1 三人が奈落で牛鬼と戦っている頃、一人の男とまだ幼さの残る女子が式神によって集められていた。 「伊黒先生、果生さん。突然のお呼び立て申し訳ありません」 「いい。要件を手短に話せ」 「雪無と冨岡、煉獄が奈落に落された。果生、お前が居りゃこじ開けられんだろ。伊黒、お前は戦力として呼んだ」 「雪無ちゃん達が奈落に…」 少女は目を見開き、自分を背負って話す式神へ小さく零す。 その様子を隣から見ていた伊黒は青年の式神を睨み付け、わざと聞こえるように舌打ちを鳴らした。 「伊黒先生、仕方ないのよ。彼女にはきちんと了承は取るつもり」 「了承などと生ぬるい言い方をしただけで強制的に開かせるつもりだろうが」 「ならてめぇも、果生ものうのうと雪無達を地上で待つって言いてぇのか?」 「やめなさい赫。強制はしないわ。勿論伊黒先生にも」 「俺は本職だ。強制もクソもない」 試す様な視線が二人を射抜く。 何でもないように伊黒が言い返すのを、果生は手を震わせながら異様な雰囲気のする何も無い場所を見つめた。 「お館様に連絡は取ってある。お前が開けずとも俺達がどうにかする」 「……」 「選べ。そう長い時間お前にくれてやる時間はねぇんだ」 三人の視線が果生へ集中し、答えを待つ。 「……わ、私は」 【傾国の美女】 「煉獄先生、こちらへ」 「すまない」 「目は見えるか」 「少しぼやけているが問題ない」 煉獄先生の手当てをしながら、私達は落とされた奈落の底から上を見上げる。 陽の光など一切無い。 あるのは永遠と燃える怨念の炎だけ。 「兎に角ここから出る事を優先させよう」 「…はい」 「ここは携帯も繋がらなければ、そこかしこに揺蕩う魂のお陰で気配も良く分からない。冨岡、雪無を頼む」 「分かっている」 手当てを終え、どこかへ繋がっている道を警戒しながら進んでいると前を歩く冨岡先生の手が私を掴まえる。 「離れるな」 「はい」 「うむ、二人は仲がいいな!」 「ほんとねぇ。妬けちゃうわ」 「!」 背後から聞こえた声に全員で振り返れば嫌な笑みを浮かべた妲己がそこに立っていた。 すぐ様距離を取り各々の武器を構えるが妲己は何することも無く口元を艶やかな袖で隠しながら控えめに笑う。 「役立たずの牛鬼を倒したみたいだけど、満身創痍じゃない」 「妲己…」 「随分と雰囲気が変わったみたいだけど、その様子じゃたいしたこと無さそうね」 笑い声を上げた妲己の他にまた別の様々な笑い声が聞こえてくる。 囲まれているのだと分かった私達は一瞬散らばるようにその場から跳び退けば、今まで立っていた場所から異様な煙が立っていた。 「少し遊んであげるわ」 「雪無!冨岡!」 「あぁ」 「はい」 煉獄先生の掛け声で襲い掛かってくる無数の気配に札を散りばめ手を叩く。 札から爆発音が響き、避けきれなかった妖が十数体消え、残りを先生達が斬っていくけれどどう考えてもこちらが不利な事は間違いない。 「きゃー、すごーい。でも力を上手く扱えてないのね?無駄打ちにも程があるわ」 「くっ…」 「安い挑発に乗るな。お前は前より強くなっている」 「今の浄化で場も空気も清くなった、助かったぞ!」 「あらあら、甘やかされて」 挑発に乗ってはいけないと分かっていても、妲己の言う事は間違っていない。 暴走しないように調整しているつもりでも気が安定しないからか、同じ様な力の配分でも全然別物になってしまう。 「ほらほら、ここは奈落。魑魅魍魎も鬼もたくさん居るのよ。遊んでる暇はないんじゃなぁい?」 「雪無!後ろだ!」 「っ!」 妲己に気を取られている間にいつの間に背後を取られていたのか、振りかざされた骨骨しい手に肩を切り裂かれる。 「アハハッ!駄目よォ、いくら私が綺麗だからって見惚れてたら」 「雪無、大丈夫…」 「大丈夫です、すみません」 傷を手で抑え心配してくれた冨岡先生に食い気味で答える。 悔しい、悔しい悔しい悔しい。 妲己は目の前に居るのに、手が、弾が届かない。 私を攻撃した妖へ距離を詰め額に押し当て弾を撃つ。 元々瘴気への耐性はある方だ。 この距離で浄化される一瞬の瘴気くらいなんてことはない。 「餓鬼ね」 「っ、うるさい!」 不利なこの地で戦う先生達も厳しそうだ。 目を細めてこちらを見る妲己に叫びながら少しでも近付こうと妖の群れを押し込んでいく。 「退け!」 「あらら」 「深追いするな雪無!」 「待つんだ雪無!」 私を静止する先生達の声が聞こえる。 でも私の体力だって無限では無いし先生達だって顔には出さないだけでキツイはず。 もう少し、もう少しで射程距離に妲己が入る。 地面を蹴り上げ、下に蠢く魑魅魍魎達の頭を台に大きく飛び上がった。 目下に妲己が見える。 「消えろ…!」 トリガーを引いて吹き出す血も気にせず弾丸を発射した。 戻 |