2 「………」 「ほれ見ろォ。北条院拗ねちまった」 「とても自信作なので嬉しいです」 「ちげぇのかよォ」 無表情で読み取りづれぇな、と不死川が一言こぼすと雪無の隣に座った伊黒はコーヒーを啜りながら鼻で笑った。 顔のいい教師二人に囲まれ特に気にすることも無く食事を終わらせた雪無は両手を合わせるといそいそと鞄へ弁当をしまう。 「俺はこいつが一年の頃から知っている。この程度で怒るような奴ではない」 「そうかよ」 「それで、不死川先生と見回りの件ですが今日はどちらに?」 「あー、一応学校近辺だな」 二人のやり取りに気にせず時計をちらと見ると、途中で止まっていた会話を再開させる。 「学校近辺ですか。確かに瘴気の集まり方が最近違いますね」 「ほぉ、そんな事も分かるのか」 「えぇ。日中私が学校にいる間、あの子達に調査してもらっていますから」 感心したような伊黒に雪無が頷くと、その様子を興味深そうに不死川が見ていた。 「では、そろそろ昼休みも終わるので私は戻りますね」 「おぉ、呼び出して悪かったなァ」 「いえ。伊黒先生もまた」 「連絡する」 ペコリと頭を下げた雪無は持っていたハンカチで机を拭くと静かに職員室を出ていく。 その姿を見送った教師陣二人は、互いの席に無言で戻る。 そうは言っても隣同士ではあるが。 「…おい、伊黒」 「何だ」 「お前まさかとは思うが、北条院に惚れてるとか言い出さねぇだろうなァ」 「………何を言っている」 そんな伊黒の反応に不死川は元々大きい瞳をさらに血走らせながら目を見開いた。 隣に座った伊黒のワイシャツを思い切り引き寄せ顔を近づける。 「生徒に手出すなんて事をしたら、お館様の顔に泥がつくだろうが」 「手を出すとは言っていない」 「だけどあいつの事は狙ってると」 「どうだろうな」 不死川は睨むように伊黒を見ながら雪無を思い返す。 授業をしているだけだと高校生にしては大人びた生徒であるように見えたが、一度話せば年相応の行動も取っていた彼女を確かに可愛いとは思ったが不死川からしてみれば弟や妹のようにしか見えない。 「お前まさかロリコ」 「そんな訳あるか。突然ボケをかますのはやめろ」 「いや本当の事だろぉがァ!お前だボケかましてんのは!」 そんなやり取りを二人がしていると職員室の扉が小さく開いているのに気が付き、その隙間からそっとムフフと笑った冨岡が覗いている。 「仲がいいな」 「テメェいっぺんオモテ出ろボケナスが!!」 「お前の目は節穴だな冨岡」 更にそんな様子を学園長室の扉から産屋敷がそっと覗いている事も知らずに三人はわいわいと喧嘩を始めていた。 (実弥も小芭内も義勇も仲良くなったね…) 産屋敷に三人が気がつくのは数秒後。 そうして平和な学校生活が今日も終わり、雪無は帰り支度をしていた。 教科書やノートを鞄にしまいながらぼんやりと外を見つめる。 外には既に帰る生徒の姿や、部活の準備をしている生徒が校庭を歩いていた。 「北条院先輩」 「…?」 「俺達の事覚えてます?」 ふと教室の扉から声を掛けられた雪無が振り向くと、そこには昨日階段でぶつかってしまった双子が立っていた。 活発そうな子が自分を指差して覚えているかを問われ無言で頷くと笑みを返される。 「それなら良かった。ちょっと失礼しまーす」 「失礼します」 「…どうかしたの?」 ぼんやりとした男子生徒は雪無を無言で見つめていると、さすがに居心地が悪いのか出来る限り優しい声で尋ねる。 しかしその問いに答えたのは活発そうな男子生徒の方だった。 「北条院先輩、俺達と同業者って聞いたからご挨拶に来ました」 「同業者…って事は、君達も鬼殺隊なの?」 「うん」 「そっか」 こくりと頷いた雪無は二人が言葉を発するのを待った。 自分の事は知っているようであったし、今更何を話したらいいのか分からない雪無は二人を見つめる。 「あ、俺兄の時透有一郎って言います。ほら、お前も名乗って!」 「弟の無一郎、です」 「有一郎君と無一郎君だね。よろしく」 両極端な二人だなと思いながらも手を差し出せば有一郎も無一郎も交互に握ってくれる。 初めての後輩とのコミュニケーションに内心感動しながらも、自分より年下の同業者が居る事に驚いていた。 「今日は不死川先生と見回りなんですよね?」 「うん」 「俺達二人で霞柱なんで、その内ご一緒する機会があると思うのでその時には北条院さんの実力が見れるのを楽しみにしてますね」 「が、頑張るよ」 「…先輩、綺麗だね」 「確かに。噂になるだけあるよな」 「え?」 有一郎が話している間も雪無を見つめていた無一郎がポツリと一言洩らした唐突な言葉に思わず目を剥く。 有一郎も無一郎も顔は似ているがタイプの違う美青年にそんな事を言われて少し照れた雪無は俯きながら何とか礼を言う。 「それじゃ、私神社の仕事があるから」 「はい」 「俺達も部活行かなきゃ!それじゃ北条院先輩、また」 「頑張ってね」 パタパタと走りながら出て行った双子を見送ると、どこかで笛の音が聞こえた気がして逃げろ!なんて言葉が聞こえてくる。 驚きはしたが可愛らしい後輩に少しだけ心をわくわくさせた雪無は鞄を肩に掛け今度こそ帰ろうと教室を後にした。 つ づ く 戻 |