3 翌日普段通りに登校した雪無に教師陣もいつも通りに接してくれた。 恐らく夜の仕事は内密にしているのだろう。 昨日見た時のような雰囲気はなく、一教師としていつもの学校生活を送っている。 「おはよう、北条院さん」 「委員長おはよう」 そしていつも通り委員長だけが雪無に挨拶をしてくれる。 他の生徒が遠巻きに自分を見ているのは知っているし、声を掛けづらいと思われている事は彼女自身理解していて、それを不便に思った事は一度も無かった。 (私話すの苦手だし、怒らせてしまっても悪いもんね) 不便ではないが、ほんの少し教室でグループになり楽しそうな声で話す生徒達は羨ましいと思っている。 そんな声に耳を傾けながら愛読している陰陽師を今日も開く。 そうして授業が始まり、あっという間に約束の昼休みになった。 雪無は昨日より少し重い自分の鞄を持ち、体育教官室へ向かう。 体育教官室についた雪無は一度ノックをして、冨岡の返事を聞いてから扉を開ける。 既にそこには冨岡と伊黒が椅子に座り待っていた。 「遅くなってしまってすみません」 「授業は終わったばかりだろう。たいして待ってもいないからさっさと座ればいい」 「はい、失礼します」 伊黒は自分の目の前の椅子を指差し、その場所へ言うとおりに座ると昨日より大きめな弁当箱を机の上に取り出した。 余りの多さに冨岡も伊黒も一瞬目を奪われるが、伊黒は普段雪無が食事をしている姿を見ていない為元からこれくらい食べるのだと自己解決して咳払いを一つする。 「それで、昨夜の件だが」 「今日…」 「なんだ?」 「ご、ご飯をたくさん作りすぎまして…宜しければ先生達も」 伊黒の話を遮った雪無は無表情な顔で一回り大きな弁当箱を二人に差し出している。 昨日の事を問われるのだと分かっていたが、また誰かとこうして昼食を取れるのだと思った雪無は内心とても喜んでいた。 真顔の割には緊張で手が震えている彼女を見て、今まで黙っていた冨岡はその弁当箱を受け取った。 「貰おう」 「冨岡も北条院も貴様ら話すつもりが本当にあるのか」 「すみません…勿論そのつもりで来ています」 「くっ…そうしょんぼりするんじゃない。俺も話が終わったら少しだけ貰ってやる」 「ありがとうございます」 無表情なりに落ち込んだのが雰囲気で分かったのか、少したじろいだ伊黒はふいと顔を背けて食べる意志があることを伝えると嬉しそうな雰囲気を醸し出した雪無に小さく息を吐いた。 冨岡は何を言うまでもなく手を合わせて弁当に手を付けている。 「食べながらでいい、答えろ。お前は昨夜何をしていた」 「…妖退治です」 「なぜそんな事をしている」 「代々北条院家では妖を退治することを使命としてきたからです。亡き祖父に変わり、今は私が一人でやらせてもらってます」 「北条院家か。昨日家を見て調べさせて貰ったがそのような情報は無かったぞ」 もぐ、とおにぎりを口に含んだ雪無は伊黒に小さく頷いた。 「先生達何方かお暇な時にでも家へいらして下さい。本来機密事項ではありますが、平安時代からの書物が家の書庫にありますので」 「冨岡、今日の見回り担当は誰だ」 「風と霞の二人だな」 「…仕方があるまい。宇髄は今日予定があると言っていた。お前と俺で北条院の家に行く。言っておくが仕方が無くだからな」 「分かった」 雪無を横目に会話する二人を残り少なくなったおにぎりを頬張りながらその様子を眺めた。 校内では二人の仲は良くないとされているが、どちらかと言うと伊黒の方が一方的にそんな雰囲気を醸し出しているだけでは無いのだろうかと思う。 ごくりと口の中のおにぎりを飲み干して、今度は雪無の方から口を開いた。 「先生達は鬼殺隊だとお聞きしました」 「…どこでそれを?」 「私が協力している警察の方からです。一つ、昨日の事で質問したい事があります」 「質問を許す」 「妖は死んだ後、瘴気を出すのはご存知かと思いますがいつもそちらは放置しているのですか?」 主に伊黒が答えるのだろうと思った雪無は真っ直ぐに彼を見つめる。 愈史郎から聞いた事や昨日見た通りなら、いつか大きな妖に出会した時危険な事になると知っているからだ。 「そちらがどのような知識で妖を斬っているのかは知りません。しかし瘴気を放置するとなれば先生達にも、一般人にも影響してしまう。それは北条院家として放っておくことは出来ません」 ぴしりと姿勢を正した彼女の姿は、ただの無口な女子高生では無く一人の使命を背負う者としての威厳があった。 伊黒も、会話をしながら食事をしていた冨岡もその姿に息を飲む。 「…俺達に妖を斬る以外の知恵は無い」 「おい、冨岡」 「紛れもない事実だ。北条院の様に結界を張ることも、瘴気を祓う力も俺達には無い」 今まで自分に向けられないと口を開かなかった冨岡が雪無を見ながら言葉を発する。 制止するような伊黒の声に横へ首を振りながら言葉を続けた。 「お前の力があれば、瘴気による被害も物理的な問題も解決出来るのか」 「…はい」 そんな冨岡の問いに雪無は小さく頷いた。 戻 |