アヤカシモノ語リ | ナノ
3

「炎の呼吸 壱ノ型」

「水の呼吸 肆ノ型」

「不知火!」「打ち潮」


岩肌の様な地面を駆け牛鬼へ攻撃を仕掛ける先生達の援護をするように飛び上がり牛の頭を狙う。
銃口を向け何発か発砲しながら、次の行動へ移る。

お祖父ちゃんは一人だったけれど、私には先生達が居る。

何も言わなくても連携をこなす二人に遅れないよう、胸元に仕込んだ札を取り出し牛鬼へ投げ付けた。

それに気がついたのか、6本の足を使って二人の攻撃を交わしていた牛鬼が口を開き緑色の液体を札へ発射する。


「く、っ」


その液体に触れた瞬間、札が悪臭と共に塵になった。

液体が物体を溶かす煙も毒だと空中で身を捩り吸わないようにしながら地面に着地する。
その間にも先生達は猛攻を続けているが、硬い毛に阻まれているようだった。

奈落と聞いた以上ここに留まる時間が長ければ長い程瘴気に侵されてしまう。

ここは人が居るべき場所ではない。
それ故に酸素は薄く、呼吸を使って戦う先生達にとっても状況が悪い。

札で浄化した所で効果は少ししかないだろう。
ここの瘴気は所謂源泉のような物。

妖から出る訳ではなく、この地全てから出ているものだ。


「赫と蒼が居れば…っ」


二人が作った結界ならば瘴気ももう少しマシだというのに、そんな事を思っても仕方が無い。
全てを出し切るわけには行かないけれど、ここで手間どっては本末転倒になる。


「冨岡先生、煉獄先生!」


息の上がってきた先生達の背中に札を貼り両手を叩く。
少しでも二人の周りが清浄な気で包まれるよう気を送り込む。


「これは!」

「息がしやすくなった」

「これで少しはマシになると思います」

「うむ、助かる!」


解放しただけで私はまだ自分の力のコントロールさえ出来ずにいる。
弾を替え2丁の銃を構えて一際重い弾丸を浴びせると牛鬼は舌打ちした。


「妲己様に聞いてはいたが力を解放したか」

「力をセーブして貴方達には敵わないもの」

「本気を出せば我らに敵うと?」

「敵う敵わないではない。勝つんだ!」


私に顔を向けていた牛鬼の後ろに入り込んだ煉獄先生が刀に炎を纏わせ横に薙ぎ払う。
気配に気が付かなかったのだろう牛鬼の足が一本飛んだ。


「人間共が、ちまちまと!」

「――!」

「雪無!」


煉獄先生を無視した牛鬼は私へ手を伸ばし、寸前の所で掴まれる事を回避し札を貼り付ける。
斬られたはずの足は徐々に回復しているけれど、私が浄化すればもう二度とその足は再生しない。


「貰った!」

「!」


札と共に牛鬼の手を撃ち抜けば一発しか弾丸を使っていないのに大きく消し飛んだ。
その威力に自分自身さえ驚いたけれどそうもしていられない。

直ぐに態勢を整え大きく宙へ飛び上がる。
余り近い距離での戦闘は力を解放したところで不利に変わりはないと背中に刀を突き立てた冨岡先生に目をやった。


「雫波紋突き」


水の上で舞う様に滑らかな動きの義勇先生と、豪胆な動きで演舞のように牛鬼の硬い皮膚を焼く煉獄先生の二人に一瞬魅入ってしまう。

確実にダメージは与えられている。
そう思って銃口を向けた瞬間、真後ろに降り立つ冨岡先生へ首を回転させた牛鬼の口がニヤリと嫌な弧を描いた。


「冨岡先生!」

「冨岡!」

「っ」


ビシャ、と音が響いて冨岡先生を庇った煉獄先生に毒が掛かる。
攻勢に転じられたと思った隙にいつの間にか体を赤黒く染めた牛鬼は笑い声を響かせた。


「ぐっ…」

「煉獄!」

「動揺するな!」


ビリビリと鼓膜に響く煉獄先生の声に焦っていた私の思考がぴたりと落ち着いていく。
毒を食らった左目が焼けるように痛い筈なのに、駆け寄ろうとした私達を静止する煉獄先生はいつものように威風堂々としていた。


「攻撃の手を休めるな。俺ならば大丈夫だ」

「煉獄先生、せめてこれを!毒を掛けられた所へかけてください!」


持ってきていた御神水を煉獄先生へ渡し、唖然としていた冨岡先生も動き出す。
完全に治癒する事は無理だけれど何もしないよりは浄化した方がいい。

目が合った冨岡先生へ頷き、弾を補充して牛鬼へ向かって撃つ。

恐らく牛鬼は私の攻撃を嫌がる。
冨岡先生の刀は効きはするけれど浄化して倒さなければ意味がない。


「無駄だァ!!全員ここで喰ってやる!」


吠えた牛鬼が残った蜘蛛の脚で私に狙いを定め襲ってくるのを掠める程度で何とか避ける。
それでも私は牛鬼に向かう足を止めなかった。

私の弾は浄化する役目がある。
だからこそ妖はそれを嫌い、こちらを倒そうとする。

ならそれを利用すればいい。


「冨岡先生!!」

「水の呼吸 参ノ型 流流舞い」


牛鬼の脚が頬を掠めて血が飛び散るけれどそれすら気にせず懐にあった御神水を近くまで来ていた冨岡先生の刀に掛ける。

舞う様に脚を斬り離した冨岡先生の刀は御神水のお陰で浄化が出来るようになっていた。

段々と斬れ味の増した冨岡先生が最後に牛鬼の頭を飛ばし、吹き出る瘴気を札で浄化する。


「なん、だと…!」

「さようなら」

「ぁ…ァァア…妲己様、妲己様ァァアア!!」


絶叫した牛鬼はそのまま灰のようになって消えていった。




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