アヤカシモノ語リ | ナノ
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家に帰った雪無は神社の仕事をしながら居間と書庫を行き来していた。
そんな忙しそうな彼女の手伝いを式神が人の姿に変化して手伝っている。



「赫」

「おう、どうした」

「御朱印宜しく」

「はいはいっと」


最近は御朱印を貰いに来る客が多くなり、社務所の仕事も増えた。
髪をオールバックにしている人間姿の赫は見た目いかついが可愛い性格をしている為高い年齢層の客に人気がある。

蒼は大和撫子の様な姿で外に立ち神社の案内をさせていた。
まるで高嶺の花の様な蒼は男女共に人気がある。




【第三節 少女と使命】

「蒼、女性にお手洗いご案内してあげて」

「はい」


パートを返した後、一頻りの来客をこなしているとスーツ姿の二人が雪無の姿を見ていた。
忙しい為か二人に気付かないままだった雪無にいち早く気が付いた蒼が目の前に立つ。


「ようこそいらっしゃいました」

「俺達は北条院に用があるから気にしなくていい」

「あら、私をお忘れですか」


蒼がふっと微笑み二人だけに本来ある尻尾を見せる。
そこで気が付いた伊黒が目を見開き動く尻尾と顔を見比べた。


「お前、もしかして」

「蒼と申します。主は今お忙しいので家の方へお通し致しますね」

「……式神か」

「お前は察しが悪すぎる」


神社とは反対側にある家の今に通された二人は予想以上に広い家に辺りを見渡す。
女子高生が一人で過ごすには広すぎる家だった。


「大きな家でしょう」

「確かに予想以上に大きな屋敷だ」

「主はとても立派に北条院家として使命をこなしております。たったお一人で」

「そんな事は分かっている。俺達は北条院を尋問するつもりでここへ来た訳ではない」


手慣れた手付きでお茶を用意した蒼は二人を見定めるように切れ長な目を鋭くさせる。
式神とは思えぬ程雪無に肩入れしている蒼はまるで我が子を守るように言葉を続けた。


「もし、もし主に害をなすのであれば私達はお前たちを決して許しはしない事をよく憶えていなさい」

「蒼」


徐々に狗の顔になった蒼を呼ぶ声がする。
後ろを振り返れば表情の読めない顔をした雪無が蒼を見つめていた。


「北条院、こいつを責めるな」

「えぇ、勿論です冨岡先生。蒼、ここはもういいから休みなさい。人間に化けていたから疲れたね」

「主…」

「大丈夫。ありがとう」


心配そうに雪無を見て頭を垂れた蒼の頭を撫でるとそのまま蒼い光となって消えた。
その様子を眺めていた雪無は戸の外へ置いていた何冊かの古い冊子を持ってくると二人の目の前へ置き、いつも自分が座っている場所へと腰を下ろす。


「こちらが我が家に伝わる伝書です。表沙汰にはしていないものですので重要な物は見せられませんがこれで納得して貰えたら」

「見せてもらおう」

「どうぞ」


雪無の言葉に冊子へと手を伸ばし、ぱらぱらと捲りながら中身を読む。

紙の古さや文字などを見ればそれが本当に今より昔に書かれたものだと分かる。
そこには代々退魔師と呼ばれた者の名前が連なり、北条院家の家系図が書かれていた。


「本当に実在したのか」

「はい。過去にも珠世さんのように手伝いをしてくださった方も居るのでしょうが、どこの書物にも私な家の事が載っていなかったのなら口の堅い人達だったのでしょう」

「お前の言う事は信じる。しかし何故式神を連れているとはいえ一人であのような事をしているんだ。危険と分かっているなら尚更お前のような子供が一人でするべき事ではないだろう」


そっと冊子を机の上に置いた伊黒は未だに読んでいる冨岡を放って雪無の目を見る。
色違いの瞳を鋭くさせ、まるで叱るかのような視線に彼女は怯むことなく首を傾げさせた。


「私以外、誰も居ませんから」

「どういう事だ」

「この力は北条院家全ての者に与えられるわけではないので。現に私の母親は何一つ受け継いだものは無かった。親戚に一人受け継いだ者はおりましたが死にました」


祖父や祖母以外の家族について他人事の様に話す雪無に違和感を覚えながら伊黒は黙ったまま話し始めた彼女の言葉に耳を傾ける。
いつの間にか読む事を中断した冨岡も雪無に視線を向けている。


「私達は妖を退治する者ですが、それと同時にソレらにとって何にも得難い至極の餌でもあるのです」


無感情に言われたその内容に伊黒も冨岡も眉を寄せた。
どこかぼんやりと自分の命を何とも思っていないかのような様子に伊黒は思わず口を開く。


「何故お前はそこまで無関心になれる」

「無関心な訳ではないんです。ただ、分からなくて」


伊黒の質問に少しだけ俯いた雪無はそっと持ってきた冊子を撫でながら答えた。


「妖なんて、余りに現実離れし過ぎていて」

「お前のその手で退治しているのにか」

「私はまだ誰かを目の前で殺された事がないから、自分が怪我しようとその存在にどこか曖昧さを感じてしまうんです」


ぺらりと開いた頁には妖怪によって人が殺されている絵が書かれていた。
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