1 「撮れてるー?」 「バッチリ!」 ある墓地に若い男女のグループが訪れていた。 高そうなカメラを持つ男はポーズをとる仲間を撮りながら、墓地を練り歩く姿を撮り続ける。 ここはキメツ学園から少し遠い墓地と、草が好き放題生やされた広い野原が広がる場所。 動画サイトに載せるためか、男女は実況しながらどんどん奥へ向かう。 「……ん?今何か聞こえなかったか?」 「おいおい、視聴者さんビビらすなよ!」 「もーやだー!」 カメラを回していた男がガシャリという硬いものがぶつかり合った音を拾った。 しかし前方を歩く仲間はその反応を面白おかしく茶化して、男の言葉を揶揄う。 ガシャリ、もう一度その音が聞こえた時、その場にいた全員が聞こえたのか場に無言が広がった。 「…お、おいおい。誰だよ変な音鳴らしたの」 「あたしじゃないよ…」 ―――ガシャ、ガシャ その音はどんどん男女グループに近寄ってくる。 やっと何処からその音が聞こえたか分かったカメラの男は恐る恐る顔だけで後ろを振り返った。 その後男女様々な絶叫が聞こえた後、配信をしていた動画はプツリと途絶えた。 【動画配信者の死】 次の日、珠世達は凄惨な野原に朝早く呼び出されていた。 初夏の風が珠世のまとめられた髪をしっとりと撫でる。 (風に髪を靡かせる珠世様も素敵だ…!) 「愈史郎」 「はい!」 「雪無さんに連絡を。これは、妖の仕業です」 憂いを帯びた瞳は、ぐしゃぐしゃになった4つの遺体に向けられていた。 そっと手を合わせた珠世は愈史郎へ指示を出すと、捲っていたブルーシートを人であった事すら分からない程に損傷したそれにもう一度被せる。 時を同じくして、学校で授業を受けていた雪無は胸元で震える携帯に制服の上から触れて振動を止めた。 「……すみません、不死川先生」 「何だァ」 「あの、えっと」 「………保健室行ってこい。朝から体調悪かったんだろォ」 「すみません」 雪無が必死に嘘をつこうとしたのが分かったのか、不死川が咄嗟にフォローすると教室を抜け、珠世からのメールを見る。 今朝ニュースになっていた男女四人の件の事について、ある程度の詳細が書かれていた。 「雪無」 「っ!」 「何かあったのか」 保健室には行かず、階段の所で詳細を読んでいると後ろから声をかけられ身体を跳ねさせた。 恐る恐る振り向くと、いつもの青いジャージに身を包んだ冨岡がもの珍しげに雪無を見下ろしている。 普段の授業態度からサボりではないと察しているのか、何か注意するわけでもなく後ろから覗き込むように体を屈めていた。 「どうやらまた被害が出たようです」 「またか」 「はい」 雪無は寂しそうな顔をすると珠世からのメールを見せるよう冨岡へ差し出す。 それを受け取ると何か悩むように顎に手を当てていた。 「式神は」 「先程珠世さんの所へ向かわせました」 「なら今出来る事は特に無いということだな」 「えぇ。でも私は今日早退させてもらいます」 雪無がそう言うとどうしてだと言わんばかりに見てくる冨岡に眉を下げた。 そんな視線を投げかけてくる冨岡へ雪無は添付された画像を開きもう一度携帯を見せる。 開かれた画像には遺体の損傷した脚や腕が写っており、紫に変色し自分が雪無の家で瘴気を洗い流した時のことを思い出す。 「死者に瘴気が掛かっているとどうなる」 「妖になる可能性が高いです」 「…そんな事になるのか」 「えぇ。それと、動画も送ってくれたのですが相手は恐らく餓者髑髏です。骨がぶつかり合うような音が聞こえましたから」 雪無は動画を産屋敷へ送ると、画面を閉じて立ち上がった。 情報の共有の為と送ったのだろうが、ほんの少し冨岡の胸がチリ、と痛みを訴える。 (まさかお館様にまで嫉妬するとは) 「私は一度教室に戻って鞄を取りに戻ります」 「………」 「冨岡先生?」 「…俺が鞄を取りに戻る。雪無はここで待っていろ。早退する旨は俺が伝えたほうがいいだろう」 そう言って雪無の肩に手を置いた冨岡に少しだけ不安が募る。 今の授業は不死川が担当していて二人の仲が良好でない事はこの学園でも有名な話であり、それを知っていた雪無はこのまま向かわせていいものかと悩む。 そんな雪無の心配を他所に冨岡は早歩きで3-Aの教室へ行ってしまった。 戻 |