2 次の授業は無いため、照れた顔の雪無を思い浮かべながら職員室へ戻ると宇髄が居た。 ガムを噛みながら背凭れに全体重を乗せる姿は教師と呼んでいいものか悩む程ガラが悪い。 「よぉ、冨岡」 「もう少しその体勢をどうにか出来ないのか」 「いーだろ別に。減るもんでもねぇ。そんな事よりよぉ」 ガムを膨らませながら器用に話す宇髄が嫌な予感のする笑みを浮かべ俺に近寄ってくる。 宇髄の筋肉質な腕が肩に回され、逃げ場所を失った俺は最後の抵抗に分厚い胸板を押す。 「北条院にだいぶご執心じゃねぇか。派手に行動しやがって」 「…覗き見とは悪趣味だな」 「ちげぇよ。暇だから美術準備室から外眺めてたらたまたま見えただけだ」 見られていたことに内心舌打ちしながら宇髄を睨めば、肩に回された腕に力を込められ更に距離が近くなる。 辞めてくれ、男と男がくっついた所で互いになんのメリットもない。 「大丈夫だよ、お館様には言わねぇって」 「それは有り難いがとりあえず離れろ」 「しかしまぁ、恋愛どころか女に興味無さそうなお前がまさか生徒に落とされるなんてなぁ」 宇髄の言わんとしていることは何となく分かるが、他人にそう言われると複雑な気持ちになる。 何とか太い腕を退かせると、俺と宇髄以外に人が居ない職員室にある自分の席へ向かう。 「あれは今も年相応の可愛らしさがあるが将来絶対いい女になる。お前の目は狂ってねぇ、安心しな」 「…………」 「百戦錬磨の俺が言うんだ間違いない」 何か勝手に話し始めた宇髄を無視しながら雪無のクラスの記録用紙をクリップにまとめて引き出しへしまう。 しかしやはり宇髄でさえそう思うのかと考える自分も居る。 大人である俺でも惹かれてしまうんだ、思春期真っ只中の生徒達が想いを寄せるのは仕方がない事なんだろうと、雪無の手に触れられただけで舞い上がっていた男子生徒を思い出す。 「だが、雪無は生徒だ」 「分かってんじゃねぇか。けどよ、立場なんてたいした障害でも無いだろ」 「お前は応援してくれるのか」 「お前に限らずド派手に恋の花火打ち上げてる奴の応援はしてるぜ!」 「…………」 「引いた顔すんじゃねぇムカつくな」 何故こいつは人が鳥肌立つような事を当たり前に言えるのか俺は不思議だ。 まぁ、応援してくれると言うのなら悪い気はしないのだが。 「で、お前はあいつのどこに惚れたんだ?」 「…その話をここでするのか」 「いいじゃねぇか。他の奴らは次の授業あって、暇なのは俺とお前だけだし」 すっかり俺の横の席に腰を下ろした宇髄は動く気も喋りをやめる気も無いらしい。 ふと雪無に心惹かれた理由を考える。 「…と言うか俺は雪無が好きなのか」 「は!?」 俺の呟きに大きな声で反応した宇髄の目が飛び出るんじゃないだろうかというレベルで見開かれる。 そう言えば好きだ何だを考えたことは無かった。 それだけなんだが。 「お前…怖いわ…無意識であんな事してたのかよ…」 「俺は怖くない」 「いやいや、お前のそれはどう考えても惚れてんだろ。あいつに触れたいとか、ちょっとした表情の変化が嬉しいとかそんな事思ってんだろ?」 「……あぁ」 「そこまで自覚してんのに、好きだってならねぇお前が俺は怖いわ」 「俺は怖くない」 演技だろうがガタガタ震えながら信じられないようなものを見る目で俺を見ている宇髄にもう一度怖くないと言う事を主張をしておく。 好き、そんな言葉が胸にすっぽりと丁度良く収まる。 そう自覚してしまえば、さっき雪無に触れたいと思った行動でさえ納得がいく。 「…犯罪者にはなりたくないな」 「そこかよ」 普段風紀を取り締まる教師のくせに、恋を自覚した対象が生徒とは他に示しがつかないなと思いながらも雪無の顔を浮かべるとそんなもの関係ないと相反する考えも浮かぶ。 困った事になったな。 「宇髄、俺はどうしたらいい」 「ド派手に犯罪者になっとけ!」 「お前に相談した俺が馬鹿だったかもしれないな」 ヒャ!と笑った宇髄から視線を反らしため息をついた。 そして先程雪無に触れていた自分の右手を見ると、何だか胸がほわほわする。 「…俺が逮捕されたら後は頼む」 「お前マジか」 そんな会話をしていたら授業開始のベルが鳴る。 俺は、雪無が好きなんだ。 一度心の中で口にすれば更に雪無への想いが増したような気がした。 つ づ く。 戻 |