アヤカシモノ語リ | ナノ
1

昼休み、雪無は自分の机で目の前に居る人物を見て困っていた。
教師なのにはだけたYシャツ、怒っていると思われるような見開いた目。


「……あの、不死川先生?」

「アァ?」

「な、何か御用でしょうか」


クラスの生徒も雪無を見守る中、困った末に目の前に仁王立ちした不死川へと話し掛けた。
恐らく妖の事についてなのだろうと思いながらも不死川から発されるオーラに押されてしまう。


「お前、今から職員室来いよォ」

「……はい」


優等生でもある雪無が呼び出されるとは何事だろうかと周りが息を呑んで見守る中、呼び出された彼女は静かに席を立った。



【風柱と霞柱】



職員室に着くと、不死川は自分の席へと雪無を座らせ隣の席に腰掛ける。
無言のまま何を言われるのかと待っていると、いつの間にか雪無の鞄を持ってきていた不死川はそれを差し出した。


「飯食いながらでいい。俺の話に答えろォ」

「あ、はい。ありがとうございます」


何となく先生と食事しながら話す事が多いなと思いながら、鞄からお弁当を取り出し不死川の言葉を待つ。
雪無が言う通りに弁当を広げたのを見届けると、背凭れへ偉そうに身体を預けながら口を開く。


「お前、今日は俺と見回りなのは知ってるか?」

「初耳です」

「チッ…伊黒の奴。兎に角俺はお前の事を何も知らねェ」

「授業は受けていますがお話するのは初めてですもんね」


不死川の言葉に同意を示しながら両手を合わせおにぎりを口に含む。

何故かシフト制になっている気がしてならないが、普段から一人で毎日見廻っていた雪無はまぁいいかと頭の中で解決した。


「北条院、お前休んでんのか?」

「どうしてですか?」

「昨日も冨岡と妖に出会したんだろォが。祓いの力はお前の体力と関係するって聞いた」

「えぇ。それについては大丈夫です」


見定めるように覗き込む不死川にサラダを口に運びながら首を振る。
昨日もそれなりに夜ふかしはしたが、体力は風呂に入り寝れば回復する。


「そうかよ。それならいいんだァ」

「えぇ、ありがとうございます」

「…しかし意外と話すんだな」

「?」


今度はプチトマトを口に含んだ雪無は話すことが出来ず首を傾げて不死川を見る。
頬杖をつきながらまじまじと雪無を観察していた不死川は身を乗り出しながら肩に手を置いた。


「授業でも休み時間でもお前が話してる所を見たことがなかったからな」

「…それは」

「別に無理矢理友だちを作れなんて言わねェけどよ」


困った様に眉を下げた雪無に肩から手を離し、また背凭れに身体を預けた不死川は携帯を弄った。
チラリと見えた待受は弟と妹だろうか、満面の笑みを浮かべた子供たちがカメラへ向かってピースしている。


「可愛らしいですね」

「あ?」

「すみません、待受見てしまいました」


本人は睨んでいるつもりはないのだろうが、雪無からすると睨まれた気持ちになってしまい目を逸らす。
再びおにぎりへと手を伸ばしながらぼそりと呟くと不死川は自分の携帯をもう一度見つめる。


「あぁ、そうだよ。可愛いだろォ」

「!」

「他の奴らには言うなよ」


携帯の画面を指で優しくなぞった不死川は見たことが無いくらいに優しい顔をしていた。
それに無言で驚いていると、いつもつり上がっている眉を下げ歯を見せて笑う。

不死川は怖いけれど、一部の生徒からはとても人気がある。
こういう心優しい彼なら人気があるのは頷けるなと一人納得した。


「言いません」

「おう。よく分かってンじゃねぇか」

「言うような友達も居ませんからね」


ふふ、と自嘲気味に口角を上げた雪無に目をぱちくりと瞬きした不死川は喉の奥で小さく笑った。


「その内出来ンじゃねぇのか」

「だといいですけど」

「お前、冨岡みてぇだなと思ったけどそうでもねぇなァ」


少しだけ肩を落とした雪無の頭をぐしゃりと鷲掴みそのまま雑に撫で回す。


「おい、余り女性の頭をぐしゃぐしゃにするものじゃないぞ不死川」

「あァ?相変わらず五月蝿え奴だなテメーは」

「伊黒先生」


そのまま撫で回されていた雪無の後ろから、コーヒーを持った伊黒が不死川の手を払い落とす。
それに不快な顔をした不死川は舌打ちしながら払い落とされた手を自分の足に戻し、ぐしゃぐしゃになった雪無の髪を伊黒が手で直してやる。


「…お前、優しくし過ぎじゃねぇかァ?」

「お前こそどうせ妹と北条院を重ねたのだろう」

「うるせ」


背の高い二人が自分の頭の上でやり取りしてるのを黙ったまま聞いている雪無が食事を再開しようと弁当へ手を伸ばすと、それを目にした伊黒がそっとおかずを手で拾った。


「あ」

「うむ、美味いな」

「伊黒ォ、てめぇ生徒の弁当盗むんじゃねぇよ」


可愛らしい串に刺さったお揚げと蒟蒻が昆布で締められた煮物をマスクをずらして食べる伊黒は小さく頷いた。


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