アヤカシモノ語リ | ナノ
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「鬼殺隊風柱の不死川さん、ですよね」

「…あんたは警察の」

「珠世と申します」


雪無の様子に舌打ちした不死川が煙草を吸おうと懐からシガレットケースを取り出そうとした時、珠世が目の前に来て上品に一礼し名を名乗った。
その姿勢に取り出しかけたシガレットケースを再び懐へしまい、もたれ掛かっていた体勢を整える。


「よく知ってるなァ」

「産屋敷さんとは何度か面識がありますから」

「そうかよ。んで、珠世さんは俺に何の用だ」

「雪無さんと今日は共に行動するのでしょう。母親ではありませんが、あの子は私の大切な子どものような存在。ご挨拶くらいは当然かと」

「あんたは子どものような存在にあんな事させるのかァ」


遺体の手に握られた女の髪を調べる式神の横で真剣に調べている雪無を顎で差しながら珠世を少しばかり睨む。
その言葉に美しい顔を陰らせた珠世はそっと視線をそらした。


「妖の事は雪無さんの家系にしか頼めませんから」

「そーかよォ」

「私達が出来るのは彼女の私生活の保証と、妖以外での安全の保証です」


本当に悲しそうに目を伏せた珠世に少しだけ罪悪感の湧いた不死川は小さく舌打ちをして、何かが分かったのかこちらを振り向いた雪無へ向かって歩く。


「ガキを守るのは俺達大人の仕事だ。あんたの立場や気持ちなんて知ったこっちゃねぇが、そこの責務を忘れるなよ」

「勿論です。雪無さんを、頼みます」


すれ違いざまに珠世へ声を掛け頷くと、こちらに走ってくる雪無へ視線を向けた。


「何か分かったのかよ」

「はい。この男性を襲った妖はまだ近くに居ます」

「なら探すぞ。おい、狗の式神。臭いは辿れんのかァ」

「私と赫で探せるわ」

「案内して」

「了解」


走り出した式神を追い掛けようとした雪無は一度珠世へ振り返り頭を下げる。


「珠世さん、行ってきます」

「えぇ、気を付けて」

「はい」


不安げに見送る珠世へ薄く微笑んで見せた雪無は今度こそ式神を追った。
不死川もそのやり取りを見た後に小さな背中を追いかける。

遺体が発見された場所から5キロ圏内の所で赫と蒼が足を止めた。
突然姿を現したかのように強い気配がして、全員が立っていた場所を飛び退く。

そこには鋭い爪を持った手が行き止まりの壁を突き破っていた。


「展開して!」

「はっ!」


瞬時に反対方向へ飛び散った式神が力を使い結界を張る。
不死川はその光景を見ながら柄に手を掛けた。

分厚い壁を突き破った場所から赤いワンピースを着たマスクの女が目を血走らせながら姿を現す。


「…口裂け女ですね」

「あの有名な奴じゃねぇかァ」

「はい」


敵意を剥き出しな口裂け女は何を問うこともせずマスクを外して鋭利な歯を剥き出しにしながらこちらを威嚇してくる。

まるで雪無達が来る事が分かっていたかのような口裂け女に眉を寄せ、ホルダーに差し込んだ銃を構えた。


「赤黒くなってない」

「…報告にあった強化された奴だな」

「はい。しかしいつそうなるかも分かりません」

「ガァァッ!!」


まるで理性の失った獣のように襲い掛かってくる口裂け女に弾丸を撃ち込み、不死川も応戦する。

本来なら突然無差別に襲い掛かる妖怪では無い口裂け女の首筋に注射痕の様な物が見えた。
そこだけ異様に脈が浮き出ている。


「注射痕…?」

「ア?」

「不死川先生、口裂け女の首元を見て下さい!」


鋭い爪と競り合いをしている不死川を援護するよう発砲しながら声を上げる。
段々とその脈が赤黒くなって来ているのは、恐らく注射痕のせいだと予測した雪無は首筋に向かって弾を撃つ。


「首を!血管のある所を斬って下さい!」

「任せとけェ」


爪と牙で不死川を襲う口裂け女から一度距離を取り、構えを取る。


「風の呼吸、壱ノ型 塵旋風・削ぎ」


勢い良く突進し、その勢いで地面を削りながら口裂け女の首筋を削ぎ落とす。
そこから一際濃い瘴気が放たれると、それが不死川に触れる前に銃弾を撃ち祓う。

半分まで抉れた口裂け女の顔がバランスを失い繋がっている方へ大きく傾きながらも不死川へ手を伸ばしている。


「還りなさい」


もう片方にも差し込んでいた銃を取り出し全ての弾丸を口裂け女へ向けて放ち、蜂の巣状態になった身体に祓いの札を貼り付ける。

肉が焦げるような臭いを発しながら口裂け女の身体が塵になって消えた。

その様子を確認した不死川も雪無も得物をしまうと同時に結界が消える。


「お疲れ様です」

「北条院、お前増やしたのか」


雪無が銃一つで戦っていたのを報告で聞いてきたのか、眉間に皺を寄せた不死川がもう一つの白い銃を指摘した。
 

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