2 一方の雪無は全て洗い終わり、可愛らしくピンクに染まった入浴剤入りの風呂に浸かっていた。 (伊黒先生わざわざ入浴剤まで入れてくれたんだ) じんわりと身体も心も温まっていると、ノックされ脱衣所の扉が開かれる音がした。 「北条院、乾燥機を貸してやる。出たら洗濯機に入れておけ」 「あ、はい。ありがとうございます」 「俺はリビングで待っている」 パタンと扉が閉められた音を聞き届け、ゆっくりと湯船から出て脱衣所に置いてあったタオルを借りた。 側の籠には伊黒の服らしきものが置いてあり、申し訳無さを感じながら少し湿った下着の上から有難く身に着ける。 濡れた制服を洗濯機に入れ、乾燥のボタンを押し脱衣所から出てリビングへ向かうと甘い匂いがした。 「伊黒先生、お風呂ありがとうございました」 「あぁ。ほら、ミルクココア飲めるか」 「わ…はい。大好きです」 差し出したココアを受け取ると、風呂から上がったばかりだからか淡く色付いた頬がさらにピンク色に染まる。 嬉しそうに少しだけ頬を緩めた雪無は火傷しない程度に温くなったココアを口に含む。 「美味しい」 「っ…」 そして今更気付く、自分のシャツと夏用のハーフパンツを着る雪無の威力。 サイズが少しだけ大きい為か、緩んだ服装は伊黒の視覚に毒だった。 立ったまま飲んでいる雪無をソファへ案内し、二人でそこに座り飲み物を飲む。 肩が触れそうで触れない距離感に伊黒の心臓は強く脈打ちながら、そっと背凭れに腕を掛けた。 「寒くはないか」 「はい。お風呂とココアのお陰で」 「そう、か」 湿っている髪をそっと撫でれば無意識なのか頭を寄せてくる雪無にマスクの下で薄く微笑んだ。 この後、先程雪無が言っていた妖を退治しなくてはならないのにゆっくりしていたいと心の中で思う。 一房髪の束に鼻を寄せれば自分と同じ匂いになっている雪無にさっきから無言だなと顔を覗き込めば、ココアを抱えたまま真っ赤な顔で固まっていた。 「…どうした」 「せ、先生が…近くて…」 「仕方ないだろう。ソファはこれしかないからな」 「私、立ちまっ!」 ココアをテーブルに置いて立ち上がろうとした雪無の腕を掴み、自分の方へ引き寄せると腰を抑え膝の上に乗せる。 鬼殺隊用のスーツに身を包んだ伊黒はいつもより大人な雰囲気に包まれ、雪無の羞恥心が限界を訴えた。 「わわ、あわわ…伊黒先生っ」 「ふっ」 「笑い事じゃっ…」 今までにないくらいに取り乱す雪無に大きく噴き出した伊黒は自分の胸を押し返す腕を気にも止めず、俯いてこちらを向いた額に唇を押し付けた。 「〜〜〜〜!!!」 「可愛いお前が悪い。雪無」 マスクを少しずらした伊黒が意地悪く笑えばずるずると突っ張っていた腕の力を抜き、もたれ掛かるように身体を預ける雪無。 随分積極的だと不思議に思って顎を掴めば目を潤ませこちらを睨む雪無に、伊黒の胸が高鳴る。 「伊黒先生の意地悪…」 「…すまなかった。謝るからその顔をやめろ」 「うぅ」 押し倒してしまいそうな自分にバチリと音を立てて目を塞ぐと、自由になった雪無はゆっくりとソファに足をつく。 「ひぇっ!」 「っ!?」 ソファに慣れていなかったのか、沈んだ縁にバランスを崩し伊黒との顔の距離が一瞬で縮まり唇が思い切り強く触れ合った。 雪無の歯が当たったのか、顕になった伊黒の唇から少量の血が出ている。 「う、あ…ごめんなさい!!」 「いや…」 「伊黒先生っ、血が…」 ぷつりと出た血を自分の指で拭い、唇が合わさった事も気にせず必死に謝りながら伊黒の傷口に優しく触れる。 「痛いですか?」 「大丈夫だ」 「でも…」 「大丈夫だから、もう触れなくていい」 自分の膝の上に乗り至近距離で伊黒を心配する雪無を退かすと、近くに置いてあったティッシュを取り唇に当てる。 (この状況で痛みなんて感じるか…!) 未だに心配そうにこちらを覗き込む雪無の頭を片手で抑えながら赤くなった顔を背けた。 誰かにした事は必ず自分に返ってくるということわざは本当だったのだと思いながら、小さくため息をつく。 「もう血は止まった。乾燥機も終わったようだし、制服を取ってこい」 「…はい」 「気にするな。事故だ」 落ち込む雪無の頭にぽん、と手を置いて脱衣所を指差しリビングから出て行かせた。 落ち込んだ肩を見送りながらソファに自分の身体を沈めると、さっきの感触を思い出す。 「はぁ…」 乾いた制服に着替えているのだろうか、まだ帰ってこない雪無に好都合だとキッチンへ行き冷たい水を喉へ流し込んだ。 戻 |