アヤカシモノ語リ | ナノ
2

「姉さん。開けるぞ」


もうボロボロになってしまったお守り。
その中に入っている物を取り出す為に紐を横へ引っ張って口を開ける。

中に入っていたのは独鈷杵(とっこしょ)と呼ばれる法具。


「ほぅ。なかなか良い物を持っておる。あの女狐には効果があるぞ、冨岡殿」

「独鈷杵とは名を知っているが使い方は分からない」

「本来修行を必要とするが今回は異例である。儂がある程度の気の使い方とやらを教えよう」


大天狗は小さくなっていた独鈷杵を大きな指で掴むと先端部分を指差した。


「お主らは呼吸という剣技を用いるな?」

「あぁ」

「呼吸と言うのは吸って吐く、という人の子にとって当たり前の事ではあるがお主らはその吸って吐く行動を本来酸素を取り込むだけのものではなく身体の活性化に使っていると見た」

「その認識でいい」


たった一度共に戦いをしたというだけなのに、俺達の呼吸法を把握している大天狗に年の功と言うものを感じた。
妖相手にその表現が正しいのかは分からないが。


「その酸素を巡らせるようにこの剣先へ意識を集中させるのだ。良いか、まずはその小さき独鈷杵を構えよ」

「分かった」

「冨岡殿、ここだ」


右手に収まる独鈷杵を握り尖端へ集中する。
そのまま握力を込めると驚いた事に収まっていた筈のそれはどんどん大きくなり、日輪刀と変わらない程の大きさになった。


「…これは」

「元が小ささ故に信じられないだろうがこれは紛うこと無き法具よ。冨岡殿、雪無殿の使う鉄砲を覚えているか。彼女は弾へ気を込め妖を浄化している。独鈷杵はこの気によって妖を斬り払う事も、そしてその相手の霊気を奪う事も可能だ」


オーラのようなものが独鈷杵の剣先を覆い、辺りの瘴気を浄化しているのか呼吸もしやすくなった。


「だが冨岡殿は法具の使い方に慣れておらぬ。使い方を誤れば死ぬぞ」

「…分かった」

「ならば今は気を解くが良い。儂が瘴気を払う」


背負っていた薙刀を大きく振り払うと辺りの瘴気が散っていく。
空気の振動で気を失っていた煉獄の眉が動き側へ近寄る。


「煉獄、起きたか」

「…む、ここは」

「一時的に大天狗が瘴気を払っている。動けるか」

「煉獄殿とやら、体は大事無いか?」

「……うむ!すまない、随分と寝ていたようだ!不甲斐ない!!」


どうやら煉獄は煉獄で状況を飲み込んでくれたようで目の前に居る大天狗へ斬り掛かることはなく謝罪を述べた。
煉獄へ手を差し伸べた大天狗の手を取り起き上がると服の埃を払い落とし日輪刀を腰に差す。

早く雪無の元へ行かなければならない。


「雪無殿の場所は分かっておる。ついて参れ」

「あぁ」


雪無…
雪無。

ベッドの上でただ眠っているだけの雪無を姉さんに重ねた事もあった。

不安で、離したくなくて。
自分の立場すら忘れ抱き締めて眠る事でしか不安を取り除けなかった。

柔らかな頬も、たまに微笑む目元も好きでたまらないんだ。

だから俺は守りたい。

姉さんの時とは違う。
俺は守る為の力を手に入れた。


「むぅ、魑魅魍魎がたくさん居るな!よし、冨岡。君は先に行け!」

「此処は任せられよ。良いか、法具をあまり使い過ぎてはならん。雪無殿を頼むぞ」


場所を移動すれば湧き出る魑魅魍魎に刀を構えた瞬間、煉獄と大天狗が俺の前に出る。


「…頼んだ」

「奴の気配はこの先にある。行け!」

「また必ず地上で会おう!冨岡!」

「あぁ」


二人に頷いて俺ですら分かる嫌な気配の元へ走った。

やっと雪無の姿が見えたと思った時、目を疑う光景に腰に差してあった日輪刀を抜く。


「っ、」

「伊黒先生!!」


盛り上がった土が全てを諦めたかのような伊黒に向かって行く。
その前には狐と共に隣り合っていた雪無が悲痛な声で伊黒の名を呼ぶ。

間に合う。まだ、間に合う。


「水の呼吸、拾壱ノ型…凪」


泣かせたりはしない。
大切な人を。


「冨岡…」

「諦めるな」


諦めたって何もいい事は無いんだ。
だったら足掻いてみせろ。

目を見開いた伊黒へ向かって言葉だけを向ける。

俺達が掛けられた術は目が覚める前に解かれてしまっていたから分からないが、今の雪無の様子を見ると操られているのだろう。

それ以外で優しい彼女が人へ、仲間へ銃口を向けるはずがない。


「雪無を泣かせるな」

「貴様にそんな事を言われるとは…だが、腹立たしいがその通りのようだ」

「……っ、」

「ちっ、邪魔しやがって」


洗脳が解け始めているのか、銃を必死に下ろそうとする虚ろな瞳の雪無。
伊黒を見れば身体もそろそろ限界に近いようだが、立てないわけではなさそうだ。


「援護してほしい」

「…何か策でもあるのか?」

「姉さんが、」

「それは独鈷杵?」


独鈷杵を見せ伊黒の問いに首を縦に振る。
これは使いようによって気を吸い取ることも出来ると大天狗が言っていた。

それならあの狐の気を雪無から吸い取ればいい。

姉さんと言う単語に信用があると思ったのか珍しく素直に同調してくれた伊黒が無言で刀を構える。


必ず雪無を取り返してみせる。
だから力を貸して欲しい、姉さん。




つ  づ  く
 →

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -