3 「えぇ。ですが最近瘴気の濃い妖が多いので増やしました」 「…北条院の身体に負担があるんじゃねぇのか」 「ありますが死ぬよりマシですから」 不死川の指摘に頷きながら、自分に寄り添う式神たちの頭を撫でる。 その様子に伊黒から報告を受けていた通りだと一人ため息をついた。 「でも、白い銃の方は基本的に使いません」 「そうかよ」 「はい。心配してくれる人が、居るので」 ぽつりと呟いた雪無は僅かに口角を上げ、困った様に眉を下げた。 それに不死川は目を瞬きさせこれが、と納得したように内心で雪無に肩入れする伊黒を思い起こす。 (こういう事かよォ) 不死川にとっては妹のようだが、他の男から見たらさぞ美しく見えるのだろうと何となくだが気持ちは察した。 察しただけで生徒に手を出していいとは思っていないが。 「不死川先生?」 「何でもねェよ」 「そうですか。珠世さんには連絡しておくので帰りましょう」 てくてく歩き出す雪無は不死川の顔を見上げながら少しだけ疲労の顔を浮かべている。 そう言えば五月蝿い式神も居ないなと後ろを振り返れば誰も居ない。 「あの子達は少しだけ戻ってもらいました」 「北条院、お前やっぱり疲れてンじゃねぇか」 「大丈夫です。今日は歩けますから」 確かに疲れた顔はしているが足取りは普通だ。 ほんの少し前を歩く雪無の頭を小突くと不死川は前に身体を割り込ませしゃがみ込む。 その行動に理解が出来なかった雪無が首を傾げると舌打ちしながら手をおんぶする形に持っていく。 「オラ、さっさと乗れェ」 「え…えぇ…」 「さっさとしろォ」 困惑した顔を浮かべる雪無を急かすように睨めば観念した様に背中へ体重を掛けた。 足に力を込めて不死川が立ち上がると背中から慌てたように首に手を回す。 「軽過ぎるんじゃねぇのかァ?」 「ちゃんと食べてますよ」 「そうかよ」 星空がよく見える道を背負われた雪無は顔を上げてきらきらと光るそれを眺める。 まだ夜はほんの少し寒い。 「不死川先生って、恋人はいますか?」 「ア"?」 「すみません何でもないです」 「何だよ、言いたいことあんなら言え」 背中の方でもぞりと雪無が動くのを感じながらあえてゆっくりと帰り道を歩く。 無言の圧力に負けたのか、不死川の背中に顔を埋めながらぽつりと話し始めた。 「最近、こうやって余り話した事のない男性と接する機会が多くて…」 「オメーは女もだろ」 「…そうですけど、やっぱり異性と話すのに緊張してしまって余計に話し方がぎこち無い気がするんです」 元からほぼ友人の居ない雪無が、男子生徒ではなく男性教員と突然毎日のように接する機会が増えたことに僅かではあるが戸惑いがあるようだった。 無意識にため息をついた雪無の吐息が不死川の首筋に掛かり思わずぞくりとしてしまう。 「…ワザとか」 「はい?」 「いや。まぁ、何だァ。適当に人参とでも会話してると思っときゃいい」 「あの、私流石に高校生なのでそれは…」 余りに適当な不死川の答えに逆に戸惑ってしまった雪無に頭を悩ませる。 男子生徒から絶大な人気を誇る雪無は、何故だが鬼殺隊側の人間ですら魅了してしまう。 たまに見せる柔らかい笑みや、整った容姿もそうだが自立しているように見えるくせにどうしてか守ってやりたくなってしまう性格も魅力の一つなのだろうと不死川は思う。 「お前が慣れろ。そうするしかねぇなァ」 「慣れ、ですか」 「元々お前は人と接する機会がなさ過ぎるせいで戸惑ってるんだろォ」 「あ、なるほど」 やっと納得のいく答えが出せたのか雪無が頷いた事に安堵の息をついた不死川は神社下の階段に辿り着く。 その場にしゃがめば、礼を言う声が聞こえて背中から軽い重みが消える。 「不死川先生、今日はありがとうございました」 「おう」 「帰り道、お気を付けて。その、おんぶ…とても嬉しかったです」 顔を赤らめたのは照れからなのか、恥ずかしさからなのか目を背けた雪無に思わず一番年の近い弟を思い浮かべる。 「たまには、あの珠世って女にも甘えてやれェ」 「え…?」 「ご飯食わせろって抱き着いたらさぞ喜ぶだろうよ」 「…はい」 「じゃあなァ。早く風呂入って寝ろ」 「おやすみなさい」 珠世に自分が甘える姿を思い浮かべたのか、一瞬だけ照れたような素振りを見せ、車に乗り込む不死川へと頭を下げた。 見送る気なのか、その場から動こうとしない雪無に車内から手を振ると意図を理解したのかもう一度頭を下げて階段を登っていく。 「伊黒が落ちちまうのも、頷けるかもなァ」 小さくなっていく背中を見送りながら、不死川は懐からタバコを出して火をつけた。 つ づ く。 戻 |