2 「あぁ、それと」 「はい」 「義勇と小芭内が迷惑を掛けたね」 「お、お館様…」 私の手を包んだままさらっと口にした内容に冨岡先生が焦ったように声を掛ける。 迷惑と言う訳ではないけれど、確かにとても恥ずかしいとは思う。 なんて答えたらいいのか分からない私が目を伏せると学園長が小さく吹き出していた。 「私は、誰かを大切に思う気持ちに年齢は関係ないと思っているから二人を責めたりするつもりはない。勿論その相手もね」 「……はい」 「義勇も小芭内も、学園の教師である前に私の子どものような存在だ。けれど、相手の気持ちを少しは考えなきゃいけない」 「申し訳ありません」 「雪無のお祖父様の予想は大当たりだったね」 ふふ、ともう一度笑うと唖然としたままの私と申し訳無さそうに項垂れた冨岡先生の頭を撫でて立ち上がった。 「もし何か困った事があったのなら私に言っておいで」 「ありがとうございます」 「雪無には選択の自由がある。君には君が思うように選ぶんだよ」 「…分かりました」 こくりと頷いた私に学園長も頷いてくれると、冨岡先生の肩を掴んだ。 「義勇、そろそろ行くよ」 「…承知しました」 「あっ…学園長!ありがとうございました」 「またね」 そう言って学園長は部屋を出ていき、再び医務室には私と冨岡先生の二人きりになる。 何だか気まずそうな冨岡先生に、なんて声を掛けたらいいのか分からない。 「冨岡先生…?」 「これは」 「?」 「お館様ご公認と言うことでいいのだろうか」 意味深な言葉に私は思わず首を傾げる。 何が公認なのだろうかと、学園長が先程言っていた言葉を思い出す。 ―――大切にしたいと思う気持ちに年齢は関係ないと思っているから 「…雪無、俺は伊黒にも他の誰にも負けるつもりはない」 「えっ…あ、はい」 「覚悟しておけよ」 不敵な笑みを浮かべた冨岡先生は私の頬を撫でると、流れるような動作で手を取りそこへと口付けた。 あまりに突然の事に私は声を出す事も出来ずに、部屋を立ち去ろうとする冨岡先生の背中を見つめる。 「送りの車を用意するよう言ってくる。俺はこれからやる事があるから送れないが、気を付けて帰るように」 「…あ、はい!」 「また学校でな」 ひらりと手を振って扉を出て行った冨岡先生に、激しくなる鼓動を抑え込む。 学園長が公認といったのは気持ちの面でと言うことであって、行動していいとは言っていない気がする。 一人になった医務室で大きくため息をついた。 すると、コンコンというノックの後にひょこりと派手な髪色が顔を出す。 「宇髄先生…」 「よう。相変わらず派手にモテてんな!俺程とはいかねぇが」 「なな、そんな事は…」 「うちの色男共虜にしておいてよく言うぜ。ほら、送ってやるから行くぞ」 「うぅ…すみません、よろしくお願いします」 私の横まで来た宇髄先生が手を差し出してくれたので、手を取るとエスコートするように医務室から駐車場へと連れて行ってくれる。 これさえも凄く恥ずかしいけれど、折角気を使ってくれた宇髄の厚意を無碍にはできない自分が居た。 「それで?」 「それで、とは」 「お前的に今どっちがいいのよ」 「…分かりません。私、恋した事なんて無いですし」 助手席に乗せてくれた宇髄先生は運転席の扉を閉めながら横目で私を見る。 どちらがいいと言われたところで、まだはっきりと気持ちを聞いたわけでもない私があぁだこうだと言っていいものかも分からない。 「まぁお前地味にいつも一人で居るもんな」 「…う」 「茶化すつもりはねぇが、あの二人多分本気だからよ。イケない関係でも良けりゃまぁできる範囲で許してやってくれ」 「それが茶化してると言うのでは?」 「ははっ!」 何だか楽しそうに笑う宇髄先生に私もつられて少しだけ笑ってしまう。 後で伊黒先生にも連絡を入れて謝罪とお礼をしようと何となく思えた。 「あ、でも俺には惚れるなよ。派手に火傷することになるからな」 「でしたら宇髄先生は沢山の生徒達を火傷させている事になりますね」 「違いねぇな!」 真夜中の宇髄先生とのドライブはとても楽しかった。 口下手な私に気にする事なくたくさん話し掛けてくれる。 今日は色々なことがあったし、沢山寝たはずだけどお風呂さえ入ればまたぐっすり眠れそうだ。 神社の駐車場まで送ってくれた宇髄先生にお礼を言う。 「宇髄先生、ありがとうございました」 「おう。明日は学校は無いがまた見回りあるんだろ。ゆっくり休めよ」 「はい。帰り道お気を付けて」 「ありがとな」 窓越しに手を振ると、宇髄先生も振り返してくれた。 急に自分の周りの環境が変わって戸惑う事も沢山あるけれど、人と関わる事がどれだけ素敵なものかも少しは理解できた気がする。 また明日も頑張ろう。 そう思いながら神社の階段を駆け上がった。 つ づ く 戻 |