アヤカシモノ語リ | ナノ
2

「うむ!素晴らしい家族愛だ!」

「!?」

「呼び鈴は鳴らしたのだが出て来なかったものでな、心配になって邪魔してしまった。すまん!」


大きな瞳から滝のような涙を流した煉獄先生の声に私達は驚いて身体を一斉に離してしまった。
気配も無く、式神二人が気付かないとは流石というか何というか。

けれど本当にどこか申し訳無さそうな煉獄先生に思わず噴き出してしまって、不満げな視線を向けていた二人と先生が振り向く。


「いいえ、お出迎え出来ずこちらこそ申し訳ありませんでした」

「………」

「煉獄先生?」

「よもや、君はそんな風に笑うのか」


一瞬目を見開いた煉獄先生は直ぐに目を細めると私の頭を撫でてくれる。
その手つきがとても優しくて何だか照れくさい。


「冨岡と伊黒が心惹かれるのも頷けるな」

「そ、そんな」

「初めに会った頃より随分と表情が良くなった。謙遜する事でも照れる事でもない。自分にとっていい刺激となる者達に出会えた事を誇りなさい」

「…はい」


わしわしと撫でる手は大きく動いているのに、不思議と雑だとは思わなかった。
人に触れられる事が、話す事が苦手だった私は先生達と出会い、果生ちゃんという友達が出来た。

それはとても素敵な事だと自分でも思っている。

素直に頷いた私に満足そうな顔をした煉獄先生は直ぐに表情を真剣なものに変えた。


「話は変わるが先程冨岡から不思議な空洞を見つけたと連絡があってな。近くに居た俺が迎えに来たのだが、共に来てくれるか?」

「空洞…?」

「うむ。俺も詳細は聞こうと努力したのだが如何せんあの冨岡だ。ちっとも分からなかったが、急を要するものだと言う事だけは分かった!」

「分かりました。そういう事ならすぐに出ましょう。赫、蒼」

「「はっ!」」

「行こう」


そう言えば真剣な顔つきになった二人が強く頷く。
掛けてあったホルダーに手を伸ばし、札を多めに持って扉の前で待機してくれている煉獄先生の元へ向かった。

場所は既に煉獄先生の携帯に送信されており、そう遠くない場所だと判断し車に乗らず自分達の身一つでその場所へ駆ける。


「冨岡の様子がおかしいな」

「どうしてです?」

「君と合流したと伝えた筈なのに連絡が返ってこない」

「…急いだ方が良さそうですね」

「うむ」


私と煉獄先生は強く地面を蹴り民家の屋根へ降り立つ。
日中と言う普段人が出歩く時間にこんな事は出来る限りしたくはないけれど、緊急なのであれば仕方が無い。

私は懐に入れていた携帯を取り出し珠世さんへと電話を掛けた。

数コールで出てくれた珠世さんに挨拶を飛ばして要件だけを伝える。


『空洞ですか』

「はい。近隣の住民の方を状況次第で避難させて貰いたいのですが」

『分かりました。詳しい場所が   、……』


ふと珠世さんの声が聞こえづらくなり、携帯に目をやると一瞬で視界が真っ暗になった。


「雪無!」

「っ、」


落ちていく感覚と共に煉獄先生の声だけが耳に入る。
赫と蒼の気配はしない。

空中で携帯を懐にしまい、落ちながらも私へ手を伸ばす煉獄先生の手を何とか掴んだ。


「ここは」

「煉獄!雪無!」


ふいに下から冨岡先生の声が聞こえてそちらへ顔を向ければ地面が急に見える。
一瞬で煉獄先生が態勢を整え物凄い音を立てながら着地した。


「ぬっ!ジーンとする!」

「す、すみません」


あの衝撃でジーンとするだけで済んだのかと思いながら私を降ろしてくれる煉獄先生へお礼を言うと駆け寄ってきた冨岡先生に腕を引かれる。


「怪我はないか」

「はい、煉獄先生のお陰で」

「なら良い」


身体を見回した冨岡先生は小さく頷くと、私達以外に聞こえる足音に振り向く。


「ようこそ、奈落へ」

「…お前は」

「私の名前ですか?それならばそちらのお嬢さんが知っておいででしょう」


蜘蛛の体に牛の頭。
狂気めいた笑顔に背筋が凍りつくのを感じながらその妖の名前を呼ぶ。


「…牛鬼」

「正解」


妖の中でも1番希少の荒く、凶暴だと聞く。
どうやら紳士ぶった話し方はしているけれど、牛鬼は人を喰い非常に強い妖であることは知っていた。
お祖父ちゃんでさえ、封印するのも大変だと昔聞いたことがある。


「お前はお祖父ちゃんが封印したはず」

「妲己様が解いてくださったんだ。なんと慈悲深く、心の清いお方だろうか」

「アレを清いだなどと表現するか。もう一度言葉の勉強をする事をおすすめする!」


堂々と言い切った煉獄先生に頷きながらそれぞれの武器に手を掛け戦う準備を始める。


「妲己様を馬鹿にするなよ、たかが雑魚風情が!」

「本性を現したか」

「冨岡先生、煉獄先生。牛鬼は猛毒を持っています。どうかお気をつけて」

「「了解」」


いつもハツラツとした煉獄先生もこの時ばかりは真剣な顔になり、私達は一斉に牛鬼へ掛かった。
 

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