3 制服を着直した雪無を雨が上がった後一度家へ送り、いつもの装束に着替えさせると駐車場に車を止め女性が襲われた場所へと足を運んだ。 「ねぇ、ちょっと赫」 「何だよ」 「何かあの二人ぎこちなくないかしら」 あの二人と言うのは言うまでもなく雪無と伊黒だった。 本来の姿をしている蒼は鼻をひくつかせながら隣をてちてち歩く赫へ話し掛ける。 「主、今日帰りが遅かったし伊黒と同じ匂いがするもの」 「いや、それは普通に妖逃した後伊黒が迎えに行ったからだろ」 前を歩く雪無達を見ると、僅かに開いた距離感を見てため息をつく。 (あいつ主に何かしやがったな) そんな事を思いながら橋の下へと目をやると、視線を鋭くさせ雪無の元へ駆け寄る。 水面には大きな蛇が泳ぎながらこちらへ向かってきていた。 「来たぞ!」 「雪無!」 「はい」 赫の声に反応した伊黒と雪無がそれぞれの武器を構え橋から飛び退く。 赫と蒼はそれぞれに飛び散って、妖が姿を表した瞬間結界を張った。 「腹が減った…!腹が減ったぞ!」 「あれは…濡れ女ですね」 上半身が女性の形をし、腰から足にかけて大蛇のような妖は濡れ女と言った。 昼間の女を襲って以来誰も食えていないのか、凶暴化した濡れ女は即座に雪無を標的にする。 先程まで歩いていた橋は破壊され、足場の少ない中での戦闘になった。 「下は河だ、落ちぬようにしろよ」 「はい」 「行くぞ」 雪無へ注意を促すと、伊黒は濡れ女へと即座に斬りかかった。 肌色や、口裂け女にあったような注射痕は今の所無い事を確認しながら硬い蛇の身体を刻んでいく。 「ちっ、硬いな」 「伊黒先生!私が!」 ある程度は斬れるが、切断まで行かない濡れ女の身体に雪無が浄化する弾を当てるとそれが効いたのか悲鳴を上げながら暴れ回る。 地震のような揺れに、着地した雪無がバランスを崩すが伊黒がそれを支え抉れた身体を注視した。 「蛇の部分はお前に任せる。俺はあいつの上半身を狙おう」 「分かりました」 「あいつの下半身は長い。巻き込まれるなよ」 態勢を整えた雪無の肩を離すともう一度濡れ女へ向かい、腕を斬り上げる。 一方の雪無は濡れ女から距離を取り、下半身へ攻撃を集中させバランスが崩れた。 その隙を狙って致命傷を与えようとした伊黒の向こう側に何かが光って見えた雪無は目を見開く。 「先生!駄目です!」 「は…?」 雪無の声に思わず動きを止めた伊黒の側を何かが通り抜け、濡れ女へと突き刺さった。 突き刺さったものを見れば注射のようで、直ぐ様撃ち込まれた方向へ視線をやるがそこには人影も何も無くなっている。 「あ…あああああア"ァ!!!!」 「っう!」 突き刺さった注射は勝手に中身を濡れ女へ注入し始め、痛みからなのか尻尾を大きく振るい一瞬目を逸らした雪無が弾き飛ばされる。 「雪無!」 「「主!」」 弾き飛ばされた雪無の身体を結界の壁に打ち付けられる前に受け止めた伊黒が焦った顔で着地する。 傷を確かめようとする伊黒の手を止め、力なく起き上がった雪無の口の端からは血が出ていた。 「…駄目です、伊黒先生。早く、倒さなきゃ」 「……」 「伊黒、せんせ?」 「お前はここで待っていろ」 目を見開き、殺気を溢れさせる伊黒は雪無の血を拭うと一瞬でその場から姿を消す。 唖然とした雪無が次に伊黒を視界に捉えたのは濡れ女の首が飛んだ時だった。 技の切れ味が上がってはいるものの、伊黒は理性を失ったかのように濡れ女をぐちゃぐちゃに斬り刻んでいく。 辺りには濡れ女の叫び声と、伊黒に降りかかるように飛び散る霧で充満しかけていることに気が付き急いで祓いの札を投げる。 伊黒の口元を覆っていたマスクが紫に変色しかけていた。 「い、ぐろ先生、落ち着いて…!」 「おい!あいつキレてるぞ!」 「そんな事言ったって私達が結界を解くことは出来ないわよ!」 出来る限り伊黒が瘴気を被らないよう雪無が補佐するが、蛇のように移動する速さについて行けずに息を切らし始める。 「雪無を傷つけた事をあの世で後悔するといい」 身体のあちこちを斬り刻まれ、最早動く素振りを見せない濡れ女にゆっくりとした足取りで近付くとその場から一瞬で間合いを詰めた。 「壱ノ型 委蛇の毒牙」 横薙ぎに刀を振るった伊黒の太刀筋が蛇のように見え、変色し始めていた濡れ女の身体がバラバラに砕け落ちる。 しかしそれさえも許さぬように刀を振り上げた伊黒に叫ぼうとした瞬間、結界が一瞬消え雪無の身体に温かいジャケットが掛けられた。 「っ!!」 「伊黒、落ち着け!」 聞き慣れた大きな声が結界内に響き渡り、振り下ろしかけた伊黒の刀がピタリと止まった。 つ づ く 戻 |