運転する冨岡へ振り向く。 「………」 自分の方へ振り向いた雪無に一瞬視線をやった冨岡はすぐに前へ戻し握り直すよう指を絡める。 その間二人に会話など無く、雪無だけが顔を真っ赤にして俯いた。 「伊黒には言われたのか」 「え?」 「……いや、何でもない」 聞き返した雪無にやはりいいと首を振ると赤信号で車が止まる。 何か言いたげな冨岡を不思議そうに見ていると、居心地が悪そうに姿勢を直した。 「冨岡先生?」 「あまり見つめるな」 「…ごめんなさい」 指を強く握り締めた冨岡にとりあえず謝るも、聞かれた手前中途半端に会話を終わらされた雪無は自分の手を眺めながら考える。 そっと自分より太い親指が肌を擦り、顔を上げると冨岡の顔がすぐ側にあって額に口づけが落とされた。 「気にしなくていい。俺と居る時は、俺の事だけ見ていてくれ」 「…は、はわ…」 「伊黒や他の男の事は考えるな」 魚のように口をパクパクさせた雪無に微笑むと、信号が青に変わり冨岡の整った顔が離れる。 互いに少しだけ湿った手を離すことなく再び現地へ到着した。 何を言わずとも手が離れ、車を降りると跡形もなく片付けられた野原と墓地を回る。 時折初夏特有の生温い風が二人の頬を撫でるだけで、何の気配もない。 「動画によると男女のメンバーは墓地から野原に掛けて今歩いた道を進んでいました」 「ここら辺は戦時中防空壕があったと聞く」 「…そういう事ですか」 立っていた雪無は野原を見渡し放置されたにしてはあまり背丈の伸びない草木に触れる。 自分の小さい頃ここはまだここまでの長さにすら成長していなかったと思い出を掘り起こしながら、まだこの土地の事をよく知らない自分を恥じた。 「餓者髑髏とは、戦死者や埋葬されなかった死者の骨や怨念から生まれた妖と言われています。勿論餓死によって亡くなった方も含めて」 「結局は人の業と言うやつか」 「そうですね。勿論例外も居ますが」 土を少量手に取り、両手で握り締めると祈るように目を閉じた雪無を冨岡が眺める。 まるでその姿は女神の様だと心の中で思いながら、無言で空へと視線をうつした。 「さて、一度車に戻りましょう」 「いいのか」 「そろそろ時透君達も来るでしょうし」 「あぁ」 踵を返し、車に向かって歩き始める。 風に乗ってガチガチと音が鳴ったが、二人は聞こえなかったようでその場を後にした。 墓の後ろから顔を出した少女が笑っていることも知らずに。 つづ く。 戻 |