3 珠世の待つ現場へと二人で足を運べば、雪無の姿に驚いた珠世が愈史郎と共に待っていた。 辺りは片付けられ、残るは四人の瘴気を払うだけになっていて珠世達は雪無の道を開ける。 「珠世さん、お疲れ様です」 「ごめんなさいね、学校の途中なのに」 「いいえ、ちゃんと先生に許可は取りましたから」 「冨岡さんも、お疲れ様です」 珠世が申し訳無さそうに雪無の頭を撫でながら、冨岡にも頭を下げた。 それに頭を下げて返事をすると、後ろから妙に殺気を放つ少年が冨岡を見ている。 「…なんだ」 「珠世様に失礼な奴め」 「?」 「えと、祓いますので宜しいですか…」 「愈史郎」 「はい!」 珠世の一言で落ち着いた愈史郎はぴしりと姿勢を正して冨岡から視線を外し祓う準備をする雪無へ移す。 いつの間にか姿を現した式神は遺体を囲み結界を張る。 「あれは何故結界を張る」 「遅かったようです」 「遅かった…?」 結界の中でブルーシートがボコボコと動き雪無がそこへ祓いの札を貼り付ける。 経を読むと、今度は紫の煙が上がり宙へ散漫し消えた。 それを見守った雪無が式神へ頷くと結界は解かれ、静まったブルーシートの下に構えていた愈史郎と珠世の部下がざわつく。 「これでもう大丈夫だと思います」 「ありがとう」 「いえ、これも仕事ですので」 「良くやった。褒めてやる」 「愈史郎さんもありがとうございます」 珠世と愈史郎にぎこち無く笑みを浮かべる雪無は嬉しそうで、外から見ていた冨岡もその様子に小さく頷く。 ふと、視界の端に尻尾が見え視点を下げると蒼が冨岡を見上げていた。 「何だ?」 「冨岡先生、伊黒先生に負けないようにしてね」 「……そのつもりだ」 足元に頭をこすりつけた蒼の頭を撫でてやりながら珠世達と話す雪無を見つめる。 その様子を足元から見ていた蒼は優しく微笑んだ。 「冨岡先生、蒼」 「どうした」 「一度私の家に戻りましょう。先生は学校に戻らなくても大丈夫ですか?」 「先生が戻られるのでしたら私の方で送ります」 「…午後の授業はないが、一度俺の家へ寄ってもいいか」 冨岡はスーツではなく学校用のジャージのままこの場に居た。 性格的に気にはしないが、夜に妖退治するとなればスーツに着替えたほうが効率がいい。 雪無は勿論と頷いて、事情を察した珠世はそのまま愈史郎と共に職場へと戻って行った。 車に乗り込んだ二人は冨岡の家へ向かい、今度は雪無が家に招待される。 「広いですね…!」 「今はひとり暮らしだからな」 キメツ学園の教師兼鬼殺隊をしていると給料がいいのか、伊黒同様広いマンションに一人で暮らす冨岡の家はとてもシンプルで彼らしい作りになっていた。 1LDKではあるが、リビングはとても広く開けっ放しの寝室は黒で固めてありぼんやりとお洒落なルームランプがベッドを映し出している。 「……」 「お茶でいいか」 「は、はい!」 「?」 低いソファに座りながらぼんやりと寝室を眺めていた雪無にお茶を出せば、驚いた様に身体を跳ねさせてコップを掴む冨岡の手ごと両手で包みこんだ。 固定されてしまった自分の手を見ながら首を傾げると、自分がしてしまったことに気付いた雪無は直ぐ様手を離す。 「どうかしたか」 「い、いえ。冨岡先生らしい落ち着くお部屋だなと思いまして」 「そうか」 「はい」 「……雪無ならいつでもいい」 少々の無言の後に言葉を繋いだ冨岡の意図が読めず、今度は雪無が首を傾げた。 それに気付いた冨岡は背凭れに少し腰掛け雪無の顎を指先で撫でる。 「雪無なら、いつでも遊びに来ていい」 「……!」 「安心しろ、手を出すことは無い。多分」 目を細めた冨岡とは反対に目を見開いた雪無に笑みを深め立ち上がって歩き出す。 腕にはいつものスーツが掛けられ、寝室へ移動すると振り返り扉に手を掛けた。 「少し待ってろ。着替えてくる」 「…っはい」 顔を真っ赤にした雪無が頷いたのを確認して、カチャリと音を立てて扉を締めた。 そんな冨岡を見送り、一度落ち着くために貰ったお茶を喉に流し込む。 (車で待っていれば良かった…!変に恥ずかしい気持ちになっちゃう) 静かな室内に扉越しではあるが冨岡の着替える音が聞こえ耳を塞いだ雪無は部屋に上がったことを心底後悔した。 戻 |