1 私には普通の人が見えないナニカが見えた。 おどろおどろしい顔をしたソレや 神様の使いのような子。 小さな私には、それが異常なのだと気付くまでにとても時間がかかった。 お父さん、お母さん。 周りの友達、親戚の人。 皆が私を気味悪がった。 どうして? 見えるモノを見えると言って何が悪いの? 助けて欲しいから、 伝えたと言うのに。 【解放】 学校も休みの日、私は朝早く神社の奥にある祈祷所で手を合わせていた。 側には蒼と赫も控えている。 「主、本当に宜しいのですか」 「うん」 「…ジジイが遺した最後の印だぞ」 「それでも、私の意思は変わらないよ」 「ならば、私共は言う事はございません」 いつもは楽しい家族のような雰囲気も消え、久し振りに袖を通した巫女の装束を握り目の前に置いてある短刀を眺めた。 解呪の方法は簡単。 私の血を持ってお祖父ちゃんからの封印を塗り替え消すだけ。 「行くよ」 短刀を手に取り印へと切っ先を向ける。 左手を柄に近い場所で切り、先端を下に向ければ私の血が印へと流れ着いた。 「ごめんね」 そう呟いて、印の中心へ短刀を突き刺した。 ジリジリと焼けるような痛みに短刀を落としてしまいそうになるけれど、話してしまえばこの呪いを解呪する事は出来ない。 「ぐ、っ…」 バチリと激しい音がして、私の短刀と血を拒絶するかのように印が浮き出て来る。 ここまで来たらもう少し。 こんなに強い結界を張ってまで私にこの印をつけたのは、ただただ暴走から守る為だけではなかったんだと思った。 この結界すら破れないような私では、力は制御できないというお祖父ちゃんからの忠告だったのかもしれない。 亡くなってしまった今、私の良いようにしか捉えられないけれど、何となくそう思った。 「主!」 「ありがとう、お祖父ちゃん。お祖母ちゃん」 印を守っていた結界にヒビが少しずつ入っていく。 短刀も刃こぼれし始め、もう二度と使えないだろう。 お祖母ちゃんの手紙と共に入っていた短刀と、お祖父ちゃんの遺してくれた私を守るための印。 それを無くしても私は力を使わなくてはいけない。 お礼を呟いた瞬間、結界が光を放ち辺りが見えなくなった。 「主!!」 赫と蒼の声が聞こえたけれど、私はそのまま傾く身体を持ち直せず床へ倒れた。 側に寄って私を抱き起こす赫と、心配そうに覗き込む蒼へ向かって目を細めれば少し涙目の二人はそれぞれの笑顔を見せてくれる。 「成功した?」 「印は無くなってますよ」 「そっか」 今まで私を守ってくれていたお祖父ちゃんの印。 解呪したのは自分だけれど、少しだけ寂しくなって滲んだ視界に目を閉じる。 ポタリと床に落ちた涙を最後にしようと心に決めて。 そのまま眠りに落ちた私は、目が覚めた時自分の部屋のベッドの上に居た。 赫と蒼が運んでくれたのだろうと思いながら身体を起こすと側に置いてあった携帯が着信を告げる。 「はい」 『雪無!』 電話の相手は煉獄先生だった。 もしかして伊黒先生が目を覚ましたのかと思いながら電話を取ると大音量が耳に響いて思わず携帯を遠ざける。 「こ、こんにちは。煉獄先生」 『うむ!こんにちは!急ですまないが今から会えるだろうか』 「今からですか?はい、勿論です」 『では少し待っていてくれ!』 ざっくり過ぎる内容に戸惑いながらも返事をすればそれで満足したのか電話は一方的に切られてしまった。 急な用事でもあるのだろうか、そんな事を思いながら巫女の装束からスーツへと着替える。 私服に着替えるよりは先生と出歩く以上こちらの方が人目を気にせずに済むだろう。 「主、もう起きて大丈夫なのですか?」 「うん、運んでくれてありがとう」 「どこへ行くんだ?」 「分からない」 物音に気がついたのか、二人が顔を出し私の心配をしてくれる。 そんな二人がいつでも側にいてくれた事を感じ、自分にはお祖父ちゃんとお祖母ちゃんだけではなかったと考え直した。 「ねぇ、蒼、赫」 「?」 「いつも側に居てくれてありがとう」 お祖父ちゃんやお祖母ちゃんが亡くなった時、泣いてばかりだった私をいつでも側で見守ってくれたのは誰でもない二人の存在だった。 式神だろうが何だろうが、私にとってかけがえのない家族。 どうしても二人に触れたくなって抱き着けば優しく抱き返してくれる。 「こちらこそ。私達をこうして家族と思っていただける優しい雪無様に会えて蒼は幸せです」 「照れるじゃんか、雪無!今更だろ!」 「な、名前…」 「ふふ」 「何だか呼び慣れねぇしこう、ここら辺がムズムズする」 嬉しそうに笑う蒼に、淡く頬を染めた赫。 私の名前を呼んでくれたことが凄く嬉しくて、でも言葉には出来なくて抱き着いてる腕に少しだけ力を込めた。 戻 |