2 大丈夫なのかな…) 不安が募りながらも、そっと階段から見守るしかない雪無は顔を少しだけ出して教室へ入っていった冨岡を見守った。 しかし、暫くしても冨岡は帰ってこないし不死川の怒号も聞こえない。 予想だにしない展開に更に雪無の心は不安が大きくなった。 「ど、どうしよう。やっぱり私が取りに行けば…」 そんな事を呟きながらうろうろとしていれば、自分の教室の扉が開かれた。 そこから顔を出したのは意外にも冨岡と不死川の二人で、雪無は目を丸くする。 特に言い争う様子もない二人は真っ直ぐに雪無の元へ歩いてきた。 「行くのかァ」 「あ、はい。すみません、授業を抜け出すような事をしてしまって」 「雪無は悪くない」 「まぁ今回ばかりは仕方ねぇだろ。新しく妖が生み出されるかも知れねぇ状態を放っておいても厄介だからなァ」 「雪無は俺が付き添う」 「…分かってるだろうが、目立たねぇようにしろよ」 不死川は不安そうに雪無を見ると、忠告するようにそう告げた。 日中、学生が事件現場を彷徨いているとなれば問題になる。恐らく不死川はそう言いたいのだろう。 不安そうに見つめる不死川を他所に冨岡はどこかウキウキとした雰囲気で頷く。 「雪無には俺達と同じ物を着てもらう」 「あ?出来上がったのかァ」 「あぁ。先程あまね殿から預かった」 「…あ、もしかして」 冨岡達の会話に、先日産屋敷と話したときの事を思い出した雪無はパッと顔を上げる。 鬼殺隊で使っている特殊仕様のスーツを雪無にも支給してくれると言っていた。 「まぁそれなら何とか誤魔化し効くか」 「で、ではそれを着て行きます!」 「ならすぐに行くぞ」 「はい。不死川先生、今度はちゃんと授業受けさせてもらいます」 「おー。気を付けて行けよ」 冨岡は雪無の手を掴むと、すぐに昇降口へ向けて足を動かし始める。 呆れたようにこちらを見つめていた不死川へ一度頭を下げると、ひらひらと右手を振りながら二人を見送った。 「しかしどこで着替えましょう」 「一度家に帰ってから着替えるといい」 「分かりました。それで、冨岡先生」 「何だ」 「…手が」 繋がれた手を見つめた雪無は全て言い切れずにもごもごと口を動かす。 基本察しの良くない冨岡はその様子に数秒考えると、合点がいったかのように繋いでいた手を離した。 全て言わずとも理解してくれたのかと冨岡の顔を見上げようとした雪無の身体が一瞬で浮遊感に包まれ言葉を失う。 今雪無の身体は横抱きで抱えられて、再び歩き出した冨岡によって階段を下っている。 「…え?冨岡先生…えぇ?」 「具合が悪いと早退したのに歩いているのはおかしかったな。気付くのが遅れた」 「そういう意味ではなかったのですが」 何故か得意げな表情をして雪無を見る冨岡に、可愛らしさを感じ突っ込みかけた口を強制的に閉ざす。 何か言いたげにしている雪無に気付かないのか彼は車についても満足げな顔をしていた。 冨岡の運転する車に乗って自宅へ戻り、支給された鬼殺隊のスーツを私室で広げる。 白いYシャツに、黒のジャケット。黒のショートパンツと長い革製のニーハイブーツが大きな袋に入っていた。 内心カッコイイと興奮しながらそれを身に着け、ブーツを手に取り全身鏡に自分の姿を映す。 買い物以外では和服ばかりを着ていた自分のスーツ姿に感動していると、胸元が第三ボタンまでしか締まらないことに首を傾げた。 「ネクタイ皆してるから私もしたかったな…」 鬼殺隊の柱と呼ばれる面々はそれぞれ柄の違うネクタイを締めていたが、これでは締められないと肩を落としながら居間で待たせていた冨岡の元へ向かった。 ニーハイブーツ用に黒い長めの靴下を履いているが、普段制服以外で脚を出すことのない雪無にとっては少しばかり違和感があったが気にしない事にする。 「冨岡先生、お待たせしました」 「…………、」 「どうでしょうか…」 自分で見た時に違和感はそれ程感じはしなかったが、他人の目から見たらどうだろうかと座ってお茶を飲んでいた冨岡へ聞くと、雪無の姿を目にした彼は無言でこちらを見ている。 何も言われない無言の空間に少しだけ気まずくなったのか、雪無がしょんぼりと肩を落とした辺りで我に返った冨岡が立ち上がった。 「似合いすぎて驚いた」 「…本当ですか」 「あぁ。きっと皆似合うと言ってくれる」 自信なさげに冨岡を見上げる雪無に頷きながら流れる様に下へ落ちる髪の毛を耳に掛けると、そっと手を差し出した。 「雪無のその姿を一番に見れて光栄だ」 「あ、ありがとうございます」 「気の利いた言葉を言えずすまない」 「いえ、とても嬉しいです」 差し出された冨岡の手をそろりと握った雪無へそう言うと、乗せられたそれを優しく握り締め玄関へ向かった。 戻 |