2 結局伊黒は雪無がご飯を食べ終わった後も鏑丸と遊ばせてくれただけで帰って行き、午後の授業も終わった頃携帯がメッセージを受信した。 「冨岡先生だ」 冨岡義勇と書かれた文章に彼の性格を感じながら自分もよろしくお願いしますと返事を返す。 ポケットに携帯をしまい、部活を始める生徒達の声を聞きながら校門へ向かうと青ジャージが見えた。 「さようなら」 連絡を取っていることを周りに悟られないように頭を下げていつも通りに帰宅しようとすると、笛を咥えた冨岡が近寄ってくる。 それを立ち止まって待っていると、荷物を持っていることに気が付いて首を傾げた。 「今日は家庭訪問だから送っていってやる」 (…凄い棒読み!) 家庭訪問とは本来担任がやるものではないのだろうかと内心ツッコミながらとりあえず嘘に付き合うべきと判断して無言で頷いた。 冨岡も満足そうに頷いている。 職員用の駐車場に誘導された雪無は冨岡の車の助手席に乗りシートベルトを締めた。 「あの、冨岡先生」 「なんだ」 「これからどうするんですか?」 「…事件のあった場所へ向かう。あそこは歓楽街に近い。制服姿のお前が歩く訳にもいかないだろう。嫌かもしれんが買い物に行くぞ」 「か、買い物?」 エンジンを掛けアクセルを踏み出した冨岡に驚きながら走り出した景色に乗り出しかけた身体を元の姿勢に戻した。 「家庭訪問という体はどうしたのですか」 「…学校の買い出しに変更する」 「私服を?」 「今からお前は演劇部だ」 (冨岡先生は嘘が下手なんだな) 普段見ることの無い冨岡の運転する姿を眺めながら自分の鞄を抱き締めた。 冨岡も成人しているのだから免許くらいは持っているのだろうけど、どうも青ジャージのせいで自転車のイメージが雪無の中で根付いている。 (運転する冨岡先生かっこいいな) 雪無も来年には免許が取れる年にはなるが、やはり年上の男性が運転しているのを見るとかっこいいと思う。 そんな視線を受けている冨岡も、内心少し焦っていた。 (何故こっちをそんなに見るんだ…) 今の所危なっかしい運転はしていないが、自分と同じく無表情な雪無の心を知る由もなく変な緊張に駆られる。 心無しかハンドルを握る手を強くしたその時、前の車が急ブレーキを踏んだ。 「わっ」 「すまん」 ぶつからないよう冨岡も強めにブレーキを踏むと、衝撃で前に乗り出した雪無の肩を片手で支えてやる。 どうやら前の車は飛び出してきた歩行者にブレーキを踏んだようだ。 「大丈夫か」 「は、はい」 前を見ながら雪無に確認をすると、何故か指先が柔らかい何かに触れている気がして視線をそちらへ向ける。 そこには高校生にしてはなかなかに成長した雪無の胸に触れた自分の指先に目を見開いた。 「す、すまない!」 「え?あ、全然…支えてくれただけですし」 「いや、だが」 「?前進みましたよ」 自分の胸が男性に触れられたと感じていなかった雪無は困ったように眉を下げて前を指差す。 今更ながらに手を離した冨岡は言われた通りに発進して、変に感触の残る指先を誤魔化すかのようにしっかりハンドルを握りショッピングモールへ向かった。 制服姿の女子高生と青いジャージの先生らしき男が歩くには目立つ場所であったが、二人は特に気にすることもなく服屋へ入る。 「冨岡先生…私そんなに手持ちはないですよ」 「経費で出るから安心していい」 「大人って凄い」 そうして店員にコーディネートを頼んだ冨岡も自分の服を適当に繕いつつ、雪無に化粧を施す為に化粧品コーナーへ向かう。 「け、化粧ですか」 「俺は必要ないと思うがお館様の指示だ」 「わかり、ました」 化粧品の販売員にお願いし、大人めな化粧を緊張した様子でしてもらっているのを冨岡が隣の椅子に座って見ている。 ダサいジャージからきれいめに纏められた私服に着替えた冨岡とすっぴんでも美しいと持て囃されていた雪無が化粧をすれはどこからどうみても顔のいいカップルで、周りからの視線も否応なしに集めた。 そんな事も知らない二人は、化粧が終わった雪無の顔を見てあれやこれやと珍しく口数多く話している。 「まるで別人ですね!」 「これなら教育委員会にもバレないな」 「確かに」 雪無に使った化粧品を買い取り、私服姿でショッピングモールを歩き車へ戻る。 その間もモデルなのかや俳優だろうかなど周りの人間が噂話をしているが二人の耳にはこれっぽっちも入らなかった。 戻 |